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1章 BIG3
プロローグ2 『手を伸ばす男』
しおりを挟む黒い学ランを着た、見た目中学生ほどの少年は、壁にもたれかかるようにして一冊の古びた文庫本を捲っていた。十字架を手の甲部分に刻んだ白い手袋で持つボロボロの本は、表紙も殆ど見えない程であり、捲られる黄ばんだページを見て初めて漫画であるという事に気付ける。
戯けたギャグ漫画の内容とは裏腹に、切りそろえた前髪の隙間から鋭い視線で漫画本を睨む少年の口元には、笑顔のひとつも浮かんでいなかった。
「ボス。手続き済みましたよ」
ボス、という少年に不似合いな呼び掛けをしたのはTシャツにホットパンツという非常にラフな格好をしたショートカットの女だった。少年よりは明らかに年上に見える。
学ランの少年はふんと鼻を鳴らして、文庫本から目を上げた。
礼も言わずに、女から差し出されたチケットを手に取ると、文庫本を学ランのポケットに無理矢理突っ込み、傍らに置いたやはり古びた学生鞄を持ち上げた。
「こっちッスよこっち!」
ニット帽を深く被った男が遠くで手招きをしている。少年はやはり返事もせずに、男の方に向かって無言で歩く。仏頂面の無愛想な少年の態度を気に留める事なく、ニット帽はふんふんと鼻を鳴らしながら、ショートカットの女と共に少年に追従する。
其処は連絡船の乗り場。これから少年達は船に乗る。
「手筈は既に整ってます。既にジョージの案内であたし達以外の全員が入区済みです」
「あ、ジョージってのは二番目に新入りのアイツっす。『情報屋』っていやボスも分かるッスよね?」
少年は、『情報屋』と聞いたタイミングでああ、と声を漏らした。
「『情報屋』からの連絡によれば既に取引が行われる時間と場所は入手できたとの事です。今は向こうでの潜伏先の準備中とのこと」
「取り敢えず、その瞬間まで待って、取引先に乗り込んで、悪党共をドーンッスね!」
少年の背後の二人がそわそわと身体を揺すってにいと笑う。まるで悪戯っ子のような表情だった。二人の表情に気付いているのかいないのか、歩きながら少年は前に手を伸ばし、十字架の刻まれた白い手袋をじっと見上げる。
「『人身売買』。人を商品として、『モノ』として扱う。果たしてそれをしている者が、どれだけ偉くどれだけ優れている事やら」
にい、と少年の顔に禍々しい笑みが浮かんだ。
そして少年は天に向かって手を伸ばす。
「『驕れる者に、天罰を』」
少年の手は、今度は連絡船への乗船ゲートへと翳される。
「『超人特区』、優れたる人間の巣窟。見下される事のない者達に、天に代わって僕が罰を与えよう」
密かに、『超人特区』に裁きの手が伸ばされる。
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