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第六章 恋⬛︎⬛︎乙女荵ウ縺ョ謌螟ァ――改め、アメリカ遠征編

第104話 飛行機搭乗

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 食堂の床で、そっくりな顔をした3人のウミヘビが横一列に並んで正座をしている。
 右からカリウム、タリウム、ナトリウムの3人である。何故、こんな所で正座をしているのか。理由は単純明快。普段はラボにいる事が多いシアンが、突如として現れたからだ。

「なんやぁそない畏まって。もっと肩の力抜いたらええ。ほら、飴ちゃん食べへん?」
「ちょ、頂戴いたしますぅ……」
「う、うっス」
「いた、頂きます」

 3人は震える手でシアンから飴玉を貰って、意を決した表情で食している。まるでガラス片でも口に含んでいるかのような表情だ。ただの飴玉の筈なのに。
 その異様な光景を前に、モーズはフリッツの隣でただただ困惑をしていた。
 カリウムは気が強い方ではないと言うのは先日のパラチオンとの戦闘で知ったが、シアンより毒素の強い第三課のパラチオンを前にした時よりも萎縮している。一体、シアンとパラチオンで何が違うと言うのだろうか。

「ええと、これは一体……?」
「シアンくんってあの3人から見ると、威圧感があるらしいんだよねぇ。ほら、シアンくんの毒素は彼らの毒素と化合出来るだろう?」
「あ、あぁ。一般にも流通している試薬になるな」

 例えばシアン化カリウム(青酸カリ)。
 例えばシアン化ナトリウム(青酸ソーダ)。
 例えばシアン化タリウム(青酸タリ)。は珍しいが、あるにはある。

「ウミヘビの毒素が別のウミヘビの毒素と化合するとね、化合物はより毒性が強い方の支配下へ置かれてしまうんだ。いとも、簡単に」
「つまりウミヘビにとって、最大の攻撃手段を奪われてしまう、と?」
「そう言う事。だから一部のウミヘビにとってシアンくんは、王様と同じ。従属するしかない、ある意味、最古参で最強格たる水銀くんよりも畏怖すべき存在。らしいよ。そうでなくても彼は純粋に戦闘能力がずば抜けている。並みのウミヘビじゃ歯が立たない、まさに覇者。だから今回の遠征に誘ったんだよ」
「切り札として、か」
「そう。何よりシアンくんは、だ。すごーく、頼もしいよ」

 そこでフリッツは縮こまっている3人の元へ歩み寄った。

「はい、落ち着いた所で本題に入るよお三方。君達に超規模菌床処分の命をくだす。だから朝ご飯を食べたら直ぐに遠征の準備をして、港に来るように」
「えっ、超規模菌床っスか?」
「えーっ!? 俺達経験ないじゃん!?」
「確かに。俺達より適任な水銀さまとかニコチン先輩を呼んだ方がいいんじゃねぇ?」
「君達だって超規模を処分できる実力はある。それに、今回は君達にしか出来ない事がある。どうかこの機会に、経験を積んで欲しいな」

 クスシであるフリッツ直々に頼まれてしまっては、ウミヘビである3人は断れない。
 よって彼らは素直に承諾するとかき込むように朝食を済ませ、遠征の準備をする為に一度食堂を出た。

「さぁ、僕らも港に行こう」
「そうだな。ところでアバトンからアメリカまで相応の時間を要すると思うのだが、いつもの空陸両用車では辛いのでは? しかもカルフォニア州付近が目的地となると、アメリカを横断するも同じ。辿り着くまで4日はかかるような……」
「そこは大丈夫。今回は飛行機を使うから」
「そうか、飛行機を……。飛行機を……!?」

 ◇

 フリッツが宣言した通り、港には既に飛行機が用意されていた。パイロットを含めて20人程が乗れる、所謂、プライベートジェット機。
 車だけではない移動手段も備えられている事に、モーズは組織の予算の桁違いさというべきか、民間の研究所との規模の違いを改めて痛感する。

「えー。アメリカ行くのに俺お留守番とか、つまんないなー」

 その飛行機を前に、テトラミックスは普段乗り回している空陸両用のリムジン車の上に座って不満をこぼす。
 そんなご機嫌斜めなテトラミックスに対して、シアンが「土産を買ってくるわ」と提案をした。

「そう悲しまんといて、ミックスの坊ちゃん。お土産買ってきてあげるさかい。アメリカで人気のフルーツ味ソフトキャンディ(※なお酸っぱい)とかどうや?」
「お菓子じゃなくて車見たーい。シアン、ミニカーとか買ってくる気ない? 100個ぐらい」
「坊ちゃん意外とがめついねんな」

 遠慮のないテトラミックスに、シアンは思わず苦笑する。

「そもそも超規模菌床処分に行くんでしょ? 俺も2回は経験あるよ? 車使わないのは妥協するから、乗せていってくれてもよくない?」

 飛行機は車よりも小回りはきかず、着陸にある程度のスペースを必要とする為、ヨーロッパを回る際はほぼ使われない。
 しかし今回の遠征先はアメリカ西部カルフォニア州付近。それも国連警察支部のバックアップ付きとなれば、飛行機を利用しない手はない。

「ごめんね。これ以上大人数で行くとウミヘビの把握が難しくなるから、テトラミックスくんは連れていけないんだ」
「いつもみたく運転席に座って車番しているからさー」
「運転席って……。君、飛行機の操縦は出来ないだろう?」
「そうだけども」
「ならやっぱり駄目だね。定員オーバーだ」
「ちぇー」

 フリッツにキッパリと断られてしまい、テトラミックスはつまらなそうに車の上で足をぷらぷら揺らす。

「その、フリッツ。ラボには飛行機の操縦が出来る方がいるのか?」
全自動フルオート運転で基本的には誰でも動かせるようになっているけど、運転席にはちゃんと操縦技術を持つウミヘビが座っているよ。今は急いでいるから、紹介はまた今度ね」
「飛行機を操縦できるウミヘビも居るとは、人材が豊富だな……」

 それから間もなくして遠征の準備を終えたタリウム達3人とも合流し、モーズらは飛行機へ搭乗した。
 各々座席に座りシートベルトを締め、乗員が離陸準備を終えると同時に飛行機は動き出し、海岸沿いの砂浜を滑走路がわりに危なげなく離陸をする。
 そして人工島アバトンより遥か西、アメリカへの飛行を開始した。
 
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