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第五章 恋する乙女大作戦編
第97話 乙女と一夜の思い出
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「えっと、それは災害鎮圧のお仕事で、ですよね……?」
「さぁ? あの頃は健常者と感染者の区別が付いていなくて、わからないっス。今じゃ音や動きでも感染者を探り当てられるレベルになったんスけど」
「し、診断なしでわかるのですか!?」
「わかるっスよ。感染者って『珊瑚』によって比重が重くなるんで足音も重くなりますし、ステージが進むと硬化の影響で動きがぎこちなくなるっスから」
ステージ3になった珊瑚症の方はアメリカにも結構居て、私の知り合いにもいますが、変色した肌以外の変化ってわかりませんが?
タリウムさんは耳と目がとても良いのですね……。
「……まぁ、それで怒られも発生したんスけど」
タリウムさんは私から顔をそらして、気まずそうにそう言いました。
タリウムさん曰くそのお陰で現在、『再教育』の最中なんだとか。
「あの、貴方に殺しを命じていた人が誰だったのか、訊いてもいいですか?」
「誰だったんスかね? 『博士』という肩書きだった気はするんすが……。誰とも喋るのは禁じられていて、許されているのは命令が聞こえているかどうかの確認だけ。ハイかイイエかのサインだけ。
だからラボに来た最初、俺はろくに喋れなかったっス。発音の仕方も文字の読み書きも、計算の仕方もマナーってやつもここで初めて知った。飯の食い方も、ここで。それまでは錠剤だったんで。まぁ、未だに味の区別は付いてないんスけど」
お、重い。話の内容が虐待を受けて育った子供なんですが? 虐待サバイバーがようやくまともな施設に引き取られて、人間らしい生活を送れるようになった話なんですが? タリウムさん自身に虐待を受けた自覚がなさそうなのが、また辛い。
あ、でも、ウミヘビは人ではないので人権はないんでしたっけ。……同じ人の姿をしたウミヘビを自分勝手に扱うって、どうなんでしょう。私には理解できません。
「でも、気安い仲の奴と飯を食うのは、それなりに楽しめているっスね」
……あ。笑って、くれました。力の抜けた、屈託のない微笑みを、見せてくださいました。
は、はわわわっ。笑った彼も、その、カッコいいです……!
「あとアルコールは気分があがるっス。クリスさんもどうスか?」
「い、いえ。お酒は遠慮しておきます」
「そっスか。ソフトドリンクは?」
「あっ、それは、頂きます」
タリウムさんはベンチの下に置いていたボックスからオレンジジュースを取り出して、私に渡してくれました。
先程、ラボで美味しくない完全栄養食を頂いた後なので甘味が体に沁みます……!
「クリスさんは趣味とか好きな食べ物あるんスか?」
「あっ、わ、私のですかっ。趣味は、えっと、実はコミックを読むのが好きでして。アニメもちょっと、見てます」
サブカルチャーが大好きで、コミックやアニメにどっぷりハマっている。なんてタリウムさんには言えないので、ちょっとボカして答えてしまいます。
でもコミックやそれを元にしたアニメって子供向けの物だけではなく、実写のドラマを絵に起こしたような、読み応えのある物も沢山あるんですよっ!? 同僚の仲間には低年齢層向けな印象持たれていますがっ!
「あと私は母の作ってくれたチェリーパイが大好きで、今も実家に帰ったら強請ってしまう程です。寮でも母のレシピを再現しようとしているんですけど、これがなかなか上手くいかなくて」
「チェリーパイ……。作れる奴がいたら作らせてみるっスね」
「えっ?」
「あぁ俺達、持ち回りで食事当番しているんスよ。食事に限らず掃除や洗濯とか、家事全般」
「そうではなくて、その、味がわからないんでしょう? 話題に出したのは私ですけど、無理に食べてくださる必要は」
「? 食感は俺も機能しているっスよ? 匂いもわかります。別に無理なんてしてませんが?」
や、優しい……! タリウムさんが私を知ろうと、私が話に出した物の理解を深めようとしてくれています!
すごく、嬉しいです!
「あ、ありがとうございます」
「? お礼? 何故?」
「い、いえお気になさらずっ!」
私は慌てて手を大きく振って誤魔化しました。そしてこれ以上、突っ込まれないよう話題を変えます。
「あのっ、タリウムさんはコミック読みますか!?」
「いや……。ネグラにも図書館? と呼ばれる所はあるんすけど、コミック? は置いてないっスね」
「ない!?」
ええ~っ!? ないのですか!? 一冊も!?
「アメリカンコミックが! ジャパンコミックが! フランスのコミックも面白い物があるのに、ないのですか!?」
「う、うっス」
「で、では、アニメを観たこともないのですか!? いえ、それ以前に映画やドラマ、バラエティ番組など観られるのでしょうか!?」
「え、ええと、確か映画やドラマ鑑賞の出来るさぶすく? と言う奴と契約はしていたと、思うっス。あにめもそれで観られるとは思います。カリウム……ええと俺とそっくりな奴はよく見ているみたいっスよ」
つまりサブカルチャー文化にアクセス出来る環境自体はあるのですね!
「あと図書館にコミックはないと言いましたが、電子書籍購入での閲覧は出来るっスよ。俺が本を読む事に興味ないだけというか、文字を追うのにまだ慣れていないというか……」
「も、もしよかったらですが、私のおすすめのアニメを見ませんか!? サブカルチャー慣れしていない方でも入りやすい作品がありますので! そこから原作に興味を持たれたら本を読むとかっ。本を読む事は教養に繋がりますからね。あっ、勿論強要は出来ませんけども!」
「う、うっス。じゃあご教授、頂きたいっス」
「はいっ!」
私達はその後、2時間ほどタリウムさんと話し込みました。タリウムさんはサブカルチャーの話も私の故郷の話も仕事で失敗した話も何でも、鬱陶しがらずに聞いてくださいました。
私が一方的に喋ってしまった気がして途中で謝罪もしたのですが、タリウムさんは「外の事を聞かせて欲しい」とおっしゃったのです。ウミヘビはあまり島から出られないので、外のお話は貴重なんだそう。
だから沢山、話してしまいました。
綺麗な海辺で、綺麗な殿方と、2人切りで。
まるで夢のようなひと時。
この時間がずっと続けばいいのに。なんて、私は任務も忘れて、そんな事を思ってしまった程です。
「さぁ? あの頃は健常者と感染者の区別が付いていなくて、わからないっス。今じゃ音や動きでも感染者を探り当てられるレベルになったんスけど」
「し、診断なしでわかるのですか!?」
「わかるっスよ。感染者って『珊瑚』によって比重が重くなるんで足音も重くなりますし、ステージが進むと硬化の影響で動きがぎこちなくなるっスから」
ステージ3になった珊瑚症の方はアメリカにも結構居て、私の知り合いにもいますが、変色した肌以外の変化ってわかりませんが?
タリウムさんは耳と目がとても良いのですね……。
「……まぁ、それで怒られも発生したんスけど」
タリウムさんは私から顔をそらして、気まずそうにそう言いました。
タリウムさん曰くそのお陰で現在、『再教育』の最中なんだとか。
「あの、貴方に殺しを命じていた人が誰だったのか、訊いてもいいですか?」
「誰だったんスかね? 『博士』という肩書きだった気はするんすが……。誰とも喋るのは禁じられていて、許されているのは命令が聞こえているかどうかの確認だけ。ハイかイイエかのサインだけ。
だからラボに来た最初、俺はろくに喋れなかったっス。発音の仕方も文字の読み書きも、計算の仕方もマナーってやつもここで初めて知った。飯の食い方も、ここで。それまでは錠剤だったんで。まぁ、未だに味の区別は付いてないんスけど」
お、重い。話の内容が虐待を受けて育った子供なんですが? 虐待サバイバーがようやくまともな施設に引き取られて、人間らしい生活を送れるようになった話なんですが? タリウムさん自身に虐待を受けた自覚がなさそうなのが、また辛い。
あ、でも、ウミヘビは人ではないので人権はないんでしたっけ。……同じ人の姿をしたウミヘビを自分勝手に扱うって、どうなんでしょう。私には理解できません。
「でも、気安い仲の奴と飯を食うのは、それなりに楽しめているっスね」
……あ。笑って、くれました。力の抜けた、屈託のない微笑みを、見せてくださいました。
は、はわわわっ。笑った彼も、その、カッコいいです……!
「あとアルコールは気分があがるっス。クリスさんもどうスか?」
「い、いえ。お酒は遠慮しておきます」
「そっスか。ソフトドリンクは?」
「あっ、それは、頂きます」
タリウムさんはベンチの下に置いていたボックスからオレンジジュースを取り出して、私に渡してくれました。
先程、ラボで美味しくない完全栄養食を頂いた後なので甘味が体に沁みます……!
「クリスさんは趣味とか好きな食べ物あるんスか?」
「あっ、わ、私のですかっ。趣味は、えっと、実はコミックを読むのが好きでして。アニメもちょっと、見てます」
サブカルチャーが大好きで、コミックやアニメにどっぷりハマっている。なんてタリウムさんには言えないので、ちょっとボカして答えてしまいます。
でもコミックやそれを元にしたアニメって子供向けの物だけではなく、実写のドラマを絵に起こしたような、読み応えのある物も沢山あるんですよっ!? 同僚の仲間には低年齢層向けな印象持たれていますがっ!
「あと私は母の作ってくれたチェリーパイが大好きで、今も実家に帰ったら強請ってしまう程です。寮でも母のレシピを再現しようとしているんですけど、これがなかなか上手くいかなくて」
「チェリーパイ……。作れる奴がいたら作らせてみるっスね」
「えっ?」
「あぁ俺達、持ち回りで食事当番しているんスよ。食事に限らず掃除や洗濯とか、家事全般」
「そうではなくて、その、味がわからないんでしょう? 話題に出したのは私ですけど、無理に食べてくださる必要は」
「? 食感は俺も機能しているっスよ? 匂いもわかります。別に無理なんてしてませんが?」
や、優しい……! タリウムさんが私を知ろうと、私が話に出した物の理解を深めようとしてくれています!
すごく、嬉しいです!
「あ、ありがとうございます」
「? お礼? 何故?」
「い、いえお気になさらずっ!」
私は慌てて手を大きく振って誤魔化しました。そしてこれ以上、突っ込まれないよう話題を変えます。
「あのっ、タリウムさんはコミック読みますか!?」
「いや……。ネグラにも図書館? と呼ばれる所はあるんすけど、コミック? は置いてないっスね」
「ない!?」
ええ~っ!? ないのですか!? 一冊も!?
「アメリカンコミックが! ジャパンコミックが! フランスのコミックも面白い物があるのに、ないのですか!?」
「う、うっス」
「で、では、アニメを観たこともないのですか!? いえ、それ以前に映画やドラマ、バラエティ番組など観られるのでしょうか!?」
「え、ええと、確か映画やドラマ鑑賞の出来るさぶすく? と言う奴と契約はしていたと、思うっス。あにめもそれで観られるとは思います。カリウム……ええと俺とそっくりな奴はよく見ているみたいっスよ」
つまりサブカルチャー文化にアクセス出来る環境自体はあるのですね!
「あと図書館にコミックはないと言いましたが、電子書籍購入での閲覧は出来るっスよ。俺が本を読む事に興味ないだけというか、文字を追うのにまだ慣れていないというか……」
「も、もしよかったらですが、私のおすすめのアニメを見ませんか!? サブカルチャー慣れしていない方でも入りやすい作品がありますので! そこから原作に興味を持たれたら本を読むとかっ。本を読む事は教養に繋がりますからね。あっ、勿論強要は出来ませんけども!」
「う、うっス。じゃあご教授、頂きたいっス」
「はいっ!」
私達はその後、2時間ほどタリウムさんと話し込みました。タリウムさんはサブカルチャーの話も私の故郷の話も仕事で失敗した話も何でも、鬱陶しがらずに聞いてくださいました。
私が一方的に喋ってしまった気がして途中で謝罪もしたのですが、タリウムさんは「外の事を聞かせて欲しい」とおっしゃったのです。ウミヘビはあまり島から出られないので、外のお話は貴重なんだそう。
だから沢山、話してしまいました。
綺麗な海辺で、綺麗な殿方と、2人切りで。
まるで夢のようなひと時。
この時間がずっと続けばいいのに。なんて、私は任務も忘れて、そんな事を思ってしまった程です。
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