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最終話
二人で同じ家の、家具になって……
しおりを挟む次の日になりました。うららかな春の朝でした。コンボじいさんのお別れは、もう目のまえにせまっていましたが、だれも悲しそうにしていませんでした。もちろん心の中では大声で泣きだしたいくらい悲しいのです。でも、最後はぜひ、みんなあかるくみおくってほしい、というコンボじいさんのお願いがあったので、みんないつもどおりにふるまっていました。
そしておひさまが真上にのぼりかけたころでした。大きな機械を持った人間が数人、山をのぼってきました。
人間は機械をコンボじいさんの横におろすと、スイッチをいれました。するとそれまで静かでさわやかなそよ風がふいていたカワベ村に、機械のおそろしいうなり声がひびき、今までかいだことがない油のにおいがたちこめました。
コンボじいさんは、ゆっくりとまわりをみまわすと、みんなにむかって「さようなら」とつげました。みんなも「さようなら、コンボじいさん」と答えました。
そして機械が、コンボじいさんの体を切りはじめました。コンボじいさんは目をとじました。木を切りさく音だけが、村にひびいていました。しばらくするとコンボじいさんの体がゆらゆらと、ゆれだしました。
体がかたむいたからでしょうか、コンボじいさんの目のまえに、大きなおひさまがあらわれました。今までそんな風におひさまをみたことはありません。
やがてコンボじいさんズドーンという大きな音とともにたおれました。
コンボじいさんは、少しずつ消えていく光をとりもどすように必死に目をあけていました。アシナガバチがみえたからです。
アシナガバチは花びらをくわえたままコンボじいさんの顔のそばに下りると、花びらを大きくひらいてみせました。
「まにあった。まにあった。コンボじいさん、これがみえる? ナイムばあさんからの花手紙だよ。……ナイムばあさんも、けさ布をまかれたんだ。だからコンボじいさんにわたしてほしいんだって。この手紙、よめる? よめる?」
『コンボじいさんへ
きのうは、はなてがみ、ありがとうございます。わたしも、じのれんしゅうをして、はじめて、じぶんで、はなてがみを、かきます。まにあえば、たいへんうれしいのですが、どうでしょう。ところでわたしも、いまさっき、ぬのをまかれました。いろは「あか」です。わたしもどうやら、かぐになるようです。とてもふあんですが、わたしも、りっぱな、かぐになりたいと、おもいます。いろいろありがとうございました。わたしも、コンボじいさんのことはわすれません。さようなら。
ナイムばあさんより』
「よんだ? よんだ?」
「よんだとも。とどけてくれて、ありがとう。……そうか、ナイムばあさんも家具になるんか。……二人で同じ家の、家具になって、のんびり、のんびりくらしたいもんじゃな。ノンビ山の昔話でも、し、ながら」
コンボじいさんはそういうと、ほほえみながらゆっくりと目をとじました。
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