虚言癖が酷くてパーティーから追放されたので、エセ占い師になって荒稼ぎしようと思います!

天海二色

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エセ占い師の魔法使用!

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 初めてのお客さん、スキンヘッドおじさんに連れて来られたコロシアムの雛壇式観戦席は人で溢れていて、かんかん照りな天気ってだけでも暑いのに、熱気だけでのぼせそうだった。

「お、お客さん。アタシは未来視が使える予言者じゃないから、占いが外れても返金対応はしませんよ~……?」
「ああん? 今更何弱気な事言ってやがる」
「そう言われましても、結果が出るまでお付き合いする必要は薄いかな~って……」

 アタシはさっさとずらかりたいから、スキンヘッドおじさんの機嫌を損ねないよう気を付けながら帰りたい旨を伝える。
 けどスキンヘッドおじさんをそれを鼻で笑って却下してきた。
 
「そんな連れないことを言うなよ、嬢ちゃん。あんたを信じて二十五番に賭けたんだ。だから見事に当たったら幾らか取り分をやる」
「えっ!? それはまたとない提案……! いいんですか!?」
「おうとも」

 スキンヘッドおじさんは快活に笑ってアタシの背中をバシバシ叩いた。
 こんな気前のいいおじさんだっただなんて! アウトロー不良だって見た目で判断しちゃ駄目だねっ!

「その代わり、賭けに負けたら全額保証して貰うからなぁ?」

 ……前言撤回。やっぱりこのおじさんアウトロー不良だぁっ!!
 アタシを連れてきた理由それだなぁ!?
 
「そ、そんなこといきなり言われましても! 大体、いくら賭けたんですか!?」
「ざっと3,000ギルだな」

 給料一ヶ月分! そんな額を補償したらアタシの退職金がごっそり持っていかれちゃうよ!?
 逃げる……のはスキンヘッドおじさんが隣に座っているし、人が沢山いる中で移動するのは目立つから無理だよね……。

(ううう、どうか二十五番が強い人でありますように……!)

 アタシは祈りながらフィールドの選手登場口を凝視する。やがて北口から上半身裸の筋骨隆々の男が出てきた。
 如何にも普段から鍛えていますと言わんばかりなその人は、タッパがあるうえに背丈と同じくらいのサイズの大剣を背負っていてすごく強そう! それに対して南口から出てきたのはひょろっとした細身の男、というか少年? まだ幼さが残っている16、7才くらいの男の子だった。その子は褐色肌に銀髪っていうこの辺じゃ見ない風貌をしているけど、今重要なのはそこじゃないっ。

(腕の太さとか倍くらい違う……!!)

 今大事なのは強そうかどうか!
 体格の良さは明らかに北口から出てきた人の方だから、そっちが二十五番だといいな!?

『第三試合の対戦相手が揃ったぞぉ! 北口から入場した七十三番はなんと! 本職は衛兵だっ!!』

 司会を務める興行師ラニスタの声が拡声魔法でコロシアムに響き渡る。
 え、衛兵!? 七十三番が!?

『出場理由は高級娼婦指名代捻出らしいぞ!!』
「ば、馬鹿バラすんじゃねぇよっ!?」

 七十三番改め衛兵の男が興行師ラニスタの暴露に慌てた様子で声を荒げてる。
 出場給及び試合に勝った時の懸賞金目当てで兵隊さんが試合に参加する話はたまに聞くけど、よりによってこの試合に出るなんてぇっ! こっちが賭けたのはひょろガリの方なのにぃっ!

『対する二十五番は世にも珍しい【水の踊り子】だ! その枯れ枝みたいな手足でどれだけ観客を楽しませてくれるか見ものだねぇっ!』
 
 【水の踊り子】? えーと、娼館で働いていた頃にそんな単語聞いたことあるような……? 何だっけなぁ~。

『役者が揃ったところで、試合開始だぁっ!!』

 アタシが頭を捻っている間に試合は始まっちゃって、フィールドの地面を蹴り上げた衛兵が少年に向けて大剣を振り下ろした!
 大剣はその見た目通りの重量で、振り下ろした先の地面を割って土埃を巻き上げている。一切の躊躇のない攻撃に、アタシは息を呑んでしまう。冒険者としてモンスターを相手にすることは沢山あったけど、対人戦はほとんど経験がないからちょっと怖いって思ってしまう。

(お、男の子は……!?)

 ひび割れた地面に血痕はなくて、少年は後ろに下がって攻撃をうまくかわしたみたい。
 動きは身軽みたいだけれど痩せっぽっちな彼は覇気がなくて、裸足の足もどこかふらついていて今にも倒れてしまいそうなほど頼りない。見ているだけで不安になってきたアタシは杖をぎゅっと握りしめた。
 
「やっちまえーっ!」
「殺せーっ!」
「ミンチにしちまえーっ!」

 だけど周りの野次はすっごく物騒っ! 興奮して席を立っちゃっているし、前のめりになってフィールドに落ちちゃいそうになっている人もいる。
 生身の人間が危ない目にあっているのを見て楽しめる趣向がアタシにはまるでわからないよ~っ!

「防戦一方じゃねぇか、大丈夫かあのガキ!」
「しゃーねーよ、二十五番は晴れてっと雑魚だからなぁ!」

 うん? 晴れてると雑魚? どういう事だろう。【水の踊り子】って呼ばれていたし、雨水があると何か変わるのかな?
 アタシがむむむと考え込んでいる間にも少年は劣勢になっていって、持っていた安っぽい棒切れは衛兵の大剣を受け止めきれず簡単に折れてしまった。

「ぐ……っ!」
「オラァッ!」
 
 そのまま衛兵にお腹を蹴飛ばされてフィールドの壁に叩きつけられる少年。このままだときっと死んじゃうっ!
 晴れじゃなくなれば、雨が降ればどうにかなるかもしれないんなら、一か八か、魔法で天気を変えみようっ! 幸い観戦席は耳が痛くなるぐらい騒々しいから、アタシがこっそり魔法を使ってもバレないはず。何にせよ少年が負ければアタシが困るんだし、やるっきゃない!

「――我が手に秘めし水の力を解き放ち、静かに滴る雫が大地に舞い散る光景を創り出さん。今ここに、雨の神秘の響きを奏でん。《レイン・アクアリアス》!」

 魔法の詠唱を唱え終えると同時に、コロシアムの上空に黒い雲が立ち込めてきてフィールドや観戦席に影を落とす。
 そしてその黒い雲から小雨が降り始めて、時間と共にどんどん強さを増していき、瞬く間に土砂降りになってコロシアム全体を洗い流す勢いで降り注いだ。

「何だぁっ!?」
「いきなり降り出しやがった!」

 ついさっきまで晴天だった天気の急変にどよめく観客席。動揺したのはフィールドの衛兵も同じで、ぬかるみ始めた地面に戸惑った様子だった。
 でもこのくらいのアクシデントで狼狽え続けてくれる訳もなく、衛兵はすぐに頭を切り替えると大剣を構え直した。

「ふん! 雨が降った程度で、俺の猛攻が止められる訳……!?」

 けれどそこで衛兵は大剣を構えたまま絶句した。同時にアタシも、何なら観客席にいる人全員絶句したと思う。
 だって衛兵の構えている大剣の刃が、真っ二つに折れて地面に落ちたんだから。

「……」

 大剣を折った張本人、少年の手にはいつの間にか棒切れじゃなくて、水でできたレイピアに似た形の剣が握られていた。
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