世界を支配する悪い魔女は こっそり気紛れの人生を過ごすことにした ~可愛い勇者に倒して貰うまで~

白山 いづみ

文字の大きさ
上 下
87 / 115
朝焼けを抱く

魔女探し協会と総議長

しおりを挟む
 
 フェルトリア連邦の中央都市フェリア。
 その中央教会に、静かな動揺がひろがっていた。
 教会の代表者である聖女が、夜の礼拝を最後に忽然と姿を消した。
 
 教会に集う人々へ不安を与えないよう、聖使達は風邪を理由にして取り繕ってはいるが、7日も経過すると――。

「聖女様の風邪……長くない? 大丈夫なの?」
「なんか聖使さん達も、混乱してるみたい」
「まさか、昔の聖女様みたいに、ご病気が悪化して……」
「ここだけの話、突然消えちゃったって噂も…………」

 
 教会の周辺に漂う不穏な空気を足早に突っ切り、すっかり魔女探し協会の拠点になっている教会内のシヅキの部屋に、新たな来訪者が訪れていた。
 
 
「――こんな時に押し掛けて、悪いな。シヅキ」
 
「クレイさん。こっちに向かうっていう連絡鳥がつい先日届いたばかりですよ? 相変わらずの俊足ですね」
「俺達の魔女探し協会は、天使教会に間借りしてる身だしな。迅速な行動も、誠意のひとつだ」
 
 そういって旅装を解いた黒髪の30代後半の男は、ポンとシヅキの肩を叩いた。
 
 魔女探し協会の創設者、クレイ=ファーガス。
 現役の魔女探しだった時に築いた広い人脈を生かし、国を跨いで協会を設立した。
 いつもはリュディア王国の天使教会を拠点にしているが、遠方でもかなりの速さで駆けつけるところが、人脈の広さに結びついているのだろう。
 

「それで、協会で扱って欲しいっていう飛行機械ご一行は、まだ着いてないのか」
「馬車には機械を積んでいますからね。それよりクレイさんが速すぎるんです。何ですか通常の2倍の移動速度って」
「飛行機械の話を受けに来たのもあるが、王から任された案件もあってな……。中央教会の聖女様に仲介を頼みたかったんだが」
「仲介? 王様から任されるような事って……?」

 クレイは人脈こそ広いが、リュディア王国の行政に役職がある訳ではない。
 魔女探しの協会を創立したことで一目置かれている程度の筈だ。

 トントンと扉を叩いて、ふわっとした薄い髪色の教会の聖使が顔を出す。
 
「失礼します。あ、あの~、シヅキさんにお客様が来てるんですけど、お通ししても大丈夫ですか?」
「? セフィシス、どうしたの? いつもみたいにすぐ案内して貰って大丈夫よ」
「そ、それがですね、お忍びで、このフェルトリア連邦の総議長様が――――」
 
 聖使セフィシスが言い切らないうちに、クレイが小さく吹き出した。
 
「なんだ、俺が来たのを嗅ぎ付けたな? なかなかの情報通になったじゃないか」
「えっ?」
「あー。大丈夫よセフィシス。そのままお通しして貰える?」
「わ、わかりました」

 セフィシスと入れ違うように、お忍びの人間が、すぐに顔を出す。
「――お久しぶりですね、クレイさん。シヅキも、最近何の連絡もできなくてごめん」
 
 
 フェルトリア連邦国 総議長 リッド=ウインツ。
 茶色の癖っ毛を掻きながら現れた私服姿のリッドは、20代の普通の青年にしか見えない。

「よおリッド。遠くから見守ってたぜ。それにしても偉くなりすぎだろ」
「はは……今でもなんで俺が?って思ってます。でも折角掴んだ機会なんで、在任中は頑張ります」
 
「おう、頑張れよ。いいように利用させて貰えるからな」
「はいはい、わかってますよ。クレイさんが直接ここに来たのは、俺と話をすることが目的ですよね?」
 
 リッドはサラッと、目的を言い当てる。
 
「あ~、そうなんだが、教会の代表者にも、一緒に話を通したかったんだよなぁ……」
「ミラノさんの事は、こっちでも捜索してますが……ここまで姿がないのも不思議なんです。黙っていなくなるような人じゃないですし、何かに、巻き込まれているとしか……」
 
 リッドの言葉に、少し緊張がはしる。
 ――アーペから偵察隊全滅の凶報が入ったところに、聖女の失踪。
 なにかが、繋がっているのだろうか――。
 

「はぁ……なんだか、嫌な状況ね。こうして懐かしい顔ぶれが揃ったのに、ちょっと癒されるわ」
「そうだね……。アキディスは商人として情報源になってくれてるし、ハーディスも気が向いたら民間への情報操作に活躍してくれる。改めて、みんなとの旅は、凄く貴重な時間だったよ」
 リッドはポンと被っていた帽子をシヅキの頭に載せ、適当な椅子に腰をおろす。
 
「まじで無駄無く人脈を活かしてんな。その抜け目無さ、俺は好きだぜ」
「えー……クレイさんに好かれてもなぁ」
「なんだよ、言うようになったじゃないか」

 
 少しだけ空気が軽くなったところで、クレイはひとつ封書を取り出した。

「……これは、リュディア王国国王のシルヴィス陛下から預かった案件だ。国書なら外交官を派遣しろって話だが、どうやら陛下は魔女探し協会に関わりたいらしい。ただ、俺達の協会は国籍不問の集まりだ。公平の為に近隣の国にも、同じような形で関わって欲しいとの打診だな」
 
「クレイさん、外交官に昇格ですね」
「絶対お断りだ」

 リッドは封書をひらいて、さっと目を通す。
「……しかし今この時期に、どうしてリュディア王国が? シェリース王国はともかくリーオレイス帝国にまで声を掛けるなんて。確かに内容は公平ですが、今まで魔女探し達を黙認していたのはお互い様の筈です」
 
「昔、リーオレイス帝国の魔女探しが、捕まえた魔女を帝国に連れ出そうとした。その時の仮の姿の魔女に、会ったことがあるそうだ。それで連携を高めている協会に興味があるらしい」
「仮の姿の……。そうでしたか」
「アルヴァの言では、茶髪の青年という話だったな。……リッド、どうした?」
 

 私服の総議長は少し俯いて、そっと声をおとした。
 
「――2人に黙ってるのは違うと思うので、お話します。でもこれから言う事は、協会の情報共有には乗せない、と、約束して貰えますか?」
 
「なんだよ。総議長様に勿体つけられると、緊張するじゃないか」
「私も気になる。何の話?」

 すう、とリッドは深呼吸してから、静かに声をおとす。
 
「……帰りの旅の途中で仲間に引き入れた『盗賊団』の事、覚えてますか? クレイさんが集団の生活環境を襲撃して、一緒に首領を説き伏せてくれましたよね」
 
「ああ。あの盗賊団はなんか変わってたな。首領に戦闘能力が無くて、戦略家だった」
 
「あの盗賊団首領セト=リンクスが、その、茶髪の青年――魔女の仮の姿だったんです」
 
「は?」「え?」
 
 
 一瞬、ふたりがポカンとしたのも、無理はない。
 必死に探してきた仇敵に、実は出会っていて、仲間にしてしまっていたのだ。

 「しかも先日、セトはリーオレイス帝国人の襲撃に遭い、姿を消しました」

 
 教会宿舎のシヅキの部屋から、変な声の絶叫が、建物中に響き渡った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

なんでもアリな異世界は、なんだか楽しそうです!!

日向ぼっこ
ファンタジー
「異世界転生してみないか?」 見覚えのない部屋の中で神を自称する男は話を続ける。 神の暇つぶしに付き合う代わりに異世界チートしてみないか? ってことだよと。 特に悩むこともなくその話を受け入れたクロムは広大な草原の中で目を覚ます。 突如襲い掛かる魔物の群れに対してとっさに突き出した両手より光が輝き、この世界で生き抜くための力を自覚することとなる。 なんでもアリの世界として創造されたこの世界にて、様々な体験をすることとなる。 ・魔物に襲われている女の子との出会い ・勇者との出会い ・魔王との出会い ・他の転生者との出会い ・波長の合う仲間との出会い etc....... チート能力を駆使して異世界生活を楽しむ中、この世界の<異常性>に直面することとなる。 その時クロムは何を想い、何をするのか…… このお話は全てのキッカケとなった創造神の一言から始まることになる……

処理中です...