上 下
91 / 236
第五章 恋する乙女大作戦編

第90話 乙女の試合参入!

しおりを挟む
「い、い、生贄っ!?」

 物騒なお願いをされてしまい、私はつい震え上がってしまいます!

「水銀さん、一体何を言い出すんだ」
『この調子だとパラチオンは五日五晩暴れ狂うでしょうから、壁にぶち当たらせて頭を冷やさせようと思ったのよ。具体的に言うとお嬢さんをパラチオンの護衛対象にするわ』
『護衛? 俺様が?』

 水銀さんの言葉に、パラチオンが不思議そうに首を傾げます。

『人間を守るのがどういう事か。理解出来ない限りは遠征なんて夢のまた夢と考えなさいな』
『守る? 軟弱な人間を? 何の為に?』
『アンタねぇ、遠征先では人間の為に働かされるからに決まっているでしょう。菌床があるからって現場を更地にすればいい訳じゃないのよ?』

 確かに水銀さんの言う通り、パラチオンを災害現場に投入したらハリケーンの通過跡のような光景が残りそうです。それでは軍隊を派遣した時と、被害の大きさが変わりありません。

『ま、自信がないなら辞退して自室に戻りなさいな。ボクはどちらでもいいわ』
『……クハハッ! 面白い。小娘一人、壊さなければいいんだな?』
『怖がらすのもNG。いいわね?』
『注文の多い……。が、わかった』

 パラチオンは水銀さんに煽られると、あっさり言う事を聞きます。もしかして、根っこが単純?
 しかしこれで話は纏まらず、フリーデンさんが慌てて止めに入ります。

「待て待て水銀! ちょっと待て! 警察とはいえ部外者を巻き込めないって! 生贄作戦なら偽物デコイか、俺達が代わりに入るから!」
『それだと緊張感が足りないでしょう? クスシはアイギスがいる以上、本人の意思無視して出てきたりするのだし』
「そうだとしても危ないだろ色々と!」
『あらぁ? このままパラチオンが【檻】から飛び出してもいいのかしら? あいつの事だからネグラ内どころか、鉄柵壊しかねないわよ』
「そ、れは俺がどうにか止めるから……っ!」
「あのっ!」

 私は再び挙手をして、フリーデンさんに自分の意見を申し立てます!

「私、行きます! 仮想空間の中に、入らせてください!」
「えぇ~っ!?」
「クリスさん、考え直した方がいい。今見て貰った通り、ウミヘビの試合は血吹雪や四肢が飛ぶ過激な物だ。間近で見れば精神に負担がかかる」
「私は警察です! 人のご遺体も、……感染者のご遺体も、見慣れています! 機密区間であるネグラに入れさせて貰ったお礼も込めて、私にお手伝い出来る事はさせてください!」

 私はフリーデンさんとモーズさんに思ってもいない事を、力強く言いました。これはお礼などではありません……いえちょっと感謝はしてますが、ともかく!
 ウミヘビの戦闘を間近で観察出来る絶好の機会! 逃したくありません!

『お嬢さんが乗り気なんだからいいじゃない。空いている卵型機器カプセルに入ってこっち来なさいな』
「は、はいっ!」
「おいおいマジかよ~。後でユストゥスさんの雷落ちるだろこれぇ」
「だ、大丈夫なのか?」
『なるべく早く終わらせるから、それで勘弁して頂戴』

 水銀さんには何かしら勝算があるようです。詳しく聞きたいですがパラチオンに聞かせる訳にはいかないので、私はフリーデンさんに操作を教わりつつ卵型機器カプセルの椅子に座り、仮想空間へ意識を飛ばします!
 いざ! ウミヘビ達の元へ!

 ***

「よぅ、小娘」

 ひぇ。
 仮想空間に着いて早々、パラチオンの側に転移した私は彼に見下ろされ震え上がってしまいました。背丈は水銀さんとあまり変わらないのですが、威圧感が別物です。四白眼に凝視されるってこんなに怖いんですね?
 あと画面越しだとわかりませんでしたが、身体が全体的に大きい。肩幅は広いし筋肉質。体積が私とまるで違う……。

「それで? 俺様はこの小娘を抱えていればいいのか?」
「アンタは彼女を水晶玉のように丁寧に扱いなさいな。移動が楽だからって髪や足を掴んで投げるなんて御法度よ。アンタの力じゃ怪我じゃ済まないでしょうし」
「水晶玉か。実際、俺様からしたら人間は割れ物と同じか」

 頑丈なウミヘビの身体に素手で穴を空けられるパラチオンの力。銃や鋭利なナイフと変わらない脅威。
 それを思い出してしまい、私はちょっと仮想空間に入れさせて貰った事を後悔しました。

「ルールは、そうねぇ。ボク達の誰かがお嬢さんをアンタの手中から奪えばアンタの負け。力不足に打ちひしがれなさいな」
「俺様の勝利条件は考えているのか?」
「それって必要? アンタがお嬢さんを抱えている間は、ずーっと付き合ってあげるわよ。アンタが飽きるまでね」
「……へぇ、いいではないか」

 はわわわ、口角を上げるパラチオンの顔怖い。
 あ、他のウミヘビからどよめきと勝手に決めるなブーイングが上がっています。けど水銀さんは全く聞く耳を持っていません。これが強者の余裕という奴ですかね?

「フリーデン、神殿を修復してくれる? 流石にボロボロだから」
『いいけど、本当に手短に終わるのか? パラチオンやる気満々で怖いんだけど?』
「終わるわよ。ボクが何度あのお子ちゃまに付き合ってあげていると思っているの。嫌でもあやし方を覚えたわ」
『それならまぁ、任せるけど。いざとなったら強制終了するからな~?』
「わかっているわ」

 水銀さんはそこで訓練室のフリーデンと繋がる小窓を消しました。
 その後、石柱は折れ屋根裏が割れ床は亀裂の入っていない所の方が少ない神殿は、水銀さんの指示通り瞬く間に元の姿へ戻ります。
 これで舞台は整った、という奴でしょうか?

「いい? 他の子達もお嬢さんを傷付ける真似は禁止よ? お客様なんだから丁重に扱いなさいな」
「水銀お前ぇ、尽く俺達を無視して話を進めやがって……!」
「そう怒らなくていいじゃない、ニコチン。普通にパラチオンに付き合っていたら5日は拘束されるんだから。寧ろ時短方法を用意したボクに感謝して欲しいくらいだわ」

 水銀さんが不満でいっぱいそうなニコチンを宥めて、銀色の細剣を手に持ちます。

「それでもやる気が出ない、っていうなら仕方ないわね。真っ先にお嬢さんを奪還出来た奴には、褒美をくれるようクスシに掛け合ってあげるわよ。が」

 あ、またウミヘビ達がどよめいています。今度は困惑ではなく、歓喜のどよめき。
 立場が上っぽい水銀さんの言葉には、重みがあるようです。

「さぁ、お姫様奪還試合ゲーム。開始しましょ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

性転換ウイルス

廣瀬純一
SF
感染すると性転換するウイルスの話

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

未来世界に戦争する為に召喚されました

あさぼらけex
SF
西暦9980年、人類は地球を飛び出し宇宙に勢力圏を広めていた。 人類は三つの陣営に別れて、何かにつけて争っていた。 死人が出ない戦争が可能となったためである。 しかし、そのシステムを使う事が出来るのは、魂の波長が合った者だけだった。 その者はこの時代には存在しなかったため、過去の時代から召喚する事になった。 …なんでこんなシステム作ったんだろ? な疑問はさておいて、この時代に召喚されて、こなす任務の数々。 そして騒動に巻き込まれていく。 何故主人公はこの時代に召喚されたのか? その謎は最後に明らかになるかも? 第一章 宇宙召喚編 未来世界に魂を召喚された主人公が、宇宙空間を戦闘機で飛び回るお話です。 掲げられた目標に対して、提示される課題をクリアして、 最終的には答え合わせのように目標をクリアします。 ストレスの無い予定調和は、暇潰しに最適デス! (´・ω・) 第二章 惑星ファンタジー迷走編 40話から とある惑星での任務。 行方不明の仲間を探して、ファンタジーなジャンルに迷走してまいます。 千年の時を超えたミステリーに、全俺が涙する! (´・ω・) 第三章 異次元からの侵略者 80話から また舞台を宇宙に戻して、未知なる侵略者と戦うお話し。 そのつもりが、停戦状態の戦線の調査だけで、終わりました。 前章のファンタジー路線を、若干引きずりました。 (´・ω・) 第四章 地球へ 167話くらいから さて、この時代の地球は、どうなっているのでしょう? この物語の中心になる基地は、月と同じ大きさの宇宙ステーションです。 その先10億光年は何もない、そんな場所に位置してます。 つまり、銀河団を遠く離れてます。 なぜ、その様な場所に基地を構えたのか? 地球には何があるのか? ついにその謎が解き明かされる! はるかな時空を超えた感動を、見逃すな! (´・ω・) 主人公が作者の思い通りに動いてくれないので、三章の途中から、好き勝手させてみました。 作者本人も、書いてみなければ分からない、そんな作品に仕上がりました。 ヽ(´▽`)/

【完結済み】VRゲームで遊んでいたら、謎の微笑み冒険者に捕獲されましたがイロイロおかしいです。<長編>

BBやっこ
SF
会社に、VRゲーム休があってゲームをしていた私。 自身の店でエンチャント付き魔道具の売れ行きもなかなか好調で。なかなか充実しているゲームライフ。 招待イベで魔術士として、冒険者の仕事を受けていた。『ミッションは王族を守れ』 同僚も招待され、大規模なイベントとなっていた。ランダムで配置された場所で敵を倒すお仕事だったのだが? 電脳神、カプセル。精神を異世界へ送るって映画の話ですか?!

処理中です...