毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第十一章 キノコの国のアリス編

第203話 説明責任

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 患者とその関係者、感染病棟勤務の医療従事者の避難または隔離が完了。それから間もなく国連軍が到着し、病棟内の滅菌を決行。
 それらはつつがなく終わり、二次災害が起こる事もなくすんだ。キッドという幼い入院患者の死亡と、イギリス感染病棟の最高責任者たるジョン院長が消息を絶った以外は。
 今後は当直の医師や入院患者を除き、病棟内にいた人々を国連軍の護送の元、帰宅させる手筈だ。

 副院長であるエドワードがやるべき事はすました。だが、これで終わりではない。
 エドワードは院長室にステージ6を知る看護師長フローレンスと、『珊瑚』に特化した研究施設から呼び寄せたクスシとウミヘビを召集。
 今後の段取りを話し合う場を設けた。

「まずは亡くなってしまったキッドのご両親に説明責任を果たさなくてはいけませんが、僕の知識ではあの症状は説明できません。カールさんとモーズさんならば、何かわかりますでしょうか?」
「いきなり首が落ちるなんて俺ちゃんも初めて見~たよ。でも今までの傾向からしてぇ、多分キッドに寄生していた菌糸を操ったんだろね。ステージ4目前って診断されていたんなら、それだけ『珊瑚』に侵されているって事だし?」
「しかしカールさん。ステージ6にそんな能力があるとすれば、重度の珊瑚症感染者は常に命を握られている事になりませんか? 邪魔と判断されたら前置きなく殺される。そんな、恐ろしい環境が訪れると?」

 カールの考察にモーズは懐疑的だ。
 ステージ6が感染者を命含めて好きに操れるとなると、人類側は圧倒的に不利な状況となる。世界を征服したも同然。だがそれほど強力な能力を持っていると仮定した場合、行動が地味というか控えめというか、病棟内にいた数多の珊瑚症患者を傀儡とし操る事もできそうなものだが、それはしていなかった。
 どうも動きに制限があるように見受けられる。

「んーとね。俺ちゃんの予想だとぉ、ステージ6が操れるのは、体表に出てきた菌糸だ。キッドはステージ3、いや、あのガキンチョが進行促進してステージ4にしてたかも。そんでもってステージ4は皮膚が変質し、体のあちこちから枝みたく菌糸が伸びる。その中でも首に生えてた菌糸をこう、一周するように回して、首をぐりっと」

 カールは自身の首に指先を這わせ、めり込ませ、裂くようにスライドさせた。
 その動きに、キッドの最期を思い出したエドワードが吐き気を覚え、前屈みになってしまう。彼の隣に立つフローレンスはそれを見て、無言でエチケット袋を渡していた。

「成る程。今までの記録と照らし合わせてもその可能性が高いか。珊瑚症が進行したキッドくんの体表には菌糸が伸びていた。それを操られて殺された……。しかしエドワードさん、ステージ6はまだ世間への公表は見送られております。正確な説明はできないのでは」
「全て、話します」

 何とか使わずにすんだエチケット袋をフローレンスへ返しつつ、エドワードは断言をする。

「勿論、口外しないよう伝えるつもりではありますが、例えメディアへ持ち込まれようとも、僕はあった出来事を全て伝えます。それがお子さんの命を守れなかった僕の、取るべき責任だからです」
「エドワード副院長。あれは誰にもどうしようも出来なかった、生物災害バイオハザードです。その上で、防げなかった責任ならば病棟全体に及びます。投薬を任されていた医師や、部外者の侵入を許してしまった警備員や……」
「それでは親御さんは納得しない。これは感情論の話だから。責めるべき矛先を定めるのならば、現時点で最高責任者である僕だ。僕が背負います。……お気遣いありがとうございます、フローレンス看護師長」

 一人で矢面に立つ決意を見せられてしまってはフローレンスは何も言えず、少し顔を俯かせて引き下がる。

「それで、クスシのお二人には新たな依頼を申し付けたい。ジョン院長の行方を探して欲しいのです。一刻も早く」
「元々そのつもりだったけどぉ、急いでいる感じ?」
「はい。ジョン院長は着の身着のまま去ってしまいました。。けれど僕らは病棟から離れられない。だからどうか貴方方にお願いしたいのです。ステージ6が関わっている以上、どれだけ危険な依頼をしているのかは、わかっているつもりですが……!」
「私達クスシの仕事は生物災害の鎮圧です。危険性は考慮しなくて大丈夫ですよ。こちらには頼りになるウミヘビもいますから」

 そう言ってモーズが顔を向けたのは、話し合いに参加せず、院長室のソファに座ってくつろいでいるウミヘビこと水銀と砒素だ。
 だらしがないように見えるが、水銀はウミヘビの中でも最強格と謳われる実力者で、砒素も、モーズは詳しくは知らないがどうも古参らしく、経験値は申し分ないだろう。そして2人とも第一課所属という、強い毒素の持ち主。戦力としては十分なはずだ。

「っていうかぁ。俺ちゃんエドちゃん先生にも来て欲しいんだけど~?」
「はい? 僕もですか?」
「だってだってぇ、エドちゃん先生が一番ジョン院長との付き合い長いっしょ~? 動向を読みやすいじゃんっ! あ、と。ジョン院長の容態をきちんと把握しているのも、君だろうし」

 カールの鋭い指摘に、エドワードは一瞬押し黙った。
 彼の言う通り、病棟内外含めてジョンの事を最もよく知るのはエドワードだろう。そして医師となってからも側に居続けた結果、誰よりも正確に彼の症状を把握しているのも、恐らくエドワードだ。

「ジョン院長の容態?」
「あっ! モーズちゃんには話してなかったね! めんごめんご! ジョン院長はねぇ~」
「珊瑚症を罹患してから、

 カールの言葉を遮るように、エドワードは語る。

「あの人はステージ4目前の、中等症患者なんです……っ! 投薬を怠ればいつステージが急変するかわからない! ……しかし定期投薬の時間は、もう、過ぎているのです……!」
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