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第2章 『遺跡と二つ名』編

第25話:能力測定その1

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「じゃあそろそろ行きますか」

「はい!」

 小倉は左京の声に元気よく返事をして立ち上がると、段ボールの詰まれた台車を押し始めた。そのままエレベーターホールまで行き、6階の訓練場に荷物を下ろす。左京は別のエレベーターで3階まで下り、学生たちの待っている会議室へと向かった。

 会議室の前に来た久我は一つ軽く深呼吸をしてからガチャリと扉を開ける。

「こんにちはー、この後30分後から能力測定の説明を開始しますので6階に上がって着替えてください。上の階にいる小倉が皆様に来ていただく運動用のスーツを持っていますので、それを着て測定してください」

 久我が話し終わると何人かは礼を言い、何人かは会釈をして移動し始めた。久我は最後の一人が出たら忘れ物を確認してから上に行くつもりだったので、学生たちが部屋を出ていくのを待っていた。すると一人の学生が話しかけてきた。

「すいません、能力測定っていうのは具体的に何をするんですか?」

「ん? あぁ、能力測定は基本的な運動能力を測るのと体の使い方を見るのが目的ですので、……まあやってみればわかりますよ。そんなに怖がるほどのものではないので安心してください」

「あの~、スーツでも大丈夫ですかね?」

「……というと?」

「大変申し訳ないんですけども運動着を持って来ていなくて……」

「あ、なるほど。今お話ししましたがこちらで運動着は用意させて頂いておりますので、そのまま上の階に上がっていただいて小倉という者から受け取ってください」

「あ、すみませんでした」

(……こいつダメやんけ)
 久我はそう思ったが決して態度や視線にそれが現れることが無いように気を付けた。


 部屋を出たアグニは顔が熱くなってるのを感じていた。
(やっべ~、ぼーっとしてて全然話聞いてなかった。絶対バカだと思われた)
 ほかの人が歩いていく方についていくと、エレベーターがあった。
 背の高い男の人が開けて待っていてくれたので、小走りで乗り込む。

 6階に到着してエレベーターのドアが開くと、目の前には大きめの入り口があり左右に長い廊下が伸びていた。その入り口のところにニッコニコの女の人が立っていた。

「インターンの面接で来た方はこの段ボールの中から自分のサイズのスーツをもって更衣室に行って、着替えたら戻ってきてください」

 女性にしては少しだけ低めの声だったが、話し方が元気なせいか、明るい印象だった。アグニはLLサイズの袋をもらって更衣室に進んでいく。

 受け取った袋の中身を更衣室で広げてみると、少しゴツゴツとしたジャージのような物が出てきた。
 白地に黒いラインが入っていて、中々スタイリッシュなジャージだった。

 着替え終わったアグニは更衣室を出て入り口に向かった。入口には先ほどの女性が立っていた。

「着替え終わった方は訓練場の中に入ってお待ちください」

 そう言われたので中に入ると、そこにはバカでかい体育館のような、しかし壁も天井も半透明で水色の素材で出来ているなんだか未来的な空間が広がっていた。
 しばらくそこで壁を触ったり天井を眺めたりして待っていると、男の人の声が聞こえてきた。

「能力測定の前にスーツについて説明しますので集合して下さい」

 ぞろぞろと集まっていく学生たちの中に混じってアグニも歩いていく。

「改めまして、先ほどの面接も担当させていただきました久我と申します。こちらは部下の小倉です。これから皆さんの着ているスーツについての説明をした後、能力測定をさせていただきます。ではまず皆さん、スーツの右手首を見てください」

 右手首のあたりを見ると、何やらボタンのような物がついていた。

「そのボタンを長押ししてください」

 「ピッ」という音とともに空気の抜けるような「プシュー」という音がきこえ、次の瞬間ジャージが縮み始めて肌にぴったりとフィットした。

「そのスーツは各所のボタンを押すことで皆さんの体にフィットするようになっています。そして同時に心拍数や血圧をはじめ、疲労度合いや出力レベルなどの様々なものを数値として測ってくれるようになっています。ただあまりにも緩いと正確に測れませんし、キツイと本来の力が発揮できない可能性があるので、全身のボタンを押した後で、何か不具合や違和感を感じましたら小倉か私に伝えてください」

 その後3分ほど、プシューという音が響き続けた。

「スーツに不具合や違和感がある方いないですか? ……ではいないようなので測定の説明をさせていただきます」

 久我さんはそう言ってタブレットを操作した。すると半透明の壁や床から大小さまざまなブロックが出てきて、突然目の前が白く光ったかと思うと周りの景色がのどかな草原に変わっていた。
 ブロックがあったはずのところには、岩や大木が生えていた。

「すっげぇ~」

 と誰かが声に出していたのが聞こえてきたが、その場にいた全員が漏れなくそう思っていたことだろう。

「それでは皆さん、まずはウォーミングアップで軽く走りましょう。準備体操が出来た人から道なりに3周ほどゆっくり走ってみてください」

 久我さんがそう言うと、周りの人たちは各々が適当な準備体操をしてから走り出した。
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