上 下
1 / 18

虚言癖魔法使いの追放!

しおりを挟む
「マーシャ。君には近々、パーティを抜けて欲しい」
「はぇ?」

 好青年を絵にしたかのような金髪碧眼の剣士ロイ。
 冒険者パーティ『銀狼シルバー・ウルフ』のリーダーを務める彼に告げられたのは、まさかの解雇通知だった。

「つまり、クビってことぉっ!?」
「ありていに言えば……」

 アタシは|魔法使いのマーシャ。未開拓の地が多い『プルハール大陸』の田舎町で冒険者として活躍している、ごくごく普通の女の子。今日も魔法を使って仲間をサポートしモンスター退治の依頼をこなし、無事に帰ってこれたことを町の大衆食堂で労っていた。
 そうやってパーティの後衛として今まで仲間たちと一緒に頑張って来た私が、まさか追放されるなんてっ!

「ヤダヤダ! 何でいきなり前触れもなくパーティを抜けなきゃいけないのっ!?」
「マーシャ、落ち着いて」
「ユリアも何か言ってよ~っ!」

 認めたくなくてアタシは隣の席に座っていたユリアに縋った。長くて綺麗な亜麻色の髪に青空みたく澄んだ目を持つ、神官ヒーラー
 性格もおっとりしていて優しい頼れる年上のお姉さん。だからアタシもつい甘えちゃう。

「前触れもなくたぁ言うが、心当たりがない訳じゃねぇだろ」
「ぎく」

 ユリアの頭なでなでを堪能していたアタシに鋭い言葉を投げてきたのは、大柄で無骨な盾使いシールダーのウッドだった。
 
「一月前ダンジョンの深部に潜った際。自分魔力が残り少なかったにも関わらず、僕に申告しなかっただろう」
「そういえば半月前は、ポーションが回復アイテムが足りないことを言い忘れていたわね」
「一昨日なんざ大技の『ファイヤーストーム』が使えようになったって豪語しておいて、結局モンスターを前にして不発に終わったじゃねぇか。ロイがどうにかしてくれたら凌げたものの、パーティ全滅もあり得たんだぞ」
「そ、それは……」

 仲間たちの数々の指摘に、私はたじたじになってしまう。

「で、でもでも! アタシがパーティに貢献してきたのは事実だよ!? そりゃちょっと失敗したり間違える事もあったけど、結果も出してきたもんっ!」
「確かにマーシャが居なければ達成できなかった依頼は沢山ある。君は非常に優秀な魔法使いだ。けど、僕ら冒険者の仕事は常に命の危険が伴う。そんな環境では少しの意思疎通の齟齬が命取りになるんだよ、マーシャ」
 
 ロイが優しい声で諭してきて、アタシは言葉に詰まった。
 ミスを隠そうとしたり見栄を張ろうとして、報連相を怠ってしまえば仲間を命の危険に晒してしまう。至極真っ当な指摘を言い返すことはできず、アタシはテーブルの端っこに置いていたとんがり帽子のつばをぎゅっと握りしめた。

「ごめんなさいね、マーシャ。私も神官ヒーラーとして、常に貴女のコンディションを万全に出来たらよかったのだけれど、力不足で……。そしたら貴女に嘘をつかせる必要もないのに……」
「ユリアが甘やかすから付け上がるんだろが。嘘をつくって事ぁ俺たちを信用していないって事だぞ。そんな奴に背中を任せられねぇ。命を預けられねぇ。そんくらいわかるよな?」

 返す言葉もなくて、アタシはうつむいてしまう。そんなアタシに呆れたのか、ウッドは短い黒髪をガシガシと乱雑にかいていた。
 
「ったく。お前は虚勢を張る必要なんてねぇのに、何で自分から評価下げるような事するかね」
「マーシャ、私は間近で貴女の魔法を見てきたから言えるわ。貴女は危険が隣り合わせな冒険者ではなくて、研究職の方が似合ってる! 魔法を教える先生でもいいわね! 安全で沢山お金が貰える、貴女の実力に見合ったお仕事が他に沢山……」
「いいよ! 全部アタシが悪いんだよ!!」

 普段は有難いユリアのフォローも今は聞いていて苦しい。ロイの判断は何も間違っていない。アタシは見栄っ張りで嘘つきで、自分を大きく見せたがる悪癖があって、それは冒険者パーティに所属するには致命的な欠点だ。
 でもその悪癖はアタシが生活していた孤児院が潰れちゃってから、日々を生きるために身に付けた処世術。やったことがなくったって「できます!」って堂々と言わなきゃ出自不明なアタシはまず働かせて貰えないから、靴磨きでも皿洗いでも何でも見よう見まねで覚えてこなしてきた。
 紆余曲折あって魔法使いとして冒険者になって、嘘をつく必要がない、ついちゃいけない仲間ができても悪癖が残ったままじゃ、追放されるもの当たり前だよね。

「お望み通り出で行くよ! ごちそうさま!」

 自分のどうしようもなさに耐えきれなくアタシはお勘定の硬貨ガルをテーブルに叩きつけるように置くと、とんがり帽子と杖を持ってロイたちに背中を向けた。

「待ってくれ、マーシャ! 何も今日出ていく事はない! 君の正式な退団は一月後を考えているんだ! 何なら次の仕事を見付けて、生活が落ち着くまで居てくれても」
「同情なんて要らないよ!」

 そのままドアから外へ出ようとして、
 
「そうか。残念だ、退職金も用意していたんだが……」

 ロイの言葉に足を止めた。振り返ってみると、彼の手には硬貨ガルが詰まっているだろう小ぶりの皮袋が握られている。
 私は無言でずんずんとロイに歩み寄ってその皮袋を頂戴して、改めて扉の前に立ってこう言った。

「今日までお世話になりました!!」

 こうしてアタシは冒険者パーティ『銀狼』から抜けて一人になった。うぅ、勢いのまま飛び出しちゃったけど、これからどうしよう。
 後衛職の魔法使いにソロパーティなんて無理だし、学のないアタシじゃ研究職もできっこない。自分のこともままならないアタシじゃ先生なんてもっと無理だ。勧めてくれたユリアには悪いけれど。

(一人でも学がなくてもできる仕事ってそうそうないよねぇ。退職金はあるけど店を構えたり起業できる額でもないし、そもそも仮に商人をやるにしても何を扱うのかって話だし……)

 アタシの魔法以外の取り柄って言えば精々、口先だよね。嘘八百で生き抜いて来たから口だけは上手い自負はあるけど、口先だけで出来る仕事なんて……。
 その時、アタシの頭に天啓が降りてきた! 昔、下働きをしていた娼館に遊女の相談役としてたまに出入りしていた、喋ることを仕事にしていた女の人!

「── そうだ、占い師!」

 占い師なら口の上手さが使えるかも! 店を構えなくていい上に魔法使いの装備で雰囲気作れるだろうから、元手もほとんどいらない! これは名案だね!!

「ふっふっふっ。どうせ治せないんならこの悪癖で逆に荒稼ぎして、大金持ちになってやる! 今に見てろよーっ!」

 アタシは夜の道端でお月様に向かって高らかに宣言をする。
 そうしてアタシの(エセ)占い師人生が幕を開けたんだ!
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者パーティに裏切られた劣等騎士、精霊の姫に拾われ《最強》騎士に覚醒する

とんこつ毬藻
ファンタジー
勇者グラシャスとともに魔族討伐の旅を続けていた騎士の少年レイ。彼は実力不足を理由にグラシャスから劣等騎士と馬鹿にされていた。 そんなある日の夜、レイはグラシャスが闇組織と繋がっている現場を目撃してしまう。そしてこともあろうに、グラシャスだけでなく仲間の聖女や女弓使いまでもが闇組織と繋がっていた。 仲間の裏切りを受け、レイはその場で殺されてしまう。しかし、生と死の狭間の世界でレイに語りかけてくる者がいた。 その者は闇の精霊姫を名乗り、とある代償と引き換えに、レイに新たな力と命を与え、蘇らせてくれると言う。 彼女の提案を受け入れ、新たな命を手に入れたレイは、最強の精霊騎士として覚醒し、絶大な力を使い、世界を無双する。 「待っていろグラシャス、お前は僕……いや、俺がブッ潰す……ッッ!!」 ※ 残酷な開幕から始まる追放系王道ファンタジーです。 ※ 「小説家になろう」「ノベルアッププラス」にて先行公開の作品   (https://ncode.syosetu.com/n2923gh/)となります。 ※ 本作はとんこつ毬藻・銀翼のぞみの合作となります。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

ピコーン!と技を閃く無双の旅!〜クラス転移したけど、システム的に俺だけハブられてます〜

あけちともあき
ファンタジー
俺、多摩川奥野はクラスでも浮いた存在でボッチである。 クソなクラスごと異世界へ召喚されて早々に、俺だけステータス制じゃないことが発覚。 どんどん強くなる俺は、ふわっとした正義感の命じるままに世界を旅し、なんか英雄っぽいことをしていくのだ!

異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い

八神 凪
ファンタジー
   旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い  【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】  高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。    満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。  彼女も居ないごく普通の男である。  そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。  繁華街へ繰り出す陸。  まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。  陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。  まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。  魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。  次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。  「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。  困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。    元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。  なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。  『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』  そう言い放つと城から追い出そうとする姫。    そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。  残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。  「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」  陸はしがないただのサラリーマン。  しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。  今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――

SEVEN TRIGGER

匿名BB
SF
20xx年、科学のほかに魔術も発展した現代世界、伝説の特殊部隊「SEVEN TRIGGER」通称「S.T」は、かつて何度も世界を救ったとされる世界最強の特殊部隊だ。 隊員はそれぞれ1つの銃器「ハンドガン」「マシンガン」「ショットガン」「アサルトライフル」「スナイパーライフル」「ランチャー」「リボルバー」を極めたスペシャリストによって構成された部隊である。 その中で「ハンドガン」を極め、この部隊の隊長を務めていた「フォルテ・S・エルフィー」は、ある事件をきっかけに日本のとある港町に住んでいた。 長年の戦場での生活から離れ、珈琲カフェを営みながら静かに暮らしていたフォルテだったが、「セイナ・A・アシュライズ」との出会いをきっかけに、再び戦いの世界に身を投じていくことになる。 マイペースなフォルテ、生真面目すぎるセイナ、性格の合わない2人はケンカしながらも、互いに背中を預けて悪に立ち向かう。現代SFアクション&ラブコメディー

異世界ネット通販物語

Nowel
ファンタジー
朝起きると森の中にいた金田大地。 最初はなにかのドッキリかと思ったが、ステータスオープンと呟くとステータス画面が現れた。 そしてギフトの欄にはとある巨大ネット通販の名前が。 ※話のストックが少ないため不定期更新です。

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

処理中です...