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第五章 恋する乙女大作戦編

第85話 恋する乙女の心拍音…♡

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 私は水銀さんに「ちょっと失礼」と断りを入れられた上で、手首をにぎられました。握られている間も鼓動が高鳴るのを止められません!
 私は国連警察として、常に冷静でいなくてはならないのに!

「ほら、やっぱりドキドキしてる」
「わ、わかってしまいますか」
「ボクは水銀だもの、人の心音は手に取るようにわかるわ」

 体温や気圧の測定に使われる水銀さんは、触れた相手の脈拍や血圧、体温が正確にわかるんだそうです。
 ううう、筒抜けで恥ずかしい。

「……あっ」

 その時、ふと水銀さんが笑みを深めました。
 優しげな微笑ではなく、悪戯っぽい笑みといいますか、不敵な笑みといいますか、ともかくニヤリとちょっと怖い顔をしたのです。

「いい事、思い付いちゃった」

 彼は何か思い付いた様子。一体何を?

「誠に申し訳ない……!」

 私は水銀さんに訊ねようとしましたが、屋台バーの方からモーズさんが謝罪する声が聞こえ、そちらに意識が向いてしまいます。
 モーズさんはタバコを吸っているウミヘビに深々と頭を下げています。パラスの英雄で真面目そうなお方が、あの美形だけど舌にピアスまでした全体的に不良みたいなお方に謝罪をする理由とは? みかじめ料の用意ができなかった、とかじゃないですよね?

「あれだけ大口叩いといてお前ぇな」
「お土産なんていいよぉ、気にしなくて。そもそも買う暇なんてなかったでしょ~? 新人さんが無事だっただけでジューブンだよぉ」
「すまない、この埋め合わせはいつか必ず」

 あ、どうやらお土産を買い忘れたのが理由みたいです。予想よりも遥かに平和的な理由でした。
 モーズさんの謝罪がひと段落した所で、フリーデンさんが屋台バーの前まで近付いてぱんぱんと手を叩き、自分に注目を集めさせます。

「はいはい、謝罪が終わった所でクスシ命令発動で~す。ニコチン、訓練場集合」
「あ゙ぁ゙!? 俺にあの癇癪玉の相手しろってか!?」
「だって今マトモにあいつとやり合えるの、ニコチンぐらいだしなぁ」
「それで俺を持ち上げたつもりか!? 癇癪玉の相手ならそこの水銀に丸投げしろや!」
「丸投げは頂けないけど、手伝うのはいいわよ」
「えっ」
「マジ!?」

 水銀さんの承諾が得られると思っていなかったらしい、モーズさんとフリーデンさんが大層驚いております。

「ただし条件があるわ。タリウムも来なさいな」
「はぁ!? 俺っスか……!?」
「んじゃタリウムも同行な」
「うえええ……!」

 なんと、水銀さんが黒衣のお方、タリウム、タリウムさん……に同行を強要してきました! フリーデンさんからも命じられ、却下は出来ないご様子!
 あっ、あっ、どうしましょう。
 訓練場でしたっけ、そこまで一緒に来てくれると思うと、喜びを覚えてしまいます。
 おや? タリウムさんの双子らしきお方が席を立ち、忍足でこっそり屋台バーから離れようとしています。が、それを見逃すタリウムさんではなかったらしく、直ぐに気付くとガシッ! と上着の襟首を掴んで捕まえてしまいました!

「フリーデンさん、カリウムもどうッスかカリウム! こいつも今日暇スよ!?」
「タリウムおまっ!? 俺も巻き込むなよぉっ! 絶対行きたくないわ!」
「カリウム追加、と」
「い~や~だ~っ!!」

 双子のお方の名前はカリウムさんと、ちゃんと覚えなくては。タリウムさんと名前まで似ています。しかし確か、カリウムと言いますと人に必要な栄養の一つですよね? 栄養素もウミヘビとして存在できるんだぁ。
 そんなこっそりと逃げようとしたカリウムさんに限らず、屋台バーから人が離れていっています。皆さん余程、招集を受けたくないようです。
 そんな中、黄緑色の髪をした美男子が自分からフリーデンさんの前に身を乗り出し、胸元に手を当てて指名を志願してきました!

「フリーデン先生! 俺もご指名くださいっ!」
「いいけど、大丈夫か? 相手して貰うの絶賛大暴れ中のだぞ?」
「っ、た、タダでやられる俺ではありません……!」
「お、おう。その心意気は買ってやるよ。んじゃ来てくれ」
「はいっ!」

 黄緑色の髪をした美男子は頬に汗をかいて、ちょっと顔を歪めていましたが、それでもフリーデンさんのご指名を受けるとパァッと明るい表情になりました。
 人の為に(具体的な内容はわかりませんが)困難に立ち向かうなんて、何と健気な方なのでしょう。

「これで5人か。クロロホルムも訓練場で待ってくれているから合計6人」
「セレンにも声をかけるか?」
「あいつは今日、大食堂で食事当番だな。モーズが頼めば来てくれるだろうけど」
「いや、用があるのならばそちらが優先だ。このメンバーで向かおう」

 RPGゲームのように仲間を集え終えた所で、私達は屋台バーから離れ目的地であるという『訓練場』へ向かいます!

「ニコいってらっしゃ~い」
「は~……。行ってくる」

 赤ら顔のウミヘビがニコ、ええとニコチンって呼ばれていましたっけ? その方に手を振って見送っています。
 同じウミヘビっぽいのに彼は仲間に入れないのですね。毒素でなく栄養素であるカリウムさんは呼ぶのに(※誤り。栄養素でもあるカリウムだが立派な劇物)。不思議です。

「レッツ、鬼退治~」
「まさか人工島が鬼ヶ島になる日が来るとはな……」

 フリーデンさんとモーズさんを先頭に、ガラス張りのゲームセンターのビルのような訓練場に向けて、ぞろぞろ列を成して私達は進みます。
 先程から御伽話をモチーフにしたRPGゲームのように、魔王討伐みたいなノリで話が進んでいますが、この後ヴィラン退治が待っているのです? ヒーローが登場するアメコミみたく?
 疑問が尽きない私は、隣で歩く水銀さんにおずおずと訊ねてみました。

「あの、皆さんはこれから何を行うのですか?」
「簡単に言うと、ボス猿気取り野郎の鎮圧作業ね」
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