上 下
2 / 18

虚言癖魔法使い改めエセ占い師の初仕事!

しおりを挟む
 占い師になると決めた日から三日後。
 アタシは『銀狼シルバーウルフ』が拠点にしていた田舎町よりも大きい町に移動して、商人ギルドの門を叩いていた。

「はい、ご用件は何でしょうか?」
「商人ギルドの登録と、露店の出店場所を確保したいです!」
「かしこまりました。文字は書けますか? 書ける場合はこちらの書類に……」

 受付のお姉さんの指示通りに登録申請書に記入をして手続きを済ませたアタシは、晴れて黒檀色の商人ギルドタグをゲットして商売許可を得た。あとは出店場所の確保になるけど、店舗を構えられるお金はないから露店で、空いているスペースをレンタルしなくちゃいけない。
 でも空き地と机さえ借りられたら形になるから、安上がりかつ簡単でいいなぁ占い師って。
 
「大通り沿いは人気で埋まっておりまして、人通りの多い細道もレンタル料が……」
「あっ! 人気のない場所でも大丈夫なんで、一番安いところお願いしますっ!」

 占い師のお客さんって運勢を聞きにくるだけじゃなくって、愚痴や相談に来ることも多いよね。だから人目が多い所だと逆にお客さんが来にくいかもしれない。娼館に出入りしていた占い師も個室で相談を受け付けてたし、教会の懺悔室も個室になっているって修道院出身のユリアから聞いた事がある。しかも相手の姿が見えないよう仕切りがしてある場合もあるんだ、って。
 繁華街から離れている方が賃料も安いし、お客さんも人目を気にしなくていいから好都合っ!
 
「かしこまりました、でしたら……」

 ◇

 どんなお客さんが来るかな? 恋愛話とかならいくらでも聞いちゃうっ。なんてわくわくしながら、日の当たらない路地裏の角で真っ白いテーブルクロスを敷いた机の前に立って30分後。
 アタシは強面の荒くれ者に囲まれて固まっていた。

「よお嬢ちゃん! こんな所に店構えるたぁ酔狂だねぇ!」
「身売りか? それともヤク売ってくれるんか?」
「煙草の用意ぐらいはあるよなぁっ!?」

 好き勝手なことを言って詰め寄ってくる男たちに、アタシは杖を握りしめながらたじたじになってしまう。
 治安が悪いぃいっ! アウトローな不良しかいないじゃない、ここ! あぁ~、安さで選ぶんじゃなくてお店構える前に下見に来ればよかった~!
 でもここで怯んだらカツアゲされるかもしれないし、強気にでなきゃっ!

「ち、違うもん! アタシは物を売っているんじゃなくて、占いをしているの! おじさん達が欲しいものは扱ってないから、用がないなら帰って!!」
「占いだぁ?」
「おっ! そいつぁ丁度いい! いっちょ俺を占ってくれよ嬢ちゃん!」

 するとスキンヘアの強面おじさんが机に肘をついて迫ってきた。
 何々!? 夢も希望も興味なさそうなおじさんが占って欲しいようなことないでしょ!?

「今日のコロシアムの勝敗を占ってくれねぇか?」
「コロシアム……!?」

 コロシアム。人と人が、時にモンスターが戦う舞台である円形闘技場の名前。
 この町にあるんだ、知らなかった……。

「う、占ってどうするの?」
「そりゃベッドして一攫千金狙うに決まっているだろーが!」

 賭け事ね……。誰が出場するか何て知らないし、テキトーに占ってお金だけ貰ってとんずらしようかなぁ。
 ここ危なっかしいし、少しでも出店料を回収できたら店仕舞いしちゃおうっ!

「わかりました、占います!」
「おぉ~! 引き受けてくれるのかい!」
「はい! 今なら10ガルで引き受けましょう! どうです? 破格でしょう?」

 10ガルは大体、定食ご飯一食分だ。占いってどんなに安くてもこれの倍の値段がおおよその相場だし、これなら外れたところで恨みは買わないでしょ。納得できないなら引き下がってもらお。

「10ガルか。おし、払おう!」
「おいおい、本当に占って貰うのか?」
「こんな胡散臭い占い屋に使うより酒代の足しにした方がいいんじゃねぇ?」

 支払いを決めたスキンヘッドおじさんに取り巻き二人が困惑している。
 確かにいくら安いからって実績も何もない小娘なアタシにお金を払おうだなんて、普通はしないよねぇ。占いを信じてるってタイプでも絶対なさそうだし。

「うるせぇよお前ら。俺の金だ、俺が好きに使っていいだろが。はいよ、10ガル」

 スキンヘッドおじさんはびっくりするぐらい素直に10ギルコインを机に置いてくれた。パッと見た感じ偽硬貨じゃない。からかっていたり、だまくらかそうって意図はないみたい。まぁ仮に偽物でも大した損にはならないんだけど。
 初仕事が強面おじさんになったのは想定外なものの、お金を払ってくれた以上はお客さんだ。よし、占おう!

「お客さんはどの試合に賭ける予定ですか? それを教えてくれたら早速、占います!」
「第三試合の七十三番と二十五番が出るやつだ! 頼むぜぇ嬢ちゃん!」

 にたにたと下品な笑みを浮かべて言うスキンヘッドおじさんに、アタシはちょっと顔をしかめながら占う事にした。
 それにしてもネームドじゃないのかぁ。人気者だったり著名な選手なら、数字じゃなくて本人の名前や通称が使われるはず。それか知名度獲得目的の冒険者や借金返済目当てのお貴族様。
 だから今回試合をするのは興行師ラニスタ所有の奴隷剣闘士かな? 何にせよ数字だけだと判断材料ないし、テキトーに数字が若い方でも選ぶかぁ。
 アタシは魔石がはめ込んである杖をそれっぽく掲げて呪文っぽく聞こえる単語を呟いて、むむむと目を瞑る。それからカッと目を見開いて高らかに宣言した。

「見えました! 二十五番が勝利します!」
「おお! それは本当なんだろうな?」
「はい! アタシの占いは当たるんですから、当然です!」

 アタシは胸を張って嘘八百を並べ立てる。その自信満々っぷりにテンションが上がったのか、おじさん達は『うおぉおお!!』と何か勝手に盛り上がっている。
 このままおじさん達が意気揚々とコロシアムに向かったらとんずらしよっと。

「わかったぜ嬢ちゃん、俺は二十五番に賭ける!」
「はい! この度はご利用、ありがとうございました!」
「あん? 何終わった気になってんだ、嬢ちゃん」
「はい?」

 早く帰ってくれないかなって思っていたスキンヘッドおじさんは、いきなりアタシの腕をガシリと掴んできた。

「金を払ったんだ、責任もって結果を見届けてくれるよなぁっ!」
「え、えぇ~っ!?」

 そうしてアタシはスキンヘッドおじさんに引きずられる形でコロシアムに連れて行かれてしまった!
 さっさと姿くらまそうと思ったのに、どうしてこうなるの~!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

職業が占い師縛りなんて全然聞いていないんですけど!(旧Ver

Tempp
ファンタジー
メイ・マイヤースこと前世の名前は糀谷芽衣(こうじやめい)は、自分の将来は両親を継いで料理店を経営するものと思っていた。けれども10歳でステータスカードを受け取ったとき、魔女様が示した適職は『辻占い』。ちょっとまって、どっから出てきたのこの辻占いっていうのは! 人生設計が総崩れじゃない!

如月さんは なびかない。~クラスで一番の美少女に、何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

俺の娘、チョロインじゃん!

ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ? 乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……? 男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?  アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね? ざまぁされること必至じゃね? でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん! 「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」 余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた! え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ! 【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

転生墓守は伝説騎士団の後継者

深田くれと
ファンタジー
 歴代最高の墓守のロアが圧倒的な力で無双する物語。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!

naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』 シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。 そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─ 「うふふ、計画通りですわ♪」 いなかった。 これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である! 最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

処理中です...