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第十章 イギリス出張編
第178話 天才奇才鬼才
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「でさ~。でさ~。副所長ったら俺ちゃんが参上したのめっちゃ嫌だったみたいで、認識阻害装置の強度を強めてさ~。座標がわかってても入れないようアレコレされて、2回目以降来るの苦労したわ~」
「それでも最終的にはアバトンに到達していたのですね……」
「ここに来る度に入所させろ~っ! て直談判したら最終的に所長が折れて『①成人するまで待て』『②医師免許を取れ』『③その上で入所試験を受けろ』って条件付きで入所を認めてくれたのよ。だから俺ちゃん頑張って医大入ってちゃ~んと医師免許取ったんだ~っ! 取った頃には丁度成人したし! って訳で入所しにまた海渡った。入所試験合格ももぎ取った」
「ええと、整理してもよいでしょうか? アバトンに訪れたのが14歳で? 実際に入所したのは18歳で……あの、4年で医師免許取ってませんか?」
「その前にカール先輩って14の頃に高校出てんの?」
「そだよ⭐︎」
医大はどの国も大体6年制で、医学部の単位を落とさずに修学した後に初めて医師国家試験へ望め、それに合格すれば医師免許取得となる(※なおスウェーデンの医大は5年半制度。ただし卒業後もインターンシップを経なければ医師国家試験を受けられない)。
4年飛び級をして医大へ入っているのはパウルも同じだが、人命に関わる医学部という分野が分野なので、医大の中での飛び級はしていない。それは他のクスシ達も同じ事だ。
「奇才に近い方の天才だぁ」
「鬼才も多分に孕んでいるような……。頭が痛くなってきたな……」
頭脳だけみると、まさに規格外。
そう称するに相応しいカールという先輩に、その事を知らなかったらしいフリーデンと、当然初めて知るモーズは目眩を覚えた。
「しかし30を目前として、その落ち着きのなさはどうなんだ。少しはフリッツを見習え、フリッツを」
「えっ、僕?」
「えぇ~っ! これが俺ちゃんのスタイルよ! 研究者なんだから好奇心は常に抱いてなきゃでしょっ!?」
「貴様は度が過ぎているんだ」
しかしユストゥスはカールがクスシの中でも規格外だからと持ち上げるなんて事はせず、まして先輩だろうと構わず、はっきりと彼の問題点を指摘した。
なお突然、名前を出されたフリッツは困惑している。
「声量を落とせと言っているのに全く聞かんし、喧しくするならばモーズを連れ、貴様の個別研究室でアイギスの訓練をすればいいだろう。そうすれば防音と衝撃吸収でこちらに被害が来ない」
「被害ってユストゥスひっどぉ~い! まぁ個別研究室でもできなくなくないんだけどさぁ、シアンがね~。誰か招くと拗ねるからやめとくっ!」
シアン。突如としてカールの口から発せられたウミヘビの名前。訛った喋り方と青い髪が特徴的な、ウミヘビの中でも特に実力が高いウミヘビ。
昨日プレイをしたホラーゲームの時にも実力の片鱗を見せ付けてきた彼は、モーズでもフリッツでも誰でも『先生』という敬称を付けて呼ぶ。しかしそんな彼にも唯一の特別が、ただシンプルに【先生】とだけ呼称する人間がいると、ゲーム内で交わしていた会話で察せられた。
そしてその対象は恐らく、目の前のカールだ。
「もしかして、シアンが【先生】と呼び慕うのはカールさんなのですか?」
「あっ、もうアイツから話聞いてた? そうそう、何か懐かれちゃってね~! いやぁ、愛い奴よ。はっはっはっはっ!」
モーズの予想通り、シアンが【先生】と呼び慕う対象はカールの事だったらしい。
衝動的に、思うがままに行動するカールに、ウミヘビの中でも古参で、相当な実力を有しているシアンが懐いている。そんな2人がもし目標を共にし行動をしたら嵐が巻き起こるのではないか、とモーズは不安になった。
「……フリーデン、彼らが一緒に暴走、あ、いや、行動した際に止められる方はいるのか?」
「一応いるけど……。シアンがキレたらラボの部屋一つ消える事にはなるなぁ」
「災害級……」
やはり2人がタッグを組むと周囲の被害が途轍もない事になるようだ。
しかし暴走を止められる人物もいると聞いて、モーズは昨日ホラーゲームの中で邂逅した、老獪で飄々とした佇まいが印象的だったウミヘビを思い出した。
「そうだ、パウルさん。昨日、貴方を慕う灰色の髪をしたウミヘビとバーチャルゲームの中で出会ったのですが、名前を伺ってもよろしいでしょうか? 忘れないうちに把握しておきたくて」
「僕を先生って呼ぶウミヘビ? アニリンじゃなくて?」
「はい。あと毛先が少し黒ずんでいましたね」
「えっ、そいつって」
「先生ぇええええっ!」
その時、大きな声と共に唐突に共同研究室の扉が開かれた。次いで弾丸の如き動きで入室してきたのは、青い髪をした話に出たばかりのウミヘビ、シアン。
共同研究室に突っ込んできた彼は他のクスシに目もくれず、カール一直線に走り、カールが座る実験台に乗り上げ、熱い抱擁を交わす。
「ここに居ったんかいな! 個別研究室に居らんくて探してもうたわぁ!」
「えぇ~。今日からモーズちゃんのお世話をするって話は聞いてたっしょ~」
「卵型機器のシミュレーターで指導するのかと思ってたんです! それよりも聞いてください先生っ! あいついけずなんですよ~!?」
「これこれ。クスシ達の邪魔をするでない、シアン」
チリン。
騒がしく入室してきたシアンとは対照的に、飄々としつつも落ち着き払った声をしたウミヘビがもう一人、入室してくる。
涼やかな鈴の音と共に。
「パウル先生が迷惑するじゃろが」
毛先が黒ずんだ灰色髪と、黄色い瞳を持つ小柄な美男子。モーズがホラーゲームの中で会ったウミヘビ、その人だ。
しかしホラーゲームのアバターとは異なり、水銀と同じようにチャイナ服風にアレンジをした白衣を身に纏い、両耳には鈴が付いた髪飾りをぶら下げ、それを歩く度にチリンチリンと鳴らしている。
加えて左目には鮮やかな赤色をした星型のペイントを施し、右目の下にも鮮やかな緑色をした雫型のペイントを施している。
道化師。
現実で相対した彼は、その印象を抱かずにはいられない風貌をしていた。
「それでも最終的にはアバトンに到達していたのですね……」
「ここに来る度に入所させろ~っ! て直談判したら最終的に所長が折れて『①成人するまで待て』『②医師免許を取れ』『③その上で入所試験を受けろ』って条件付きで入所を認めてくれたのよ。だから俺ちゃん頑張って医大入ってちゃ~んと医師免許取ったんだ~っ! 取った頃には丁度成人したし! って訳で入所しにまた海渡った。入所試験合格ももぎ取った」
「ええと、整理してもよいでしょうか? アバトンに訪れたのが14歳で? 実際に入所したのは18歳で……あの、4年で医師免許取ってませんか?」
「その前にカール先輩って14の頃に高校出てんの?」
「そだよ⭐︎」
医大はどの国も大体6年制で、医学部の単位を落とさずに修学した後に初めて医師国家試験へ望め、それに合格すれば医師免許取得となる(※なおスウェーデンの医大は5年半制度。ただし卒業後もインターンシップを経なければ医師国家試験を受けられない)。
4年飛び級をして医大へ入っているのはパウルも同じだが、人命に関わる医学部という分野が分野なので、医大の中での飛び級はしていない。それは他のクスシ達も同じ事だ。
「奇才に近い方の天才だぁ」
「鬼才も多分に孕んでいるような……。頭が痛くなってきたな……」
頭脳だけみると、まさに規格外。
そう称するに相応しいカールという先輩に、その事を知らなかったらしいフリーデンと、当然初めて知るモーズは目眩を覚えた。
「しかし30を目前として、その落ち着きのなさはどうなんだ。少しはフリッツを見習え、フリッツを」
「えっ、僕?」
「えぇ~っ! これが俺ちゃんのスタイルよ! 研究者なんだから好奇心は常に抱いてなきゃでしょっ!?」
「貴様は度が過ぎているんだ」
しかしユストゥスはカールがクスシの中でも規格外だからと持ち上げるなんて事はせず、まして先輩だろうと構わず、はっきりと彼の問題点を指摘した。
なお突然、名前を出されたフリッツは困惑している。
「声量を落とせと言っているのに全く聞かんし、喧しくするならばモーズを連れ、貴様の個別研究室でアイギスの訓練をすればいいだろう。そうすれば防音と衝撃吸収でこちらに被害が来ない」
「被害ってユストゥスひっどぉ~い! まぁ個別研究室でもできなくなくないんだけどさぁ、シアンがね~。誰か招くと拗ねるからやめとくっ!」
シアン。突如としてカールの口から発せられたウミヘビの名前。訛った喋り方と青い髪が特徴的な、ウミヘビの中でも特に実力が高いウミヘビ。
昨日プレイをしたホラーゲームの時にも実力の片鱗を見せ付けてきた彼は、モーズでもフリッツでも誰でも『先生』という敬称を付けて呼ぶ。しかしそんな彼にも唯一の特別が、ただシンプルに【先生】とだけ呼称する人間がいると、ゲーム内で交わしていた会話で察せられた。
そしてその対象は恐らく、目の前のカールだ。
「もしかして、シアンが【先生】と呼び慕うのはカールさんなのですか?」
「あっ、もうアイツから話聞いてた? そうそう、何か懐かれちゃってね~! いやぁ、愛い奴よ。はっはっはっはっ!」
モーズの予想通り、シアンが【先生】と呼び慕う対象はカールの事だったらしい。
衝動的に、思うがままに行動するカールに、ウミヘビの中でも古参で、相当な実力を有しているシアンが懐いている。そんな2人がもし目標を共にし行動をしたら嵐が巻き起こるのではないか、とモーズは不安になった。
「……フリーデン、彼らが一緒に暴走、あ、いや、行動した際に止められる方はいるのか?」
「一応いるけど……。シアンがキレたらラボの部屋一つ消える事にはなるなぁ」
「災害級……」
やはり2人がタッグを組むと周囲の被害が途轍もない事になるようだ。
しかし暴走を止められる人物もいると聞いて、モーズは昨日ホラーゲームの中で邂逅した、老獪で飄々とした佇まいが印象的だったウミヘビを思い出した。
「そうだ、パウルさん。昨日、貴方を慕う灰色の髪をしたウミヘビとバーチャルゲームの中で出会ったのですが、名前を伺ってもよろしいでしょうか? 忘れないうちに把握しておきたくて」
「僕を先生って呼ぶウミヘビ? アニリンじゃなくて?」
「はい。あと毛先が少し黒ずんでいましたね」
「えっ、そいつって」
「先生ぇええええっ!」
その時、大きな声と共に唐突に共同研究室の扉が開かれた。次いで弾丸の如き動きで入室してきたのは、青い髪をした話に出たばかりのウミヘビ、シアン。
共同研究室に突っ込んできた彼は他のクスシに目もくれず、カール一直線に走り、カールが座る実験台に乗り上げ、熱い抱擁を交わす。
「ここに居ったんかいな! 個別研究室に居らんくて探してもうたわぁ!」
「えぇ~。今日からモーズちゃんのお世話をするって話は聞いてたっしょ~」
「卵型機器のシミュレーターで指導するのかと思ってたんです! それよりも聞いてください先生っ! あいついけずなんですよ~!?」
「これこれ。クスシ達の邪魔をするでない、シアン」
チリン。
騒がしく入室してきたシアンとは対照的に、飄々としつつも落ち着き払った声をしたウミヘビがもう一人、入室してくる。
涼やかな鈴の音と共に。
「パウル先生が迷惑するじゃろが」
毛先が黒ずんだ灰色髪と、黄色い瞳を持つ小柄な美男子。モーズがホラーゲームの中で会ったウミヘビ、その人だ。
しかしホラーゲームのアバターとは異なり、水銀と同じようにチャイナ服風にアレンジをした白衣を身に纏い、両耳には鈴が付いた髪飾りをぶら下げ、それを歩く度にチリンチリンと鳴らしている。
加えて左目には鮮やかな赤色をした星型のペイントを施し、右目の下にも鮮やかな緑色をした雫型のペイントを施している。
道化師。
現実で相対した彼は、その印象を抱かずにはいられない風貌をしていた。
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