上 下
11 / 18

商業都市《ボムフォード》

しおりを挟む
「いやぁ、世話になったな嬢ちゃん方」

 ウォーターリーパーを追い払った後、大きなトラブルもなくアタシたちは無事に商業都市《ボムフォード》の東門前に辿り着いていた。
 乗合馬車から降りたし、ローブのお兄さんとその幼馴染のおじさんとはここでお別れだ。

「いえいえ、こちらこそ。あんまりいいアドバイス出来なくってすみません」

 折角、相談を請け負ったのにカイルが意地悪言うだけで終わっちゃったから、アタシは二人に深々と頭を下げた。あとカイルの後頭部も掴んで頭を下げさせた。

「もし今後、俺たちの故郷に寄ることがあれば顔だしな。俺は大抵、鍛冶屋にいるからよ」
「はい、是非っ!」

 おじさん鍛治士さんだったんだ。力仕事だよね。だからムキムキなのかな?

「ほら、おめぇも挨拶ぐらいしろって」
「僕は別に……。……」

 お兄さんは気難しそうな顔でそっぽを向いていたけど、おじさんに促されて渋々といった様子でアタシたちの方を見た。でも挨拶とかはしないで、ぶっきらぼうに手を突き出してくる。
 その手の平には10ガルコインが乗せられていた。

「ほら」
「えっ? えっ?」
「何だよ、いらないのか?」
「い、いえっ! 頂戴しますっ!」

 てんてこ舞いな珍道中だったのに、お代を頂けるなんてっ!
 アタシは困惑しながらも嬉々として10ガルコインを受け取った。

「ぶふっ! おめぇも素直じゃねぇなぁっ!」

 おじさんは不器用なお兄さんを見てげらげら笑っている。そのおじさんもアタシに10ガルコインを手渡してきた。

「嬢ちゃん、これは俺からな」
「ええっ!? で、でも」
「いいから貰っときな! ……あいつに発破かけてくれてありがとよ。あいつ外面気にして、なかなかがむしゃらになれない奴だったからな」

 おじさんはお兄さんに聞こえないよう小声でそう言った。お兄さんプライド高そうだから気を遣っているんだろうなぁ。

「それとこれは余計なお世話かもしれねぇが、《ボムフォード》は人口が多いから気を付けた方がいいぞ。銀髪の兄ちゃん」
「……俺か?」
「あぁ。少数民族ってだけで差別的な態度を取ってくる奴がいるのは知っているだろが……。兄ちゃん元は剣闘士なんだろ?」
「よくわかったな」
興行師ラニスタがどうのって喋っていたし、逞しい体してるし、言動も全体的に物騒だったからなぁ。ただそういう話は町中じゃ控えた方がいい。剣闘士はファンも多いだろうが一般庶民からすれば娼婦並みの卑業って思われているからな、吹聴すんのはトラブルの元だ」
「……。気を付ける」

 奴隷とか娼婦は卑しい扱いされているのは知っていたけど、剣闘士もそうなんだ。アタシも勉強になっちゃった。

「おい、いつまで長話しているんだ」
「おっ、悪い悪い! それじゃな、嬢ちゃんたち!」

 お兄さんに急かされて、おじさんたちはひと足先に《ボムフォード》の門を潜って町中に入って行った。
 アタシは大きく手を振って二人の姿が見えなくなるまで見送って、それからカイルの方にずいと詰め寄る。

「ところでカイル、橋で大波起こしたでしょ?」
「……。ナンノコトダカ」
「やましくないなら顔逸らさないでっ! 目を見て喋ってっ!」

 カタコトで喋っているし視線が斜め上を向いているし、嘘ついているのバレバレだけどさっ!

「も~っ! おかしいと思った! 大波被った割にアタシたちは無傷でウォーターリーパーはダメージ受けるって、そんな都合のいい波、偶然じゃ起きないでしょうっ!!」

 お兄さんたちの前じゃ話せなかったけど、もう別れたからガンガン追求しちゃう!

「そもそもモンスターが近くにいるのわかっているなら直ぐに教えて! 遭遇しちゃったら悠長にしていないで! 何より他人に無茶振りしないの!!」
「心配性だな、マーシャは」
「ヒーラーがいないのに怪我をしたら大事になっちゃうでしょ~っ!?」

 ちょっとの怪我でも破傷風になったりで直ぐ致命傷になるんだから、ヒーラーがいない中で無茶は厳禁だ。そのヒーラーの能力にも限度があるんだし、なるべく怪我は避けるに限る。
 これ冒険者の基本なんだけどなぁ。あっ、でもカイルはまだ冒険者じゃないから知らないのかな? じゃあ今のうちに鉄則叩き込んでおこうっと。

「怪我をしないっ! 無茶をしない、させないっ! わかった!?」
「わかった、わかった」
「ううう、まだちょっと怪しい感じがするけど……。わかったんならそれじゃ、いざ《ボムフォード》へ!」

 そうしてアタシたちは門番の入門手続きを済ませて、いよいよ商業都市《ボムフォード》へ足を踏み入れた!
 そこは石畳で舗装された街道が伸びていて、その上を沢山の人々が往来していて、街道沿いの建物はほとんどお店のようだった。町の中心にそびえ立つ階層が十階近くある、お空に届きそうな建物もお店で、複数の店が入っているんだとか。町が広いからって門番に貰ったマップに書いてある。訪問者にマップを配るぐらい栄えていて、広い町なんて初めて来るからワクワクしちゃうっ!

「わ、わぁ~っ! どこから回ろうかなぁ。迷っちゃうね、カイルっ!」
「まず真っ先に行くべきところがあるんだが……。忘れているな、マーシャ」
「えっ、どこどこ?」

 そんなところあったけっけ? って思っていたら、カイルは呆れた様子でこう言った。

「冒険者ギルド」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった

ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」  15歳の春。  念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。 「隊長とか面倒くさいんですけど」  S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは…… 「部下は美女揃いだぞ?」 「やらせていただきます!」  こうして俺は仕方なく隊長となった。  渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。  女騎士二人は17歳。  もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。   「あの……みんな年上なんですが」 「だが美人揃いだぞ?」 「がんばります!」  とは言ったものの。  俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?  と思っていた翌日の朝。  実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた! ★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。 ※2023年11月25日に書籍が発売!  イラストレーターはiltusa先生です! ※コミカライズも進行中!

ハズレギフト『キノコマスター』は実は最強のギフトでした~これって聖剣ですか? いえ、これは聖剣ではありません。キノコです~

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
孤児院生まれのノースは、十歳の時、教会でハズレギフト『キノコマスター』を授かってしまう。 他の孤児院生まれのルームメイトたちは『剣聖』や『魔法士』『鍛冶師』といった優遇スキルを授かったのに、なんで僕だけ……。 孤児院のルームメイトが国に士官されていくのを横目に、僕は冒険者として生きていく事を決意した。 しかし、冒険者ギルドに向かおうとするも、孤児院生活が長く、どこにあるのかわからない。とりあえず街に向かって出発するも街に行くどころか森で迷う始末。仕方がなく野宿することにした。 それにしてもお腹がすいたと、森の中を探し、偶々見つけたキノコを手に取った時『キノコマスター』のギフトが発動。 ギフトのレベルが上る度に、作る事のできるキノコが増えていって……。 気付けば、ステータス上昇効果のあるキノコや不老長寿の効果のあるキノコまで……。 「こ、これは聖剣……なんでこんな所に……」 「いえ、違います。それは聖剣っぽい形のキノコです」 ハズレギフト『キノコマスター』を駆使して、主人公ノースが成り上がる異世界ファンタジーが今始まる。 毎日朝7時更新となります! よろしくお願い致します。 物語としては、次の通り進んでいきます。 1話~19話 ノース自分の能力を知る。 20話~31話 辺境の街「アベコベ」 32話~ ようやく辺境の街に主人公が向かう

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

転生家族の異世界紀行 ~中流家庭が異世界で大貴族になりました~

安曇野レイ
ファンタジー
ブラックなIT企業で働く主人公。人生で初めての家族旅行に出発したものの、あおり運転を受け、さらに逆走してくる車に遭遇し、大事故で一家は死に瀕する。 気がつくとそこはワームホールの真っ只中。 固い絆で結ばれた仲良し家族は、異世界でも挫けず、力を合わせて困難や危機に立ち向かっていく! はたして一家は異世界を救い、元の世界へ帰ることができるのか。

出戻り国家錬金術師は村でスローライフを送りたい

新川キナ
ファンタジー
主人公の少年ジンが村を出て10年。 国家錬金術師となって帰ってきた。 村の見た目は、あまり変わっていないようでも、そこに住む人々は色々と変化してて…… そんな出戻り主人公が故郷で錬金工房を開いて生活していこうと思っていた矢先。王都で付き合っていた貧乏貴族令嬢の元カノが突撃してきた。 「私に貴方の子種をちょうだい!」 「嫌です」 恋に仕事に夢にと忙しい田舎ライフを送る青年ジンの物語。 ※話を改稿しました。内容が若干変わったり、登場人物が増えたりしています。

最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます

わたなべ ゆたか
ファンタジー
高校一年の音無厚使は、夏休みに叔父の手伝いでキッチンカーのバイトをしていた。バイトで隠岐へと渡る途中、同級生の板林精香と出会う。隠岐まで同じ船に乗り合わせた二人だったが、突然に船が沈没し、暗い海の底へと沈んでしまう。 一七年後。異世界への転生を果たした厚使は、クラネス・カーターという名の青年として生きていた。《音声使い》の《力》を得ていたが、危険な仕事から遠ざかるように、ラオンという国で隊商を率いていた。自身も厨房馬車(キッチンカー)で屋台染みた商売をしていたが、とある村でアリオナという少女と出会う。クラネスは家族から蔑まれていたアリオナが、妙に気になってしまい――。異世界転生チート物、ボーイミーツガール風味でお届けします。よろしくお願い致します! 大賞が終わるまでは、後書きなしでアップします。

大手ギルドの追放部門~追放するのって大変なお仕事?~

月ゲッコウ
ファンタジー
大手ギルドでは様々な人達が働いているのを知っていますか? 戦闘に特化した者、情報収集に特化した者、魔法を研究する者、冒険者のサポートをする者などなど・・・ 悪さをするものだって中にはいるだろう 悪気が無くても事件を起こすものもいる その中でも特に迷惑な連中を追い出すため、新しい部門設立された その名も『追放部門』 ギルドを宣伝し、どこにも所属していない冒険者を勧誘する『広報部門』に所属していた主人公・マークはその仕事ぶりを評価され、新しく設立された『追放部門』の隊長に任命される 仲間たちは癖のあるものばかり でも僕は評価するし、なんならフォローもする え?追放するのって証拠がいるんですか? 偉い人の一存だけでは印象も悪いって? まさか『追放部門』の仕事がこんなに忙しいだなんて・・・ 高い給料に釣られて二つ返事で引き受けたことに後悔しそう 主人公・マークは『追放』で様々な人々に出会う

伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です

カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」 数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。 ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。 「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」 「あ、そういうのいいんで」 「えっ!?」 異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ―― ――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。

処理中です...