虚言癖が酷くてパーティーから追放されたので、エセ占い師になって荒稼ぎしようと思います!

天海二色

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エセ占い師と探し物

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「ふあぁ……。随分と早い朝だな、マーシャ」

 早朝。アタシはまだ寝ていたカイルを叩き起こして宿屋を後にしていた。
 まだ町を歩く人はまばらで、広場で開かれている朝市の露店がちらほら営業を始めているくらいで、活気がない時間帯。

「いいから早く歩くっ! 昨日のおじさんにまた因縁つけられても面倒だし、今のうちに町を出るのっ!」
「あんな雑魚、何度でも返り討ちにしてやるぞ?」
「積極的に揉め事起こそうとしないでっ!?」

 好戦的なカイルを連れて、アタシは朝ごはん代わりのりんごを朝市の露店で買うとさっさと町を後にする。
 向かう先は隣町っ! といっても、歩いて6時間かかるんだけど……。馬車に乗せて貰うお金が勿体ないし、仕方ないっ。
 幸い、道中モンスターに遭遇することもなく、お昼ぐらいには隣町に着いた。ギルドに続く街道にあったベーカリーでカイルと焼きたてパンを食べた後、アタシは目当ての商業ギルドの扉を開けたのだった。

「はぁ~。ここが話に聞いていたギルドか」
「そうだけど……。カイルはここじゃなくて隣の冒険者ギルドに行ったら? 登録したら身分証にもなるタグが貰えるし、剣闘士をやっていたんならモンスター退治の依頼もこなせるんじゃない?」
「それもいい案だな。が、登録料の持ち合わせがない」

 カイルは腰に手を当てて堂々と言った。無一文なことをそんな自信満々に宣言しなくってもいいのに……。

「それから、……」
「それから?」
「……字が、読めないし、書けない」

 今度は目を泳がせて、歯切れ悪くカイルはそう言った。登録するだけなら受付の人がやってくれるからいいけれど、依頼は基本的に掲示板に貼られた依頼書を見て自分に合ったものを選ぶ仕組みになっているから、文盲の人が一人で受注するのは難しい。
 どんな依頼があるのか逐一、受付で聞く手もあるけど手間だし、それに受付の人だっていつも空いている訳じゃないから、確かに躊躇っちゃうか。

「もー。後で登録料貸してあげるから、タグだけでも貰っておいてね? 身分証がないと町の出入りもスムーズにいかなくなって、何かと不便なんだから」
「……、助かる」

 冒険者ギルドは後で寄るとして、今はこの町の出店許可を貰わないと! 前回の反省を活かして、今回はただ安い場所じゃなくて治安が良さそうな所をお願いしよう。さっき寄ったベーカリー辺りとか人通りが多いし日当たりも良くてよさそうだったから、多少値が張ってもその辺りにしてみようかな。
 占い師としてのアタシの知名度ってゼロだし、まずは色んな人に顔を覚えて貰うところから頑張ろう!
 そう決意して、懐が寂しくなりつつもアタシはギルドの前の通り、ベーカリーの近くっていう好立地な場所に露店を構える許可を貰って、意気揚々と商業ギルドを後にした。

「よし、頑張るぞーっ! あ、カイルはどうするの? 冒険者ギルドの登録、先にすませちゃう?」
「いや、今から依頼を受けるには半端な時間だろうし、今日はお前のひっつき虫しとくよ」
「ふーん。いいけど、絶対に邪魔はしないでね!」
「わかってる、わかってる」

 アタシは指定のスペースにレンタルした机と椅子を置いて、『占い屋』って大きく書いたテーブルクロスを敷いてから椅子に座った。これで勘違いおじさんは来ないはずっ。
 後はお客さんが来るまで待てばいい。もう不良の相手は懲り懲りだし、優しそうなお姉さんとか来ないかなぁ。

「呼び込みもなしに人が来るのか?」
「静かにしてカイル。占い屋さんはミステリアスな雰囲気でいた方がお客さんが来るものなのっ!」
「そうか? テキトー言っているようにしか聞こえないが」
「アタシのやり方にいちいち口出ししないでよっ」
「あのぅ」

 アタシの後ろに立つカイルと小声で言い合っていると、早速お客さんが話しかけてきた!
 しかもおっとりとした上品そうなお姉さん!

「はい、何でしょうか!」
「ここで占っていただけるのですよね? いくらでしょうか?」
「初回ご利用ですと、今ならなんと10ガルです!」

 リピーターができたり評判が上がるまではとにかく安くして、手軽にご利用してもらわないとね。
 この値段設定で上品そうなお姉さんが依頼してくれるかドギマギしながら待っていると、お姉さんは可愛い花柄のお財布から10ガルコインをテーブルに置いてくれた。

「お支払いありがとうございます! それで、何を占いましょうか? 金運とか恋愛運とかの運勢? それともお仕事について?」
「なくし物を」

 お姉さんは悲しげに話す。

「我がアトネ家に伝わる家宝《ドラゴンの涙》という魔石がどこにあるのか、占って欲しいのです」

 しがない占い師フォーチュンテラーには荷が重すぎる占いの依頼を。
 姓名を持っているってことはお姉さんは貴族とか富豪とかいいところのお嬢さんってことになるし、そんな人が家宝なんて大事なものの行方を道端で露店やってる見ず知らずの小娘に訊く?

「ええっとぉ。探し物はお巡りさんや探偵にお願いした方がいいんじゃないですかね?」
「もう既にお願いしています。でも一向に見付からなくって……。ですので、今までと違う手段で探してみようと思ったのです」

 藁にも縋る思いって感じで、お姉さんは切実な表情でアタシを見つめてくる。
 うぅ、ここでテキトーに占ってやり過ごすことはできるけど、アタシの良心がチクチク痛んで苦しい。誰も見付けられていない物の行方をアタシが当てられる気はしないけど、少しでもそれっぽい場所を答えてあげた方がいいよね。

「家宝がなくなっちゃった、ってことは盗まれてしまったんですか?」
「いいえ、盗まれてはいないはずよ。町の外に持ち出して使用していたから」
「町の外?」
「ダンジョンの下層から出てきたモンスターを追い払うのに使ったの。《ドラゴンの涙》は魔法を強化してくれるから、町の為にもこうしてたまに持ち出すことがあるのよ。でも戦闘が終わった後、見当たらなくなってしまって……。指輪として肌身離さず身に付けていたのに、私、どこに落としてしまったのかしら」

 はらはらと涙をこぼすお姉さんにアタシは胸を締めつけられる。アタシも昔雑用をしていた仕事場で備品を無くしちゃって、雇用主に沢山怒鳴られたことがあるから、自分事みたく感じちゃう。
 お姉さんもアタシが見つけられるとは思っていないみたいで、瞳には希望も覇気もない。アタシが出来るのはちょっとでも慰めになる占いだと思って口を開こうとしたら、

「おい、その魔石を使用していたのはお前か?」

 その前にカイルが話に入ってきた。

「ちょ、ちょっとカイル! お客さんをお前呼ばわりしないっ! それに邪魔しないでって言ったでしょ!?」
「いいから。……魔石を使用していたのは誰だ」
「ええと、私ですが」
「そうか。なら、見付けられるかもしれないぞ」

 お姉さんの返答にカイルにっと口角を上げて、勝気な笑みを浮かべる。
 ど、どう言うこと!?
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