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1章 BIG3
幕間1 『恋するリリィ』
しおりを挟む日本、超人特区間を繋ぐ連絡船から降りてきた少女に周囲の視線は集まった。
日本から出る船だけあって、当然の如くほぼ全ての乗客が日本人である中、少女は明らかに別
の国の人間であり、異質な空気を放っていた。
外側にはねっかえった癖の強いパーマの掛かったブロンドヘア。模様入りコンタクトを入れているのだろうか、碧眼の中には白い星模様がきらめいている。
底の分厚い黒のロングブーツに、フリルをあちこちにあしらった黒基調の服は所謂ゴシック・アンド・ロリータスタイル。頭に乗せた小さなハットには、目を引くレインボーローズのコサージュと、とにかく目立つファッションだ。
しかし、ただ悪目立ちしているという訳でもなく、西洋人形を思わせる整った顔立ちや、洗練されたボディラインが、服に着られているという印象を与えずに、服を見事に支配していた。
そんな目立つ少女だったが、ある意味一番目立つのは、人形のような華やかな装いから一気に掛け離れた、無骨で巨大な銀色のキャリーバッグ。ローラーがついているとはいえ、かなりの重量感があるように見える。細腕一本で鉄の塊のようなバッグを引く様は、なかなかに奇妙なものである。
視線も気にせず、少女は左手で持つ一枚の紙きれに視線を落としながら、首を左右に振り、上機嫌で鼻歌を奏でている。周囲の視線を気にする様子もない。
少女はふと足を止める。少女が止まったのは連絡船の発着場の案内員の前だった。
案内員はおや、と少女に声をかける。
「何かお困りですか? ……あ、日本語で大丈夫ですか?」
「ワタシ、日本語、大丈夫ヨ! 何語でもダイジョーブなマルチリンガル! それよりそれより教えて欲しいヨ!」
代わったイントネーションの、片言日本語をはきはきと吐き出し、少女はニッコリと無邪気な笑顔を浮かべた。案内員もにこりと笑い返して、「なんでしょう」と言葉を返した。
少女は、「アノネ、アノネ」と興奮気味に言う。
「ワタシ、人探してるヨ! 『マスクを着けた男の子』、見てないカナ?」
案内員はうーん、と困った様に唸って聞き返した。
「マスクを着けた男の子はたくさん見ていますが、他に特徴は?」
マスクを着けた男の子ではあまりにも多すぎる。
案内員は『客の顔を全て覚えていた』が、今日だけでも『マスクを着けた男の子』に該当する来客は三十八人に上る。
少女はただでさえ眩しい瞳を、更に輝かせて笑った。
「とっても格好良い男の子だヨ!」
「え? か、格好良い?」
「そうだヨ!」
少女は頬に手を添えて、にこにこしながら首を振る。
「くっちーはおめめぱっちり、おくちすっきり、はなぴんぴんで、ちょうイケメンヨー! 度胸もあるし、優しいし、とっても強くて、ちょうイケメンヨー! ワタシ、困った時、助けて貰ったヨー! くっちー、とっても素敵で無敵で不敵で、ワタシ、くっちー大好きヨー! めろめろヨー! でろでろヨー! ぐろぐろヨー! くっちーのためなら、ワタシ、いつでもエブリタイム死ねるヨー!」
少女の探す「くっちー」なる男の子。どうやら少女は男の子にご執心らしい。くねくねしながらにこにこにこにこ少女は語る。困った様に案内員は笑った。
「すみません。私は見ていないですね」
そこまでの美少年を見ていない、という訳ではなく、案内員は少女から得られる情報から「くっちー」を割り出すことはできないと考えての回答だった。
但し、このまま少女を放り出すのも忍びない。
「ですが、またここを訪れるかも。見掛けたらお声かけしておきますよ」
「ホント!? アナタ、とっても、良い人ヨー! くっちー見たら、伝えて欲しいヨー!」
少女は頬に手を添え、にっこり笑った。
「あなたの『リリィ』が、おっかけてきたヨ! 困った時は呼んで欲しいヨー!」
歌う様に少女は言う。
「リリィ、くっちーの為なら、誰でも殺すヨー!」
「……ん?」
聞き間違いだろうか。案内員は思った。
しかし、案内員は聞き返さなかった。
誰かが耳元で「聞いてはいけない」と囁いたような気がしたから。
少女は用事は済んだと言わんばかりに、ガラガラと巨大なバッグを引いて、案内員の横を通って行った。少女の物騒な一言を、聞いていたのは案内員だけだった。
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