244 / 275
第十二章 日本旅行編
第237話 談話室会議
しおりを挟む
「この度は、飛行場及び寝床の提供……誠に感謝する」
「いやいや! こちらこそ! ラボに頼られるんは名誉な事やし、前から話してみよごたった青洲しゃんとも知り合えたんや。こんぐらいお安か事ばい!」
飛行場で出迎えてくれた柴三郎が連れて来てくれたのは、日本の感染病棟の社員寮、その中に設けられた談話室だ。ちなみに今回、利用した飛行場は、普段はドクターヘリが使う感染病棟所有のものなのだという。
談話室のソファ席には青洲とモーズが座った所で、柴三郎は談話室に置かれた自販機から紙カップ麦茶(ストロー付き)を購入、2人に渡してくれた。先程まで炎天下の中にいたので、この麦茶は非常に有り難かった。
なおウミヘビ達は壁掛けテレビの前に置かれたボックスソファに座り、テレビの画面に英語字幕を表示させ日本の番組を鑑賞している。
そのウミヘビ達にも柴三郎は麦茶を渡した後、モーズ達が座るソファ席の前、テーブルを挟んだ向かいの席に腰をおろし、改めて挨拶を交わす。
「ウミヘビ達にまで有り難う。お代は幾らだろうか?」
「気にせんで! お近付きの印に、ちゅう奴や! そもそも大したもんあげとらんし。……ただなんか、報告より一人増えとらん? いや一人増えたくらい何も問題ないけんども」
「あぁ、一人増えた……。事前情報と異なってしまい、申し訳ない……」
青洲は深々と頭をさげ、柴三郎に謝罪をする。それを受けた柴三郎は慌てて「顔ばあげて!」と謝罪の必要はない事を伝えてきた。
「こん寮ん部屋は和室で、布団ば使うて寝るばい。予備ん布団は沢山あるし、部屋に運び込むんも苦じゃなか。やけんなんも問題はなかと」
「えっ。ここの寮に宿泊するのですか」
「あぁ……。人数が多いから、な。それに柴三郎はウミヘビの事情を知っている事に加え、万が一、毒素を散布してしまった場合の対処もできる……」
「聞いとらんかったん?」
「飛行機内で教えるつもりで、あったのだが……。喋る暇が、なくてな……」
「それはユストゥスの対応を全面的に私に押し付けてきた所為では……?」
モーズがマスク越しに抗議を孕んだ視線を青洲に向けるが、青洲は悪びれる事もなければ気不味そうに顔をそらす事もなく、我関せずを貫き通していた。
「それでえっと、今日ん予定は寮ん案内やったか。そんで夕方に出かけると。長距離移動ばしとったんや、時間までゆたーっと休んで欲しか……」
「はい! 院長! おれが案内したいです!!」
「あっずるいぞ潔っ! いえ自分、自分こそ案内をっ!!」
突然、談話室の扉が開いたかと思えば2人の男性医師が話に割って入ってくる。
片方は猿をデザインしたフェイスマスクを付け、もう片方は狸のデザインのフェイスマスクを付けた日本人。どうやら扉の前でずっと聴き耳を立てていたようだ。
「……。ちょーっと失礼」
2人の姿を見た柴三郎はゆっくりと席を立つと、談話室に入ろうとしてきた彼らを廊下に追い出し、扉をパタンと閉める。
『さぼっとらんでさっさと仕事に戻らんかこん大馬鹿者共っ!!』
そして談話室の防音性を貫通するレベルの怒鳴り声を響かせた後、部屋に戻ってきてソファに座り直した。
「失礼しました」
「今のお二方はもしや……」
「猿面の方が潔。狸面の方が佐八郎やね。わいの部下で、パウルの後輩」
「やはり。後で挨拶をしなくてはいけないか」
「質問責めで拘束されるるけん、やめとけ」
マスク越しに額に手を当て、大きな溜め息を吐く柴三郎。どうも部下の奔放さに苦労しているようだ。
「ばってん、今回んウミヘビ達もたいぎゃイケメン揃いやなあ。どけ行くにしたっちゃ目立ってしょんなかろう。彼らは機密なんやろう? まちっと目立たんごつした方がええと思うばい」
「……? それほど、目立つだろうか……?」
「え……っ!?」
「いけん……! アバトン生活が長うて感覚がずれとる……!」
不思議そうに首を傾げる青洲に、モーズと柴三郎がぎょっとする。ウミヘビは人間は持ち得ない色素を持っているうえに、皆が皆、顔立ちが整っている。目立たない方が難しい存在。
なのに青洲の中はそれが普通になってしまっているようだ。
「そういえば青洲さんのクスシ歴は何年になるのでしょうか?」
「13年に、なるな……。帰省も、13年ぶりになるか……」
「あぁ、成る程……」
13年以上もの時を人工島アバトンという閉鎖空間で過ごせば、感覚も狂うかもしれない。遠征で大陸に渡るとしても多くはヨーロッパ。髪色一つ取っても金髪銀髪茶髪黒髪赤髪と多様な人々がいる。
しかし此処は日本。ほぼ単一民族国家であるこの国は黒髪の黄色人種が大半をしめ、そこから外れた容姿であるウミヘビ達は非常に目立つ。また日本人の平均身長に近いニコチンを除き、皆ヨーロッパ圏の平均身長並みまたはそれ以上に背が高いので、物理的にも目立つ。
「ともかく、こんまま街中に出たら確実にメディアん的やろう。あと芸能事務所からスカウトも来る。絶対来る」
「ううむ。悪戯に注目を集めたくないし、何とか誤魔化せないものか……」
「はい! はい! 自分、妙案があります!」
「おれも! おれも!」
「懲りん奴らばい」
怒鳴ったうえで追っ払ったというのに、佐八郎と潔はまだ談話室に聴き耳を立てていたらしい。再び話に割って入ってきた。
「まぁ話だけ聞こか。くだらん事ば言うたら……鉄拳や」
「あらかじめ業務用の大型カメラとマイクを持って付き添えばいいんです!」
「そしたら何かの撮影だと思って外野は遠巻きに見る事になると思います!」
「……思うたよりは悪くなか。ばってん、そんカメラとマイクば持つんは誰がするつもりなん?」
「それは自分が!」
「いいえおれが!」
クスシと交流をしたい、ウミヘビを間近で観察したい、という下心が見え見えな部下達を前に、柴三郎は再度2人を廊下へ追い出すと、怒鳴り声を寮中に響き渡らせたのだった。
ついでに拳骨も喰らわせたのか、「痛いっ!」という小さな悲鳴が2人分聞こえてきた気がする。しかし柴三郎は何事もなかったように談話室に戻ってきて、再び席についた。
「……カメラ、か。撮影機能のある浮遊型の、自動人形が、ある。それを複数、常時、起動させればいい……。ウミヘビ達の記録も、録れる」
「おっ、よかった解決しそうやな」
「外出一つで躓く辺り、今後がとても不安なんだが……?」
「いやいや! こちらこそ! ラボに頼られるんは名誉な事やし、前から話してみよごたった青洲しゃんとも知り合えたんや。こんぐらいお安か事ばい!」
飛行場で出迎えてくれた柴三郎が連れて来てくれたのは、日本の感染病棟の社員寮、その中に設けられた談話室だ。ちなみに今回、利用した飛行場は、普段はドクターヘリが使う感染病棟所有のものなのだという。
談話室のソファ席には青洲とモーズが座った所で、柴三郎は談話室に置かれた自販機から紙カップ麦茶(ストロー付き)を購入、2人に渡してくれた。先程まで炎天下の中にいたので、この麦茶は非常に有り難かった。
なおウミヘビ達は壁掛けテレビの前に置かれたボックスソファに座り、テレビの画面に英語字幕を表示させ日本の番組を鑑賞している。
そのウミヘビ達にも柴三郎は麦茶を渡した後、モーズ達が座るソファ席の前、テーブルを挟んだ向かいの席に腰をおろし、改めて挨拶を交わす。
「ウミヘビ達にまで有り難う。お代は幾らだろうか?」
「気にせんで! お近付きの印に、ちゅう奴や! そもそも大したもんあげとらんし。……ただなんか、報告より一人増えとらん? いや一人増えたくらい何も問題ないけんども」
「あぁ、一人増えた……。事前情報と異なってしまい、申し訳ない……」
青洲は深々と頭をさげ、柴三郎に謝罪をする。それを受けた柴三郎は慌てて「顔ばあげて!」と謝罪の必要はない事を伝えてきた。
「こん寮ん部屋は和室で、布団ば使うて寝るばい。予備ん布団は沢山あるし、部屋に運び込むんも苦じゃなか。やけんなんも問題はなかと」
「えっ。ここの寮に宿泊するのですか」
「あぁ……。人数が多いから、な。それに柴三郎はウミヘビの事情を知っている事に加え、万が一、毒素を散布してしまった場合の対処もできる……」
「聞いとらんかったん?」
「飛行機内で教えるつもりで、あったのだが……。喋る暇が、なくてな……」
「それはユストゥスの対応を全面的に私に押し付けてきた所為では……?」
モーズがマスク越しに抗議を孕んだ視線を青洲に向けるが、青洲は悪びれる事もなければ気不味そうに顔をそらす事もなく、我関せずを貫き通していた。
「それでえっと、今日ん予定は寮ん案内やったか。そんで夕方に出かけると。長距離移動ばしとったんや、時間までゆたーっと休んで欲しか……」
「はい! 院長! おれが案内したいです!!」
「あっずるいぞ潔っ! いえ自分、自分こそ案内をっ!!」
突然、談話室の扉が開いたかと思えば2人の男性医師が話に割って入ってくる。
片方は猿をデザインしたフェイスマスクを付け、もう片方は狸のデザインのフェイスマスクを付けた日本人。どうやら扉の前でずっと聴き耳を立てていたようだ。
「……。ちょーっと失礼」
2人の姿を見た柴三郎はゆっくりと席を立つと、談話室に入ろうとしてきた彼らを廊下に追い出し、扉をパタンと閉める。
『さぼっとらんでさっさと仕事に戻らんかこん大馬鹿者共っ!!』
そして談話室の防音性を貫通するレベルの怒鳴り声を響かせた後、部屋に戻ってきてソファに座り直した。
「失礼しました」
「今のお二方はもしや……」
「猿面の方が潔。狸面の方が佐八郎やね。わいの部下で、パウルの後輩」
「やはり。後で挨拶をしなくてはいけないか」
「質問責めで拘束されるるけん、やめとけ」
マスク越しに額に手を当て、大きな溜め息を吐く柴三郎。どうも部下の奔放さに苦労しているようだ。
「ばってん、今回んウミヘビ達もたいぎゃイケメン揃いやなあ。どけ行くにしたっちゃ目立ってしょんなかろう。彼らは機密なんやろう? まちっと目立たんごつした方がええと思うばい」
「……? それほど、目立つだろうか……?」
「え……っ!?」
「いけん……! アバトン生活が長うて感覚がずれとる……!」
不思議そうに首を傾げる青洲に、モーズと柴三郎がぎょっとする。ウミヘビは人間は持ち得ない色素を持っているうえに、皆が皆、顔立ちが整っている。目立たない方が難しい存在。
なのに青洲の中はそれが普通になってしまっているようだ。
「そういえば青洲さんのクスシ歴は何年になるのでしょうか?」
「13年に、なるな……。帰省も、13年ぶりになるか……」
「あぁ、成る程……」
13年以上もの時を人工島アバトンという閉鎖空間で過ごせば、感覚も狂うかもしれない。遠征で大陸に渡るとしても多くはヨーロッパ。髪色一つ取っても金髪銀髪茶髪黒髪赤髪と多様な人々がいる。
しかし此処は日本。ほぼ単一民族国家であるこの国は黒髪の黄色人種が大半をしめ、そこから外れた容姿であるウミヘビ達は非常に目立つ。また日本人の平均身長に近いニコチンを除き、皆ヨーロッパ圏の平均身長並みまたはそれ以上に背が高いので、物理的にも目立つ。
「ともかく、こんまま街中に出たら確実にメディアん的やろう。あと芸能事務所からスカウトも来る。絶対来る」
「ううむ。悪戯に注目を集めたくないし、何とか誤魔化せないものか……」
「はい! はい! 自分、妙案があります!」
「おれも! おれも!」
「懲りん奴らばい」
怒鳴ったうえで追っ払ったというのに、佐八郎と潔はまだ談話室に聴き耳を立てていたらしい。再び話に割って入ってきた。
「まぁ話だけ聞こか。くだらん事ば言うたら……鉄拳や」
「あらかじめ業務用の大型カメラとマイクを持って付き添えばいいんです!」
「そしたら何かの撮影だと思って外野は遠巻きに見る事になると思います!」
「……思うたよりは悪くなか。ばってん、そんカメラとマイクば持つんは誰がするつもりなん?」
「それは自分が!」
「いいえおれが!」
クスシと交流をしたい、ウミヘビを間近で観察したい、という下心が見え見えな部下達を前に、柴三郎は再度2人を廊下へ追い出すと、怒鳴り声を寮中に響き渡らせたのだった。
ついでに拳骨も喰らわせたのか、「痛いっ!」という小さな悲鳴が2人分聞こえてきた気がする。しかし柴三郎は何事もなかったように談話室に戻ってきて、再び席についた。
「……カメラ、か。撮影機能のある浮遊型の、自動人形が、ある。それを複数、常時、起動させればいい……。ウミヘビ達の記録も、録れる」
「おっ、よかった解決しそうやな」
「外出一つで躓く辺り、今後がとても不安なんだが……?」
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――
EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。
そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。
そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。
そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。
そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。
果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。
未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する――
注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。
注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。
注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。
注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる