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第五章 恋する乙女大作戦編

第83話 迫る荒波

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 マイクが屋台バーへと近付いたその時、黄緑色の髪をした美男子が席から立ち上がって人差し指を向けてきた。

「おいおいおい! こいつ、アイギスがいない雑魚じゃねぇか! マスクもしてねぇ! 自殺希望者か? なら死ぬ前に俺の言うこと聞けよ!」
「クロール、朝っぱらから問題起こすな」
「黙ってろヤニカスが。俺はまだ何もしてねぇだろ」

 見るからに素行の悪そうな、不祥事を起こしてくれそうなウミヘビである。ひとまず紙タバコを吸うウミヘビに注意を受けた、クロールという名のウミヘビと接触してみよう。
 マイクは意を決して歩み寄ろうとし、

「あっ、いたっ! 先輩! 先輩っ!」
「先輩ぃいいいっ!!」
「先輩っ! たーすーけーてーっ!」

 黄色い髪色をした3人のウミヘビに目の前を、クロールとの間を通られて遮られてしまった。

「Dトリオ(※DCIPネマモルトDDVPジクロルボスDEPトリクロルホンの3人。全て殺虫剤)だぁ~。どうしたのぉ?」
「昨日からシミュレーターが無法地帯になっているんですぅ! 勝手に試合に乱入してくるんですよ、あの方! 先輩止めてぇっ!」
「知るかよ。仮想空間の中なんだ、好きなだけガス抜きさせとけ」
「あの方がおられる限り僕達の本日の訓練科目が終わりません! ヘルプ、ヘルプです~っ!」
「面倒くせぇ。他の第一課に頼め」
「水銀さまが何処かにいなくなってしまいましたし、今ネグラに居るウミヘビであの方に渡り合えるのは先輩だけですよ!? どうかご助力をーっ!」
「あははー。モテモテだねぇ、ニコ」
「なんっっっも嬉しかねぇ」

 黄色い髪色をした3人のウミヘビは『先輩』と呼ぶウミヘビに、必死に助けを請うている。マイクが行動を起こさずとも既に何か問題が起きているらしい。
 ならば自分にも責任が来る可能性がある『自らウミヘビと接触する』よりも、先にウミヘビ達が勝手に起こした問題を調査した方が上層部の受けもいいはずだ。

「貴様、ここで何をしている」

 だが調査に入る前に、マイクはクスシに見付かってしまった。

「テトラミックスから報せが来たと思えば……。クスシの断りなくネグラに入るなど、国連警察と言えど拘束されても文句は言えんぞ」

 苛立った様子でマイクの元に現れたクスシは大柄で、赤地に片翼の黒鷲のデザインのマスクを付けている。
 間違いない、事前に資料で確認していたクスシの一人『ユストゥス』だ。

「これはこれは、ユストゥス教授。お会いできて光栄です」
「白々しい。それに私はもう教授職についていない。その肩書きは誤りだ」
「これは失敬」

 マイクは人の良い笑みを浮かべ、極力温和にユストゥスと話す。

「私の名前はマイクと申します。半年前にも訪問したのですが、その時はろくに視察の任務を果たせなかった。今度こそ国連警察として、自分の目で見て回らなくては。そう思い、勝手ながら入らせて頂きました。あぁ、フリーパスはきちんと所持していますよ?」
「誰だそんなセキュリティ破壊物を発行した輩は。突き止めて締め上げねば」
「クスシとしましても、いざという時の為に国連の者が入れるようにしていた方がよいのでは?」
「いざという時など、来ない」

 ユストゥスは力強い声で、断言をした。

「視察をするおつもりならば、私が同行いたそう。まずはラボから如何だろうか?」

 そして先程よりも丁寧な態度で、案内を申し出てきた。
 暗にそれで満足して帰れ、と言っている。

「いいえ、大丈夫です。ユストゥスさん達は研究でお忙しいでしょうから。あぁ、研究と言えば、いつも貴方の隣に金魚の糞の如く纏わり付いている助手が見当たりませんね」
「教授を辞した私に助手など……」
「そうそう、確かフリードリヒ。

 マイクのその発言を聞き、ビキリと、ユストゥスの手の甲に血管が浮き出る。

「……貴様、大西洋の底に沈めてやろうか」

 そして低い声と共に、張り詰める空気。
 感情の起伏の激しいユストゥスを怒らせるのは簡単だ。特に、元助手の話を出せば。

(このままユストゥスの人間性に難あり、と上層部に示すのもありか……)
「先生、ユストゥス先生っ! お、お、お取り込み中失礼いたしますっ!」

 しかしそんなひり付いた空気を、話に割って入ってきた薄緑色の髪をしたウミヘビが壊してしまう。

「どうした、クロロホルム」
「シミュレーターが、大変です……っ! が昨日からずっと暴れ回っていて、手が付けられませんっ!」
「仮想空間の中ならば問題なかろう。どうしてそう慌てている」
「あの人が暴力の限りを尽くした結果、他のウミヘビがシミュレーターから逃げ出してしまいましたっ! そろそろ相手がいなくなった怒りと不完全燃焼で、【檻】を壊して出てくるかもしれません~っ!」
「何っ!?」

 涙目でユストゥスに縋るウミヘビことクロロホルム。そう言えば黄色い髪のウミヘビ3人組も、問題が起きたと騒いでいたのだった。
 これは好都合。と、その問題に意識が向かっている内に視察を済ませるべく、マイクは足早にその場から離れにかかった。

「問題が発生したようですね。あぁ、私の事はお気になさらず」
「あっ、待たんか貴様っ!」

 マイクを見失う訳にはいかないと、ユストゥスも後を追ってくる。
 だからと問題を無視は出来ない為、腕時計型電子機器を操作し通話を開始した。

「フリッツ! フリッツ! ネグラに来れないか!?」
『ごめん、ユストゥス。こっちも離れられない。怪我人が出てしまって対処に追われている。この人が歩けるなら一緒に連れて行けたんだけど、難しそうだ』
「ええい、勝手に来ておいて早々に怪我とは傍迷惑な警官だな!」

 ユストゥスはフリッツの助力が望めないとわかると、直ぐに通信相手を切り替える。
 相手は自分の指示を素直に聞いてくれる、新人だ。

「フリーデン、モーズ! 応答しろ! そして側にいるという警官を連れてネグラに来い!!」

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