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第三章 不夜城攻略編
第59話 ホログラム飲み会
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「おっ、モーズ! お帰り!」
日が西の海に落ちてから随分と経ち、夜も更けた時間。
それにも関わらず、寄宿舎に戻ったモーズをフリーデンはエントランスで出迎えてくれた。ソファに座って、ずっと待っていてくれたらしい。
「遠征、大変だったみたいだなぁ! 二日連続で行ったんだし、明日は無理するなよ?」
「……気遣い、感謝する」
何かと気を掛けてくれるフリーデンの存在はとても有り難いが、モーズはあまり言葉を返せない。
今日は色んな意味で打ちのめされてしまって、気力が削がれたからだ。
「ニコチンが寝込んだって聞いたし、お前は何か包帯巻いているし、大丈夫か? 念の為、診てやろうか?」
「頭のこれは、かすり傷だ。大事ない」
「あとめっちゃ元気ないな。疲労もあるんだろうけど……」
フリーデンにまじまじと頭に巻いた包帯を見詰められ、モーズは居心地悪そうに身体を揺らす。
これはネグラの医務室で処置をして貰った際の包帯だ。仰々しく包帯が巻かれているものの実際、傷は大した事はなく、遠征から帰還の時点で出血は止まっていた程度の軽傷。フリーデンに診て貰う必要はない。
ただそこで「診る」という選択肢が即座に出てくるのは、流石はクスシと言うべきか。
「私は、何ともない。それは本当だ。しかし自分の無力さを突き付けられて、な。少々、自己嫌悪に陥っていた」
「ユストゥスさんの指導厳しいもんなぁ」
「いいや、彼の指導はとても為になった。寧ろ奮い立たせて貰ったよ。そうではない、そうではないんだ……」
今回の遠征の事が脳裏に過ぎる度に、モーズは気分が沈み、マスクの口元を手で覆った。
「すまない。少し休む」
「おう。けど、もうちょい俺と付き合う気ないか? 自室で休みながらでいいんだけどさ」
そう話しながらフリーデンはソファの脇に置いていた2つのビニール袋を取ってくると、その内の一つをモーズに渡してきた。
手に取ったビニール袋は意外と重い。中身を確認すれば、入っていたのは複数の缶チューハイであった。
「これ。モーズ達が遠征に行くの見送った後、アセトがくれたんだよ。それで、ホログラム飲み会しねぇか?」
「ホログラム飲み会?」
「ビデオ通話の進化版って所かな。自動人形使って通話相手を部屋に投影して、ソーシャルディスタンスを保ちつつ、お互いの顔どころか全身を見ながら一緒に飲んだり食べたり出来るんだ」
「それは凄いな。私にはホログラム機器は高価で手が出せなくて、知らなかった」
「そうだと思った。部屋に戻ったら通話でやり方教えるよ。楽しいぜ~?」
「……ありがとう、フリーデン」
そうして飲み会をする約束をした二人はエレベーターの前に向かい、扉が開くのを待つ。
「それとなぁ。俺は落ち込んだり嫌気がさした時はさ、よく星を見るんだ」
「星? 夜空の星か?」
「そう。結構好きなのよ。そんで、ラボには何でか知らないけど天文台がある。そこで望遠鏡を覗き込んで流れ星とか眺めながらぼーっとすると、落ち着けるんだ」
チン。
丁度エレベーターが地上階に辿り着き、扉が開く。
「モーズはさ、疲れた時とか、何も考えたくなくなった時はどうしたい?」
そしてモーズと共にエレベーターに乗ったフリーデンは、そう問い掛けてきた。
「私か、私は……。ただ、植物を眺めるのが、草花が風に揺れる様をただ眺める時が、落ち着くな」
「そっか。それも平和的で穏やかで、いいなぁ」
チン。
エレベーターは直ぐに2階へ辿り着き、二人は廊下に出る。
そこでモーズは、自室のドアノブにビニール袋がかかっている事に気付いた。
「袋? フリーデンのか?」
「いや俺のはさっき渡したろ。誰の何だ?」
不思議に思いながらモーズが袋を手にして中身を確認してみると、そこには真空パックで包装された白ソーセージ数本とビールの缶が入っている。
加えてメモ帳が一枚。そこにはドイツ語で『手洗いうがい消毒してから飲食しろ』と走り書きで書かれている。
「これは一体……」
「この筆跡、ユストゥスさんだな」
「ユストゥスが、これを?」
「真空パック飯って、アバトンじゃ転移装置で通販しないと買えない高級品なんだけど……。ははっ! あの人も不器用っていうか、素直じゃないな~っ!」
遠回しなユストゥスの気遣いを前に、フリーデンは笑いながらバシバシとモーズの肩を叩く。
「い……っ!!」
直後、モーズは短い悲鳴を上げ身体を強張らせた。
「……モーズ?」
「……何でもない」
「何でもなくないだろ。上脱げ。今すぐ」
「み、診て貰う程のものではないっ!」
「ええいっ、先輩の言う事が聞けないのか~っ!」
顔をそらし意固地になっているモーズを無視し、都合の良い時に先輩面をしたフリーデンは彼に掴み掛かると彼の白衣と中のシャツを強奪し素肌を晒させた。
モーズの背中や脇腹の一部は珊瑚症の影響で薄らと赤く染まり、幾らか硬化している。だがフリーデンが見たかったのはそこではなく、彼の隠している患部だ。
そして案の定、モーズの右肩は腫れあがっていた。
「あーっ! めっちゃ腫れてんじゃんっ!! つか脱臼した? この腫れ方は脱臼したなお前っ!?」
「ぐっ、誤魔化せないか。その、フリッツやユストゥスには内密に」
「おーまーえ明日も遠征あったら行く気か!? そうでなくとも動き回る気だろ! 休め馬鹿! 大人しくしてろ! てかもう固定しろ固定っ!! そこの自動人形、救急箱持ってこいっ!! あと氷っ!!」
結局、飲み会どころではなくなってしまい、モーズはフリーデンに説教を受けながら、自動人形のレントゲン機能も使用した上で患部の手当てをしっかり受けるハメになった。
医師免許を持っているだけあってフリーデンの処置は完璧で、モーズの肩と右腕は固く固定されてしまったのだった。
▼△▼
次章より『一時帰宅編』、開幕。
ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。
これにて不夜城攻略編、完結です。チュートリアルが終わり、いよいよ話が動き出した章ですね。
もしも面白いと思ってくださいましたらフォローや応援、コメントよろしくお願いします。
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日が西の海に落ちてから随分と経ち、夜も更けた時間。
それにも関わらず、寄宿舎に戻ったモーズをフリーデンはエントランスで出迎えてくれた。ソファに座って、ずっと待っていてくれたらしい。
「遠征、大変だったみたいだなぁ! 二日連続で行ったんだし、明日は無理するなよ?」
「……気遣い、感謝する」
何かと気を掛けてくれるフリーデンの存在はとても有り難いが、モーズはあまり言葉を返せない。
今日は色んな意味で打ちのめされてしまって、気力が削がれたからだ。
「ニコチンが寝込んだって聞いたし、お前は何か包帯巻いているし、大丈夫か? 念の為、診てやろうか?」
「頭のこれは、かすり傷だ。大事ない」
「あとめっちゃ元気ないな。疲労もあるんだろうけど……」
フリーデンにまじまじと頭に巻いた包帯を見詰められ、モーズは居心地悪そうに身体を揺らす。
これはネグラの医務室で処置をして貰った際の包帯だ。仰々しく包帯が巻かれているものの実際、傷は大した事はなく、遠征から帰還の時点で出血は止まっていた程度の軽傷。フリーデンに診て貰う必要はない。
ただそこで「診る」という選択肢が即座に出てくるのは、流石はクスシと言うべきか。
「私は、何ともない。それは本当だ。しかし自分の無力さを突き付けられて、な。少々、自己嫌悪に陥っていた」
「ユストゥスさんの指導厳しいもんなぁ」
「いいや、彼の指導はとても為になった。寧ろ奮い立たせて貰ったよ。そうではない、そうではないんだ……」
今回の遠征の事が脳裏に過ぎる度に、モーズは気分が沈み、マスクの口元を手で覆った。
「すまない。少し休む」
「おう。けど、もうちょい俺と付き合う気ないか? 自室で休みながらでいいんだけどさ」
そう話しながらフリーデンはソファの脇に置いていた2つのビニール袋を取ってくると、その内の一つをモーズに渡してきた。
手に取ったビニール袋は意外と重い。中身を確認すれば、入っていたのは複数の缶チューハイであった。
「これ。モーズ達が遠征に行くの見送った後、アセトがくれたんだよ。それで、ホログラム飲み会しねぇか?」
「ホログラム飲み会?」
「ビデオ通話の進化版って所かな。自動人形使って通話相手を部屋に投影して、ソーシャルディスタンスを保ちつつ、お互いの顔どころか全身を見ながら一緒に飲んだり食べたり出来るんだ」
「それは凄いな。私にはホログラム機器は高価で手が出せなくて、知らなかった」
「そうだと思った。部屋に戻ったら通話でやり方教えるよ。楽しいぜ~?」
「……ありがとう、フリーデン」
そうして飲み会をする約束をした二人はエレベーターの前に向かい、扉が開くのを待つ。
「それとなぁ。俺は落ち込んだり嫌気がさした時はさ、よく星を見るんだ」
「星? 夜空の星か?」
「そう。結構好きなのよ。そんで、ラボには何でか知らないけど天文台がある。そこで望遠鏡を覗き込んで流れ星とか眺めながらぼーっとすると、落ち着けるんだ」
チン。
丁度エレベーターが地上階に辿り着き、扉が開く。
「モーズはさ、疲れた時とか、何も考えたくなくなった時はどうしたい?」
そしてモーズと共にエレベーターに乗ったフリーデンは、そう問い掛けてきた。
「私か、私は……。ただ、植物を眺めるのが、草花が風に揺れる様をただ眺める時が、落ち着くな」
「そっか。それも平和的で穏やかで、いいなぁ」
チン。
エレベーターは直ぐに2階へ辿り着き、二人は廊下に出る。
そこでモーズは、自室のドアノブにビニール袋がかかっている事に気付いた。
「袋? フリーデンのか?」
「いや俺のはさっき渡したろ。誰の何だ?」
不思議に思いながらモーズが袋を手にして中身を確認してみると、そこには真空パックで包装された白ソーセージ数本とビールの缶が入っている。
加えてメモ帳が一枚。そこにはドイツ語で『手洗いうがい消毒してから飲食しろ』と走り書きで書かれている。
「これは一体……」
「この筆跡、ユストゥスさんだな」
「ユストゥスが、これを?」
「真空パック飯って、アバトンじゃ転移装置で通販しないと買えない高級品なんだけど……。ははっ! あの人も不器用っていうか、素直じゃないな~っ!」
遠回しなユストゥスの気遣いを前に、フリーデンは笑いながらバシバシとモーズの肩を叩く。
「い……っ!!」
直後、モーズは短い悲鳴を上げ身体を強張らせた。
「……モーズ?」
「……何でもない」
「何でもなくないだろ。上脱げ。今すぐ」
「み、診て貰う程のものではないっ!」
「ええいっ、先輩の言う事が聞けないのか~っ!」
顔をそらし意固地になっているモーズを無視し、都合の良い時に先輩面をしたフリーデンは彼に掴み掛かると彼の白衣と中のシャツを強奪し素肌を晒させた。
モーズの背中や脇腹の一部は珊瑚症の影響で薄らと赤く染まり、幾らか硬化している。だがフリーデンが見たかったのはそこではなく、彼の隠している患部だ。
そして案の定、モーズの右肩は腫れあがっていた。
「あーっ! めっちゃ腫れてんじゃんっ!! つか脱臼した? この腫れ方は脱臼したなお前っ!?」
「ぐっ、誤魔化せないか。その、フリッツやユストゥスには内密に」
「おーまーえ明日も遠征あったら行く気か!? そうでなくとも動き回る気だろ! 休め馬鹿! 大人しくしてろ! てかもう固定しろ固定っ!! そこの自動人形、救急箱持ってこいっ!! あと氷っ!!」
結局、飲み会どころではなくなってしまい、モーズはフリーデンに説教を受けながら、自動人形のレントゲン機能も使用した上で患部の手当てをしっかり受けるハメになった。
医師免許を持っているだけあってフリーデンの処置は完璧で、モーズの肩と右腕は固く固定されてしまったのだった。
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