上 下
231 / 236
第十一章 キノコの国のアリス編

元ネタ人物紹介 イギリス感染病棟編

しおりを挟む
※この頁は感染病棟に出てきた人物と、モデルにした元ネタの人物について書いてあるオマケです
※読み飛ばしても何も問題ありません

ジョン
イギリス感染病棟院長→辞任
44歳。イギリス人。
マスクデザイン:白と黒のチェッカー柄

モデルの偉人
ジョン・ハンター(西暦1728-1793)
イギリスの外科医。解剖学者。

【実験医学の父】【近代外科学の開祖】とも。
ロバート・ルイス・スティーヴンソン著作の『ジキル博士とハイド氏』のモデルの一人と言われている。
あと彼が住んでいた身内や患者が出入りする表口と、解剖用の遺体を運び込む裏口のある邸宅も、作中の邸宅のモデルになっているとか。
本編のジョンが顔半分変色しているのは『ジキルとハイド』の二面性の表現が元ネタ。

10人兄弟の末っ子として産まれたが、平均寿命が短かった時代なのもあって兄姉の大半は早世している。
そんな中、一回り上の兄の手伝いとして解剖教室の遺体の確保を任された所、凄まじい才能を発揮(なんで?)。
土葬文化が根強くまたキリスト教の教え「最後の審判後に復活する身体を残す」為に遺体にメスを入れる事は冒涜的とされていた時代、解剖用遺体確保はなかなか大変だったのだが、ジョンはアウトローとコネを作って墓場泥棒をして貰ったり、葬儀業者を買収して遺体を回して貰ったり(解剖されるのが嫌で亡くなる前に対策をしていた、巨人症の男性の遺体もあの手この手で入手している)で遺体を確保。ジョン自身も解剖に携わり、元々器用だったのもありメキメキと解剖学を身に付けていった。

彼が解剖し作成した標本は数千体にも及び、現代でもその一部が残っている。また世界中から標本を集めた標本コレクターとしても有名。
あと細菌のさの字もなかった時代にも関わらず(※細菌の発見自体は17世紀後半にされていたけど、病気の原因と認識されたのは19世紀後半)、不衛生な環境での手術は危険と経験的にわかっていたようで、軍医をしていた頃に体内に銃弾が残った事があったのだが下手に手を出さず放置。そして生還している。
外科医としても相当優秀で安易な手術は推奨せず、当時は切断するしか生還の道はなかったとされていた膝窩動脈瘤を切断せずに取り除く方法を発見、見事に施術を成功させている。

研究の為には自らの犠牲も厭わず、淋病梅毒の治療過程を確認するために自分から感染し、生涯罹患したままだったと言われている。
弟子には「観察し、推論し、記録せよ」と教え込んでいた。ジョン自身もそれをモットーに、研究対象をスケッチするに留まらず舐めて味を確かめ(胃液とか精液とか)それも記録していた。何で皆んな舐めるん……?

ジョンが亡くなった後、弟子達は彼の遺言に従い検死解剖をしたというエピソードが残っている。

 ◇

エドワード
イギリス感染病棟副院長→院長
33歳。イギリス人。
マスクデザイン:薔薇

モデルの偉人
エドワード・ジェンナー(西暦1749-1823)
イギリスの医学者。

【近代免疫学の父】とも。
上記のジョン・ハンターの弟子の一人である。
彼が残した大きな功績は「天然痘の予防法開発」。後にワクチンという形で世に広まる安全性の高い予防法を発見、実践した先駆けの人物である。(※ 天然痘患者の膿疱を健常者に摂取する「人痘法」という予防法は既にあったが、摂取者の致死率が二割と安全性に大分難があった)

この天然痘とは当時、多くの死者を出した感染力致死率共に高い恐ろしい病気だった。
そんな中、エドワードは酪農家がよく罹患する天然痘と似た病気「牛痘」に着目。酪農家達の中で囁かれていた「牛痘にかかった者は天然痘にかかることはない」という言い伝えの確証を得る為に実験を重ね、そしてあえて症状の弱い牛痘にかかることにより、致死率の高い天然痘罹患を回避する予防法【種痘法】を確立した。
ちなみにこの頃、エドワードは既にジョンの弟子で、ジョンには「考えるより、ともかく実験しろ。よく観察した上で」と言われていたとか。あとエドワードはジョンの邸宅に住み込みで働いた最初の弟子と言われている。

この予防法は世界へと広まり、1980年にはWHOから「天然痘の根絶」が宣言された。
人類によって根絶された、現在、唯一の感染症である。

 ◇

フローレンス
イギリス感染病棟看護師長
37歳。イギリス人。
マスクデザイン:雪の結晶

モデルの偉人
フローレンス・ナイチンゲール(西暦1820-1910)
イギリスの看護師。統計学者。看護教育学者。

【近代看護学の母】、【医療統計学の祖】とも。
言わずと知れた「クリミアの天使」、「ランプの貴婦人」と讃えられた看護師である。

統計学者としても有名で、「鶏のとさか」と呼ばれるカラー円グラフを考案している。本編のフローレンスのマスクデザインが雪の結晶なのは円グラフを連想してである。(蜘蛛の巣グラフと呼ばれる事もあるけど、蜘蛛の巣デザインだと見栄え的にちょっとアレかなと没になった)
本編でモーズに統計学について講義をしていたのはこれが元ネタ。

ちなみにフローレンスの二つ名は他にもあり、その名も「小陸軍省」。
衛生環境が劣悪だった野戦病院改善の改善の為、時には24時間ぶっ続けで働き続け、彼女についていけず過労死した人物もちらほら。フローレンス自身も身を削っていたので彼女が実際に看護師を務めていたのは体を壊すまでの2、3年である。
衛生環境の改善こそ戦場の死亡率改善の道と説く為に統計データを取り軍の上層部に叩き付け、楯突く者が出ようとも理路整然と論破し跳ね除け、社交界のコネも個人資産も味方につけたイギリス女王も威光も、使えるもの全てを用い人々を救う為に奔走していた剛鉄の看護師。
クリミア戦争時(1853~56)もまだ細菌が病気の原因という認知はされておらず、消毒の概念(1867年以降普及)もなかったのにこの徹底ぶりである。彼女の活躍により死亡率は40%から5%までグッと下がった。

終戦後も看護師を辞めた後もペンを握り数多の著者を残し、看護システムを確立。
彼女もまた様々な発見をしているが、その中に「予防治療によって病気を防ぐ」があり、世代が異なるもののジョンやエドワードと出会っていたら話が合っていたかもしれない。

因みに真偽不明ながら、戦時中フローレンスは備蓄されていた薬箱を物資不足から求めた所、「これは委員会所有のものだから許可が出ないと開けられない。そして委員会開催は3週間後」と言われたので、斧を持ってきて薬箱の蓋をぶち壊して「開きましたね」と持って帰った逸話がある(斧はスラングで実際は素手で壊したんじゃね? 説も)。彼女の性格からしてあり得なくないのがなんとも言えない……。
本編で駐車場で斧を持っていたのはこの辺から得た着想である。まぁ現代でも車置き去りで亡くなる子が度々出ているからね、大人でも車内酸欠で倒れる事があるし強行突破もやむなしだよね。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

性転換タイムマシーン

廣瀬純一
SF
バグで性転換してしまうタイムマシーンの話

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

未来世界に戦争する為に召喚されました

あさぼらけex
SF
西暦9980年、人類は地球を飛び出し宇宙に勢力圏を広めていた。 人類は三つの陣営に別れて、何かにつけて争っていた。 死人が出ない戦争が可能となったためである。 しかし、そのシステムを使う事が出来るのは、魂の波長が合った者だけだった。 その者はこの時代には存在しなかったため、過去の時代から召喚する事になった。 …なんでこんなシステム作ったんだろ? な疑問はさておいて、この時代に召喚されて、こなす任務の数々。 そして騒動に巻き込まれていく。 何故主人公はこの時代に召喚されたのか? その謎は最後に明らかになるかも? 第一章 宇宙召喚編 未来世界に魂を召喚された主人公が、宇宙空間を戦闘機で飛び回るお話です。 掲げられた目標に対して、提示される課題をクリアして、 最終的には答え合わせのように目標をクリアします。 ストレスの無い予定調和は、暇潰しに最適デス! (´・ω・) 第二章 惑星ファンタジー迷走編 40話から とある惑星での任務。 行方不明の仲間を探して、ファンタジーなジャンルに迷走してまいます。 千年の時を超えたミステリーに、全俺が涙する! (´・ω・) 第三章 異次元からの侵略者 80話から また舞台を宇宙に戻して、未知なる侵略者と戦うお話し。 そのつもりが、停戦状態の戦線の調査だけで、終わりました。 前章のファンタジー路線を、若干引きずりました。 (´・ω・) 第四章 地球へ 167話くらいから さて、この時代の地球は、どうなっているのでしょう? この物語の中心になる基地は、月と同じ大きさの宇宙ステーションです。 その先10億光年は何もない、そんな場所に位置してます。 つまり、銀河団を遠く離れてます。 なぜ、その様な場所に基地を構えたのか? 地球には何があるのか? ついにその謎が解き明かされる! はるかな時空を超えた感動を、見逃すな! (´・ω・) 主人公が作者の思い通りに動いてくれないので、三章の途中から、好き勝手させてみました。 作者本人も、書いてみなければ分からない、そんな作品に仕上がりました。 ヽ(´▽`)/

【完結済み】VRゲームで遊んでいたら、謎の微笑み冒険者に捕獲されましたがイロイロおかしいです。<長編>

BBやっこ
SF
会社に、VRゲーム休があってゲームをしていた私。 自身の店でエンチャント付き魔道具の売れ行きもなかなか好調で。なかなか充実しているゲームライフ。 招待イベで魔術士として、冒険者の仕事を受けていた。『ミッションは王族を守れ』 同僚も招待され、大規模なイベントとなっていた。ランダムで配置された場所で敵を倒すお仕事だったのだが? 電脳神、カプセル。精神を異世界へ送るって映画の話ですか?!

処理中です...