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第十章 イギリス出張編

第176話 カール襲来

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「改めましてぇ。北の大地スウェーデンから参りました『カール』でっす! ヨロピコッ⭐︎」

 モーズの情緒が落ち着いた後。
 フェイスマスクだけ付けさせて貰って、モーズは不法侵入してきた不審者ことクスシの先輩『カール』と挨拶を交わしていた。

「よろしく、お願いします……」
「なんかぁモーズちゃん、元気なくなくなぁ~い?」
「逆さまの状態で窓からコンニチハしてきた上に、そのまま不法侵入されたらそりゃ疲れるでしょ先輩……」
「えぇ~? ちょっとしたサプライズっしょ~サプライズ!」

 朝からハイテンションで喋るカール。それがまたモーズに精神的疲労を与えている。
 そんなモーズの隣に立つフリーデンは、マスク越しに同情の眼差しを向けていた。

「他の濃い面々に埋もれないよう、第一印象インパクトが大事かなって!!」
「俺的にはカール先輩が一番濃い……」
「んっ?」
「ナンデモナイデス」

 口は災いのもと。フリーデンは黙秘を選択する。
 押し黙ってしまったフリーデンをさして気にする事なく、カールはずいとモーズに歩み寄って問い掛けてきた。

「そんでそんで? 〈根〉の声ってどんな感じなの? 肉声? 電子音? 振動? 言語は? 単語の羅列で喋ってる感じ? それとも接続詞も組み合わせてる? 文章作れてる? ねっ、ねっ、どんな感じ?」
「ええと、他の方に指摘されるまで気付けないレベルで、肉声に近く感じますね。意識してみると頭に直接響く感じで聞こえているのだとわかります。恐らく、電気信号で脳に信号を流しこんでいるのかと。なのでアイギスを通してこちらも発信すれば、齟齬なく会話も成り立つ」
「ほっほぉお~うっ! すんごぉく興味深いっ!!」 

 カールの興奮した声が、鹿の頭蓋骨を模したマスクの下から聞こえる。
 一見すると不気味なデザインのマスクだが、付けているカールの性格や声が明るいからか、段々と愛嬌があるように見えてきた。
 なお興奮した様子のカールの喋りは、留まることを知らない。

「クスシもウミヘビも国連関係者も感染病棟の職員も基本的には公用語の英語で喋るよう統一されているから違和感なかったかもだけどモーズが接触した〈根〉になった人間の中にゃどう考えても英語圏じゃない奴もいて特にスペインの菌床の〈根〉だった女の子なんて年齢的に母国語のスペイン語以外まだ喋れないと推測できるなかスムーズに言葉が届いているという事は〈根〉ないし『珊瑚』の電気信号は言葉というよりも情報そのものを送っている可能性が出てきたなそれを受信者の中でチャンネルを調整した結果『声』という形で届きいやモーズは〈根〉の記憶メモリーを元にした映像ビジョンも受信しているんだっけかならまた違う理論が成立するかもどっちにしろそこまで高度な交信をするのは恐らく『珊瑚』は寄生した人間の脳を利用しより繁殖に優れた生命体になる為の学習をしていてその結果ステージ6という人間に擬態できる変異体が出たのかもしれないという仮説がそれにしても寄生菌が擬態するとかエネルギーの釣り合い取れているのかめっちゃ疑問だな外から養分を供給して身体を維持するより養分吸い尽くして死体にして胞子まいてさっさと次の宿主に移る方が手間かからんし効率いいのにこれやっぱ俺ちゃんが推している仮説が現実味を帯びて」
「カール先輩、多弁症のケがあるんだよな」
「うむ。見るからにそうだな」

 よくよく聞くとモーズも興味を惹かれる考察をカールは語っているのだが、息継ぎをしていないのではないかと思うほど絶え間なく喋っている上に早口で、とても話に入れなかった。

「そういえば、カールさんのクスシ歴は何年になるのだろうか?」
「んっ? 俺ちゃんの歴?」

 仕方なく隣のフリーデンに向けて訊いた質問に、カール本人が反応する。
 ユストゥス達よりは上なのだろうが、パウルと比べてどうかはわからない。そこが気になって問い掛けた質問に、カールは両手の人差し指を一本ずつ立てるとモーズに見せ付け、こう言った。

「11年。でっす!」

 ◇

「やぁやぁ! God morgonおはよう後輩達よ! 朝から精が出るねぇっ!!」

 間もなく始業時間が訪れる共同研究室に、支度を済ませたモーズとフリーデンを連れたカールが堂々と入っていく。
 共同研究室には既にユストゥス、フリッツ、パウルの3人が居て、カールの姿を確認したと同時に研究作業の手を止め、硬直していた。

「あれ? お返事ない感じ? 俺ちゃんさ~び~し~い~」
「朝から喧しい奴め……。ここは個別研究室ではなく共同研究室なんだ、慎みを覚えろ慎みを」
「挨拶はいつ何時も大事っしょ~っ!? ほらユストゥスも! 挨拶っ、挨拶っ!」
「……グーテンモルゲン。満足したら声量をさげろ」
「そっけなぁ~いっ!!」

 ユストゥスに冷たくあしらわれたカールはマスクを両手で覆い、さめざめと嘘泣きをしている。
 しかし暫くしたら飽きたのかさっさと顔を上げるとくるりと踵を返し、モーズの方へ向き合った。あまりの切り替えの早さにモーズはびくりと肩を強張らせてしまう。

「えー、ではではモーズちゃんのアイギス指導を任された俺ちゃんの授業をはっじめるよ~」
「あ、あぁ」
「モーズちゃんの指導係はフリッツだっけ? 彼から大方の話は聞いていると思うけどぉ、アイギスってのは気に入った血を持つ人間を宿主として寄生してぇ、そこで食事を取りつつ繁殖もするんだよねぇ」
「それは習いましたね。宿主はアイギスに血を提供し、それを対価にアイギスは宿主の命を守る。そうやって、共生関係を築くのだと」
「そうそう!」

 フリッツの教育をしっかり覚えているモーズに、カールは感心した様子で頷く。
 次いで彼は腰に手を当てて、高らかな笑い声をあげた。

「平たく言うと『苗床』だけどな、『苗床』! 人間苗床! はっはっはっはっ!」
「それ、は、笑って言う台詞なのだろうか……?」
「カール先輩って言葉のチョイス容赦ねぇよなぁ……」
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