世界を支配する悪い魔女は こっそり気紛れの人生を過ごすことにした ~可愛い勇者に倒して貰うまで~

白山 いづみ

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朝焼けを抱く

アルヴァとミラノ

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 護衛官が持ってきた軽食をとってから、アルヴァとミラノは官公庁を出た。
 ミラノはアルヴァの外套を羽織っている。
 体調不良だったはずの聖女が突然街中に現れる訳にもいかないだろう。
 
 
「はぁ~あ、それにしても7日って……教会のみんなには凄く迷惑かけちゃったなぁ……特にセフィシス、大変だったろうなぁ……」
「シヅキさんも協力してやりくりしていたようです。いなくなっていた理由は、皆にはどう伝えますか? 『魔女の師匠』に連れ出されていたというのは色々誤解を招きそうなので、伏せた方が良さそうですが……」
「あ、そうですよね。う~ん……《魔物を消す力》を進化させる修行へ行ってきました……みたいな……?」

 歩きながら考えていると、足元から、静かに不気味な振動が響いてきた。
 朝最初に揺れてからというもの、今日だけで何度も繰り返している現象だ。
 
「……この揺れは……」
 ミラノが、そっと地面に触れた。
「リースが、地鳴りだと言っていました。俺には地震と地鳴りの違いがわからないのですが……」
「そ、そこまで詳しいことは私にもわからないです。でも、何かが……大地の奥で動いてる……?」
 
 そういうミラノの横顔から、やはりどこかソーマと同じような感じがする。
 世界の力を掴んできた、という影響なのだろうか?
 ――もしかすると、ソーマが吸血鬼を手懐けた謎の能力も、世界の力に関わりがあるのだろうか?

「あれ? リースさんが……ってことは、戻ってきてくれたんですね!」
「はい、リースは人間になる為に、ヒカゲを探していたようです。それと魔女からは、聖女様の力が必要……という話も聞いていたようでした」
「え……2人とも普通に魔女……イオエルさんとお話してるなんて、ずるいじゃないですかっ! いいなぁ……!」

 アルヴァ自身も、リースから話を聞いたときは同じ事を思った。
 ぱっとそんな感情を見せるミラノの反応は、やはり、嬉しい。

 暫くすると地鳴りも収まり、ふたりで多くの事を喋りながら、夕焼けのフェリアの街を歩く。
 途中で、お詫びのため、といってミラノが沢山買ったお菓子の箱を抱えて歩き、教会に帰りついた時にはすっかり暗くなっていた。




「ミラノ~!! もう、ほんと心配したのよ~!」
 教会へ帰りついて一番に聖女ミラノに飛びついてきたのは、協会の代表達と一緒に食事をとっていた、あの薄い髪色の聖使だ。
「セフィシス! 本当にごめん、大変だったよね……!」
 シヅキとも仲が良さそうだったこの聖使が、教会の中で一番聖女の補佐をしているのだろう。

 宿舎の広間に次々と聖使達が集まってきて、突然消えた『光明の聖女』の突然の帰還に、歓声をあげた。
 事情はあとで説明することにしたが、お菓子を配って皆に声をかけるミラノをみていると、皆から慕われているのがよくわかる。

 そうしているうちに、さっきの聖使がそっと声をかけてきた。
「アルヴァさん、中央議会での事件の連絡は貰ってます。ミラノを送ってきて頂き、ありがとうございます」
「いや、俺も聖女様には助けられました。セフィシスさん。協会のほうも、お世話になっているようですね」
 
 ソーマの料理を囲んでいた時も、彼女は横から的確な助言をしてくれた。
 優しげで柔らかい雰囲気だが、行政事情に詳しくて協会にも協力しているという事は、この教会の中で貴重な人材だ。

「あはは……シヅキさんを訪ねてくる方をご案内する位しかできませんけど。あ、いま協会代表のお二人はアキディスさんとお出かけになりましたけど、リースさん達は講堂にいるはずです」

「わかりました。では一旦俺もそっちへ合流します」
 無事に『光明の聖女』を教会へ送り届けたから、一息つくことができた。
 リースが人間になるための方法について相談しないといけないが、それは聖女ミラノの身の回りが落ち着いてからの方が良いだろう。

 
 賑やかな広間を出て、木の香りがする教会宿舎の廊下を歩く。
 ……なんだか、凄い1日だった。
 小さく息をつき、すっかり暗くなった宿舎の中庭をなんとなく眺める。

 暗くなった教会宿舎の中庭を、小さな女の子がサッと駆け抜けていった。
 一瞬のことでよく見えなかったが、教会で保護している孤児だろうか?
 


「あっアルヴァ。やっと帰ってきた~! もう、こっちは情報ぐちゃぐちゃで大変だったんだからね!」
 廊下の向こうからそう文句を言いながら駆け寄ってきたのは、疲れた顔をしたアクアだ。
 
「ああ。中央議会での件が伝わってるのか?」
「それよ。いきなり魔女が直接手を下してくるなんて、朝話してた前提が吹っ飛んだじゃない。も~、飛行キカイの事で頭いっぱいなのに、余計考えなきゃいけないことが増えて、もう何がなんだか……。」

 記憶喪失が嘘だと自白してからのアクアは、今までよりも頭の回転が早い。
 それにぼやきを含めた口数が、一気に増えた気がする。
 アルヴァは、溜め息をつくアクアの肩をポンと叩いた。

「元々、代表達に俺のわがままを聞いて貰っただけの事だ。そもそも協会の目的は、魔女を倒すこと。いま総議長の主導で緊急会議が開かれているから、結果をみてから状況に合わせた方針を考えるしかないだろう」

 
「……落ち込んでると思ってたのに、なんか、嬉しそうね? まさか、あの可愛い聖女様と一緒だったから浮かれてる?!」
 じと、と覗き込んできたアクアの想像力が、あらぬ方向に飛んだ。

「そ、そんな事は……。仮にも聖女様に、不敬だろう。色々話が出来て、肩の荷が降りたのは確かだが」
「…………ふ~ん? なるほど~? うちのアルヴァくんが、ついに恋に目覚めたのね……恋色沙汰なんて無駄だろって態度の、あのアルヴァくんがね~。やっと少し大人になったのね~……!」
 
「だから、違う!」
 
 ――ずっと会いたかった魔女と会えて、彼女の名前を教えて貰えた。
 僅かな時間だったが、それがとても嬉しかったのは確かだ。
 それをアクアに打ち明ける訳にも……いや、聖女には打ち明けたから、いいのか?
 しかしまずは、リースに話すべきだろう。

「そうだ。リースは今何をしている? 帰還した聖女様が落ち着いたら、例の件を相談しに行かなくては」
 
「ふむ、誤魔化したのがリース様の為なら許してあげる。飛行機械の操作関係で実際の機械を詳し触ってたんだけど、頭痛がするみたいで、今休憩にしたところよ。なんか、人間だった頃の記憶が、飛行機械と関係ありそうな気がするわ」
 思いがけず、アクアの口から鋭い話が出てきた。
 
「……頭痛か……」
 ここ数日で、身の回りの人間が体調を崩す事が増えているのは、ただの偶然だろうか?
 決して軟弱ではない顔ぶれの筈なのに――。

「リース様が人間だったのって、夜空にもうひとつの太陽があったっていう、創世記以前の時代よね? もしリース様との記憶に飛行機械があるなら、創世記前の時代って、実は今よりもっと高度な文明だったんじゃない? ねぇアルヴァ、そう考えたら、面白くない?!」

 ……このよく喋るアクアの発想力は、どうなっているんだ?
 
「斬新な発想だな。リースが全部の記憶を取り戻す事があったら、直接確認してみるといい」
「勿論よ。あ、アルヴァ、夕食はとった? おなかすいたから厨房行こうとしてたんだけど、何か一緒に用意しようか」
「ああ、じゃあ軽食を頼む」
「ソーマほどの味は期待しないでね~」

 そういって廊下を走っていったアクアの背中を見送る。
 
 ――ソーマは、まだ戻っていないのか?
 聖女ミラノが得た世界の力について、少し話をしたかったのだが……。
 ノーリの状態があまり良く無いのか?
 いや、もしかすると初めて訪れたこのフェリアの街の観光を、満喫しているかもしれない。

 ふざけた言動が目立つが、ソーマの実力は突出している。
 魔女について記述したフェイゼルの本を読めるからと連れてきたが、彼は不思議な部分が大きい。

 
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