世界を支配する悪い魔女は こっそり気紛れの人生を過ごすことにした ~可愛い勇者に倒して貰うまで~

「師匠、人は死んだら、どこに行くの?」
「うーん……『お星様になるんだよ』っていうのが、昔々からの定番かしらね」

「星って、この空いっぱいの星?」
「そう。だからいつでも一緒ってこと」
「でもそれって、見えてるけど、離れてるよ。それじゃあ嫌なの」

「そうねぇ……でも、100年……300年先に流れ星は落ちてくるから、また会えるわよ」
「師匠は、また会えたことがあるの?」
「ええ。だから、元気だして。私の可愛い魔法使いさん」
「……師匠がそう言うなら……。私も、流れ星を待つよ」

「遠い時の先、あの子の魂が、またこの地に降ってくる。……迷わず生きなさい。あなたの存在をかたどるものは、あなたの魂、そのままなのだから」

「……うん、ありがとう。師匠」


 300年前。
 巨大な羽根蛇に乗った魔法使いが、戦争の地を水で沈め、2つの国を滅ぼした。
 小さな戦争には魔物を、大きな戦争には洪水をおこす、災厄の魔法使い。
 やがて、人々は彼女をこう呼ぶようになった。

 『世界を支配する魔女』――と。

 星を見上げ続けた魔女は長い時間に飽きて、別の人間として世界に紛れることにした。
 記憶を封じて性別も変え、普通の人間として生きる時間。

 しかしその間に、流れ星はすぐ近くに落ちてきていた。

 遠くない未来、魔女を倒すことになる、少年の姿をして。
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