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第六章 恋⬛︎⬛︎乙女荵ウ縺ョ謌螟ァ――改め、アメリカ遠征編

第107話 超高層ビル突入

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 ドカンッ! ドカンッ! ドカンッ!!
 アメリカ軍が時間をかけて処分していた菌床の菌糸を、感染者を、カリウムとナトリウムは瞬く間に爆散させ、超高層ビルに続く大通りの障害をなくしていく。
 爆発によって白煙が立ち込めるその街道には、胞子と血によって作られたレッドカーペットが形成されていた。
 モーズとフリッツはそのカーペットの上を歩き、ビルへ向かって進んでゆく。

「手際がよく、2人とも頼もしいな。感染者の遺体の損壊が気になってしまうが……」
「速さを求めると、どうしてもね。軍に任せても最終的には焼却処理になるだろうから、どちらにしてもという感じなのだけれど」

 処分時に遺体を綺麗な状態で残せる方が稀で、現状のように菌糸諸共肉片にさせてしまう方が普通だ。特にこの超規模で速さを重視した場合、一人一人丁寧に処分する時間など到底作れない。
 頭で理解はしていても、モーズはどうしても辛く感じてしまう。

(処分作業が無事に終えられたら、せめて鎮魂を祈ろう。それで死者が浮かばれるかは、わからないが。……今の私には、それしか出来ないから)

 その為にもまずは〈根〉を切除しなくてはいけない。
 カリウムとナトリウムの手によって、海底の珊瑚礁のように鬱蒼と生えていた大通りの菌糸は吹き飛び、菌糸の陰に潜んでいた感染者も大穴を空け、物理的に道が切り開いてゆく。
 そして30分もすれば大通りを歩き終え、超高層ビルの入り口まで辿り着く事が出来た。

「シアン曰く〈根〉は高い所を好む、だったか。……確認の為訊くが、やはりエレベーターの使用は」
「危ないから駄目だね。災害時は使わない。これ鉄則」
「ううむ。では以前、ユストゥスがアイギスで階段を無視して上昇をした事があったが……」
「10階くらいならまだしも50階となると……。アイギスの負担が大き過ぎるね。それに風の強い高所となると身体が軽いアイギスは吹き飛んでしまう。あとモーズくんはそもそも分離出来ないし」
「うっ。すまない」
「いや、謝る事ではないのだけれど」

 飛行機内でも超高層ビルの登り方をどうするか話していたが、結局いい案は浮かばず地道に登るしかない結論に至っていた。
 時間がかかる上に〈根〉へ辿り着く前に疲労してしまうが、こればかりは仕方がない。

「階段辛いっちゅう話なら自分が運びまっせ? 2人まとめて」

 するとモーズとフリッツの後ろからシアンがひょっこり顔を出して、自身が運搬係をする事を提案してきた。

「いいのかい?」
「どうせ戦闘許可出てなくて暇なんや。これぐらいはなぁ」
「それは有り難いが、大の男2人だ。大丈夫だろうか?」
「構へん構へん。自分、力持ちやからね。2人でも10人でも運べますんで」
「じゃあ、お願いしようかな」

 腕力体力共に高いウミヘビに運搬させて貰えば、移動が大分楽になる。2人は素直に助力して貰うことにした。
 するとシアンは不意に人差し指を上に向け、超高層ビルの最上階付近を指差す。

「ほな早速。カッちゃんナッちゃん、あの窓ぶち抜けます? 45階のやつ」
「いけまーす!」
「俺だっていけるわ!」
「それじゃ、よろしゅう」

 ドカンッ!
 シアンの指示を受け、カリウムとナトリウムが彼の指差した45階層の窓に向けて矢を発射し、見事に風穴を空けた。

「ほんでタッちゃん、先に待機お願いしますわ」
「うっス」

 次いでタリウムがシアンの指示通り、超高層ビルの外壁をまるでボルダリングでもするかのように、すいすいと登り始める。
 途中、ビル内から窓を突き破って『珊瑚』の菌糸がタリウムに襲いかかるが、タリウムは寧ろ「いい取っ掛かりが出来た」とでも言わんばかりに菌糸の上に難なく飛び乗ると、そこから跳躍し更にスピードを上げて登攀とうはんしてゆく。
 そして僅かな時間で、窓に穴が空いた45階へ辿り着いてしまった。
 ビル内へ入ったタリウムは姿を消し、安全を確認してから窓に戻って下に向かって大きく手を振り、シアンへ合図を送っている。

「フリッツ、嫌な予感がするのだが?」
「奇遇だねモーズくん、僕もだよ」
「ほな2人とも、口閉じててな~」

 拒否する間を与えずに、シアンはモーズとフリッツ2人の肩をがしりと掴んで後ろに引っ張り、超高層ビルからそこそこ距離を取ると――
 1人ずつ、タリウムが待機する45階の窓に向かって、投擲をした。

「うわぁあああ!?」

 腰を掴まれたかと思ったら放り投げられたモーズは悲鳴をあげる。と言うか悲鳴をあげる他、何もできない。
 そうしてモーズの身体は綺麗に放射線を描き、45階まで到達。オフィスとして使われていただろう部屋に侵入し、待機していたタリウムに危なげなくキャッチされた。

「いらっしゃいっス」
「ご、強引過ぎるショートカット……!」

 それから程なくしてフリッツも投擲される事で到着。着地の衝撃は腕から生やしたアイギスの触手に緩和して貰っていた。
 カリウムもナトリウムも同じ方法で45階まで放り投げられ、最後にビルから生えた菌糸に飛び移り続け登攀したシアンが到着する。

「無事に着きましたな~。どうせなら最上階の50階までワープさせられたらよかったんやけど、自分この階が限界でして。けど上手いこと加減出来てたやろ?」

 無事に辿り着きはしたが、モーズの心臓はバクバクと早鐘を打っている。フリッツも同じだろう、肩を激しく上下させている。
 シアンは随分と大雑把な所があるようだ。

「ま、まぁ、時間短縮が叶ってよかった、かな?」
「寿命が縮む思いをしたがな……」
「そ、それじゃ気を取り直して、ここからは階段を使って上に」
「……うん? フリッツ、少し待ってくれ」

 何処かから、声が聴こえる。
 モーズは耳を澄ませてその声が何処から聴こえるか探った。……上ではなく、下。
 下層から、人の声が聴こえる。

「下だ。下から声がする」
「本当かい? ならまずは下がろうか」
「けどお二方、上からも気配感じるっスよ? 足音、うるさいっス」

 菌糸が血管のように張り巡る床に耳を付け、音を探ったタリウムが言う。
 上か下。恐らくどちらかに、〈根〉がある。

「どうする? 下の対応を終えてから向かうか?」
「……ステージ6がいる可能性がある。『珊瑚』を解明する為の重要な手掛かりだ、対処を遅らせて逃したくない」

 〈根〉は目前。そしてここは街中ではなくビルの中。
 もう固まって動かなくとも大丈夫だと判断したフリッツは、二手に分かれる事を提案した。

「二手に分かれよう。シアンくん、僕について来てくれ」
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