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第十一章 キノコの国のアリス編

第218話 キノコの国のアリス

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 お父さま。お母さま。わたし、アリスの御本がだぁいすき。
 白ウサギを追いかけて穴の底へ真っ逆さまになるのも、小さくなったり大きくなったりするのも、首が蛇みたく長くなるのも、摩訶不思議でとっても素敵!
 でも一番好きなのはキャラクターよ。白ウサギも、シャチャ猫も、眠りネズミも、帽子屋さんや三日月ウサギ、にせウミガメだってトランプ兵だって、皆んな皆んな、魅力的!
 いつかわたしもアリスの世界に行って、その子たちとお茶会をするの。

 アリスの不思議な世界ならきっと、わたしも自由に動けるわ。
 ねぇ、そうでしょう? お父さま。お母さま。

 アリス。アリス。一日中ベッドの上にいる、わたしのお友達。
 おてんばで活発的な女の子。ちょっとおませさんで、覚えたてのことをよく理解しないまま喋ってしまう女の子。
 御本の中で元気に動き回る貴女にも、わたしは憧れているのよ。

 お父さま、足が真っ赤になってきたわ。
 お母さま、腕が動かなくなってきたわ。
 これじゃ御本が読めない。どうしましょう?
 ふふ。白衣の裾を揺らして汗をかいて、あたふた走り回るお医者さまは白ウサギみたいで、滑稽ね。原作の白ウサギも、遅刻癖のあるお医者さまがモデルだったと聞くわ。
 本当かしら? 虚構かしら? わたしは、どちらでもいい。

 ただ、騒ぐばかりで御本を読んでくれないのなら、出ていってちょうだい。

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 あら、窓からお客様? どなたかしら。
 とっても綺麗な瞳ね。月並みだけれど、宝石のよう。
 ブラックトルマリンショールにそっくりだわ。

 えぇ!? 不思議の国ワンダーランドへ連れて行ってくださるの? まぁ素敵! 是非とも行きたいわ!
 ……あら? 存在する訳ではない? でも連れて行ってくれるって、どういう意味かしら。

 作るのは、わたし?

 えぇ! えぇ! わたしだけの不思議の国ワンダーランドね! 作れるというのなら、作ってみせるわ! うふふ、完成する日が楽しみ!
 そしたらお父さまとお母さまもご招待するの。特にお茶会の会場は、うんと素敵な所にしなくっちゃ!
 でもどうしましょう。わたし、歩けないの。足が真っ赤になってしまって……。腕も上手く、動かせない。悲しいわ。涙で寝室を池にしてしまいそうなくらい、悲しいわ。

 ……もう動ける?
 まぁ、まぁ、本当ね。わたし、動けるわ。手も足も、ちゃんと動かせるわ。
 素敵! わたしこれからずっと、お外を自由に歩けるのね! お父さまとお母さまにも知らせなくっちゃ!

 お父さま! お母さま!
 わたしこれから不思議の国ワンダーランドを作るの! 目一杯、素敵な世界にするつもりよ? センスが悪いとか意地悪な事は言わないでね? 完成したら、鏡の国ミラーランドも作りたいわね。欲張りかしら?
 うふふ。うふふ。夢が叶うわ。わたしの夢。でも良いことが起きすぎて、今の方が夢みたい。

 あら? お父さま? お母さま? どうして泣きそうな顔をしていらっしゃるの?
 3ヶ月ぶり? 何を言っているの? わたしはずっとベッドの上に居たでしょう?
 眠らせていた? わたしは眠りネズミじゃないわ、お父さま、お母さま。ほらちゃんと、起きて歩いて、ここにいるじゃない。

 奇跡? そう奇跡ね。わたし歩けるようになったのだもの。
 あら、ブラックトルマリンショールのお兄さま、どうしたのかしら?
 このままじゃ2人をお茶会に招待できない? それは困るわ。2人に一番に見せたいのに。
 にすればいい?
 なァんだ。簡単じゃない。
 真っ赤に染めればいいだけよ。白薔薇をペンキで塗りたくる、トランプ兵みたく。

 ほらこれで、ご招待できるわ。

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 お父さま? お母さま?
 どうして口数が少なくなってしまったのかしら。折角、お茶会の会場ができあがったのに。
 前までおかしな喩え話や答えのわからないナゾナゾを、沢山聞かせてくれたじゃない。
 ブラックトルマリンショールのお兄さまに聞けばわかるかしら?
 えぇ、そうなのよ。どうしてかしら、お兄さま? お兄さまなら原因がわかるかと思ったのだけれど。
 ……【誕生日】を迎えられなかったから? 《珊瑚サマ》の声を聞けなかったから?
 まぁ! なんてこと! ! でも死刑だとはおっしゃらないのね。ハートの女王と違って、【】は慈悲深いわ。

 でも寂しいわ。お喋りする相手がいないのですもの。お茶会へ招待したネズミさんやイモムシさんは前に住んでいた所の話ばかり繰り返して、飽き飽きしちゃった。最初は知らない場所の話が聞けて楽しかったけれど、一方的にお喋りするばかりで、わたしの話は聞いてくれないのよ? 酷いわ。
 見かねたブラックトルマリンショールのお兄さまが最近、オニキスっていう男の子を紹介してくれたのだけれど、あの子は幼稚で乱暴もの。わたしのお庭で恐竜ごっこに興じてしまって、薔薇を踏み荒らしてきたの!
 わたしがハートの女王なら死刑にしているところよ!

 でもわたしとちゃんとお喋りできるのはオニキスだけだから、我慢しておいてあげる。お兄さまはお忙しい身だから、なかなかお会いできないのだし。
 ……オニキス、どうしたの?
 お茶会に招待したい方がいる?
 フルグライトのおじさまの言伝?

 どんな方かしら。
 『パライバトルマリン』の素質があるのね。
 どんな方かしら。
 お父さまと同じ年頃の方ね。
 どんな方かしら。
 お医者さま? とっても頭がよいのね。
 どんな方かしら。
 好奇心がいっぱいで、活発な方なのね。
 どんな方かしら。
 ちょっとぶっきらぼうだけど、お優しい方なのね。

 決めたわ! わたしがおじさまをご招待する!
 オニキスは来なくても大丈夫よ。恐竜遊びでもしていなさい。知的な方とのお喋りに、貴方は向いていないもの。
 むくれないで、オニキス。もしもアレキサンドライトが現れたら、その時は貴方に任せるから。
 お茶会の会場で、おじさまと、お父さまとお母さまと、あとついでにオニキスと、そして何より《珊瑚サマ》と一緒に【誕生日】を迎えられるだなんて、とっても素敵。
 おじさまを招待できれば、沢山、沢山、お喋りできるのね。
 朝も昼も夜もなく、永遠に。

 これでわたしの望む、終わらないお茶会を、開けるわ。
 
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