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虚言癖魔法使いの追放!

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「マーシャ。君には近々、パーティを抜けて欲しい」
「はぇ?」

 好青年を絵にしたかのような金髪碧眼の剣士ロイ。
 冒険者パーティ『銀狼シルバー・ウルフ』のリーダーを務める彼に告げられたのは、まさかの解雇通知だった。

「つまり、クビってことぉっ!?」
「ありていに言えば……」

 アタシは|魔法使いのマーシャ。未開拓の地が多い『プルハール大陸』の田舎町で冒険者として活躍している、ごくごく普通の女の子。今日も魔法を使って仲間をサポートしモンスター退治の依頼をこなし、無事に帰ってこれたことを町の大衆食堂で労っていた。
 そうやってパーティの後衛として今まで仲間たちと一緒に頑張って来た私が、まさか追放されるなんてっ!

「ヤダヤダ! 何でいきなり前触れもなくパーティを抜けなきゃいけないのっ!?」
「マーシャ、落ち着いて」
「ユリアも何か言ってよ~っ!」

 認めたくなくてアタシは隣の席に座っていたユリアに縋った。長くて綺麗な亜麻色の髪に青空みたく澄んだ目を持つ、神官ヒーラー
 性格もおっとりしていて優しい頼れる年上のお姉さん。だからアタシもつい甘えちゃう。

「前触れもなくたぁ言うが、心当たりがない訳じゃねぇだろ」
「ぎく」

 ユリアの頭なでなでを堪能していたアタシに鋭い言葉を投げてきたのは、大柄で無骨な盾使いシールダーのウッドだった。
 
「一月前ダンジョンの深部に潜った際。自分魔力が残り少なかったにも関わらず、僕に申告しなかっただろう」
「そういえば半月前は、ポーションが回復アイテムが足りないことを言い忘れていたわね」
「一昨日なんざ大技の『ファイヤーストーム』が使えようになったって豪語しておいて、結局モンスターを前にして不発に終わったじゃねぇか。ロイがどうにかしてくれたら凌げたものの、パーティ全滅もあり得たんだぞ」
「そ、それは……」

 仲間たちの数々の指摘に、私はたじたじになってしまう。

「で、でもでも! アタシがパーティに貢献してきたのは事実だよ!? そりゃちょっと失敗したり間違える事もあったけど、結果も出してきたもんっ!」
「確かにマーシャが居なければ達成できなかった依頼は沢山ある。君は非常に優秀な魔法使いだ。けど、僕ら冒険者の仕事は常に命の危険が伴う。そんな環境では少しの意思疎通の齟齬が命取りになるんだよ、マーシャ」
 
 ロイが優しい声で諭してきて、アタシは言葉に詰まった。
 ミスを隠そうとしたり見栄を張ろうとして、報連相を怠ってしまえば仲間を命の危険に晒してしまう。至極真っ当な指摘を言い返すことはできず、アタシはテーブルの端っこに置いていたとんがり帽子のつばをぎゅっと握りしめた。

「ごめんなさいね、マーシャ。私も神官ヒーラーとして、常に貴女のコンディションを万全に出来たらよかったのだけれど、力不足で……。そしたら貴女に嘘をつかせる必要もないのに……」
「ユリアが甘やかすから付け上がるんだろが。嘘をつくって事ぁ俺たちを信用していないって事だぞ。そんな奴に背中を任せられねぇ。命を預けられねぇ。そんくらいわかるよな?」

 返す言葉もなくて、アタシはうつむいてしまう。そんなアタシに呆れたのか、ウッドは短い黒髪をガシガシと乱雑にかいていた。
 
「ったく。お前は虚勢を張る必要なんてねぇのに、何で自分から評価下げるような事するかね」
「マーシャ、私は間近で貴女の魔法を見てきたから言えるわ。貴女は危険が隣り合わせな冒険者ではなくて、研究職の方が似合ってる! 魔法を教える先生でもいいわね! 安全で沢山お金が貰える、貴女の実力に見合ったお仕事が他に沢山……」
「いいよ! 全部アタシが悪いんだよ!!」

 普段は有難いユリアのフォローも今は聞いていて苦しい。ロイの判断は何も間違っていない。アタシは見栄っ張りで嘘つきで、自分を大きく見せたがる悪癖があって、それは冒険者パーティに所属するには致命的な欠点だ。
 でもその悪癖はアタシが生活していた孤児院が潰れちゃってから、日々を生きるために身に付けた処世術。やったことがなくったって「できます!」って堂々と言わなきゃ出自不明なアタシはまず働かせて貰えないから、靴磨きでも皿洗いでも何でも見よう見まねで覚えてこなしてきた。
 紆余曲折あって魔法使いとして冒険者になって、嘘をつく必要がない、ついちゃいけない仲間ができても悪癖が残ったままじゃ、追放されるもの当たり前だよね。

「お望み通り出で行くよ! ごちそうさま!」

 自分のどうしようもなさに耐えきれなくアタシはお勘定の硬貨ガルをテーブルに叩きつけるように置くと、とんがり帽子と杖を持ってロイたちに背中を向けた。

「待ってくれ、マーシャ! 何も今日出ていく事はない! 君の正式な退団は一月後を考えているんだ! 何なら次の仕事を見付けて、生活が落ち着くまで居てくれても」
「同情なんて要らないよ!」

 そのままドアから外へ出ようとして、
 
「そうか。残念だ、退職金も用意していたんだが……」

 ロイの言葉に足を止めた。振り返ってみると、彼の手には硬貨ガルが詰まっているだろう小ぶりの皮袋が握られている。
 私は無言でずんずんとロイに歩み寄ってその皮袋を頂戴して、改めて扉の前に立ってこう言った。

「今日までお世話になりました!!」

 こうしてアタシは冒険者パーティ『銀狼』から抜けて一人になった。うぅ、勢いのまま飛び出しちゃったけど、これからどうしよう。
 後衛職の魔法使いにソロパーティなんて無理だし、学のないアタシじゃ研究職もできっこない。自分のこともままならないアタシじゃ先生なんてもっと無理だ。勧めてくれたユリアには悪いけれど。

(一人でも学がなくてもできる仕事ってそうそうないよねぇ。退職金はあるけど店を構えたり起業できる額でもないし、そもそも仮に商人をやるにしても何を扱うのかって話だし……)

 アタシの魔法以外の取り柄って言えば精々、口先だよね。嘘八百で生き抜いて来たから口だけは上手い自負はあるけど、口先だけで出来る仕事なんて……。
 その時、アタシの頭に天啓が降りてきた! 昔、下働きをしていた娼館に遊女の相談役としてたまに出入りしていた、喋ることを仕事にしていた女の人!

「── そうだ、占い師!」

 占い師なら口の上手さが使えるかも! 店を構えなくていい上に魔法使いの装備で雰囲気作れるだろうから、元手もほとんどいらない! これは名案だね!!

「ふっふっふっ。どうせ治せないんならこの悪癖で逆に荒稼ぎして、大金持ちになってやる! 今に見てろよーっ!」

 アタシは夜の道端でお月様に向かって高らかに宣言をする。
 そうしてアタシの(エセ)占い師人生が幕を開けたんだ!
 
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