上 下
1 / 7
第一話

ノンビ山の春

しおりを挟む


タノシ山の木が伐採されたという情報をつたえたのは、ノンビ山でおしらせ係をやっているオオルリ鳥でした。

オオルリ鳥はいつもよりあわただしくノンビ山を飛びまわり、住人にむかってつたえました。

「人間がとなりのタノシ山の百歳くらいの木を何十本も切りました。今のところノンビ山の木が切られるという情報はありませんが、ご注意ください! くりかえします。人間がとなりのタノシ山の百歳くらいの木を……」

でも、ノンビ山の住人のほとんどはのんびりとしていて、オオルリ鳥の話などには耳をかたむけませんでした。

そのオオルリ鳥が空からすがたを消したころ、郵便屋のアシナガバチがいそがしそうに飛んできて、ナラの木のコンボじいさんの枝にとまりました。木のみきからでるジュースをもらいにきたのです。

「ああ、今日も朝からいそがしい。いそがしい」

アシナガバチはジュースをいっきに飲みほすと、口をふきながらそういいました。

「こんな朝はやくから配達いくんかい?」

「冬が終わって今日から手紙がだせるようになったからね。花手紙がたくさん集まってたいへんなのさ。これみて、これ」

アシナガバチは手紙が入った袋をあけると、コンボじいさんに中身をみせました。花びらがたくさん入っています。それらはみんな、ノンビ山の住人の植物や動物、虫たちがおたがいに花びらに書く手紙で、花手紙と呼ばれています。

「ところでアシナガバチ。……わしの花手紙も送ってくれないかな」

とてれくさそうに、コンボじいさんがいいました。

「うら山でひと仕事したらもどってくるよ。それじゃまたくるね!」

アシナガバチはそういうと、ブーンと音をたてて飛んでいきました。

コンボじいさんは二百五十歳で、同じナラの木の息子のサンボといっしょにカワベ村でくらしています。近くには小川が流れ、いろんな種類の草がはえ、花が咲いています。花のみつをとりにくる虫たちや、水を飲みにくる鳥や動物たちも多く、コンボじいさんには知りあいがたくさんいました。またコンボじいさんは、めんどうみがよく、たよりがいがあるので、ノンビ山の人気者でした。

コンボじいさんは下をみました。小川のほとりで花たちが歌っています。毎年春にひらかれる「ノンビ山・花の音楽会」の練習をしているのでした。冬のあいだ声をだすことなんてほとんどないので、花たちは歌うことが楽しそうでもあり、またてれくさそうでもありました。

「音楽会、いつだったかな」とコンボじいさんがたずねました。

「まだ決めていません。でも五月までにはやりたいですね」

と、ソプラノ担当のスイトピーが答えました。

「楽しみにしとるから、みんながんばれ」

大昔のノンビ山は、草木も川もない、はだかの山でした。そこに人間がやってきて草木をうえて、川を作りました。やがて何十年かたつと、山は緑にあふれ、小川がゆたかな水をはこび、鳥や虫、動物、草木がそだちました。人間もいっしょに生活するようになり、みんな助け合いながら、なかよくのんびりとくらしてきました。「ノンビ山」という名前は、だれがつけたのかわかりませんが、おそらく「のんびりした山」からきた名前だと思われます。

「もう春なんだのう」

コンボじいさんは、大きく息をすって遠くをみつめました。うすい青色の山々がみえます。その山々のいただきの白い雪もほとんどみえなくなっていて、春のおとずれを物語っています。山の色が青っぽくみえるのも春がきたしるしです。冬のあいだは黒っぽくみえるのでした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

むっちゃんとお星様の涙

江上蒼羽
児童書・童話
むっちゃんは、お絵描きが大好きな5歳の男の子。 ある日、むっちゃんは、泣いているお星様に出会いました。 お星様が流した涙には、悲しい理由があったのです。

アリとキリギリスとダンゴムシ

ハツカ
児童書・童話
力仕事に励むアリ。 楽器を演奏するキリギリス。 そんな彼らを見ているダンゴムシがいました。

名もなき歌

んが
児童書・童話
ゴミ集積所に間違えて捨てられた柴犬のぬいぐるみ、カズオ。 カズオをめぐる物語です。 おもちゃの犬をめぐっていろいろな人や生き物が動き出します。

老舗あやかし和菓子店 小洗屋

yolu
児童書・童話
妖が住む花塚村には、老舗和菓子店『小洗屋(こあらいや)』がある。 そこには看板猫娘のシラタマがいる。 彼女は猫又の両親から生まれたが、しっぽが1本しかないからと、捨てられた猫又だ。 シラタマは運良く妖怪小豆洗いである小洗屋の主人と奥さんに拾われ、今では人気の看板猫娘となっている。 出てくる妖怪は、一反木綿のキヌちゃんから始まり、豆腐小僧のヨツロウくん、ろくろ首のリッカちゃん、砂かけ婆の孫の硝平くん、座敷童のサチヨちゃん、などなど、みんなの悩みをシラタマの好奇心が解決していく、ほのぼのほっこりストーリー!

ねじ巻き九六九(クロック)

健野屋文乃
児童書・童話
野良だった黒猫は、この街でしあわせを掴んだらしい。

あいしてるから

会川 明
児童書・童話
あいってなに?いうことをきくこと?だれかのためにぎせいなること?

【完結】馬のパン屋さん

黄永るり
児童書・童話
おじいちゃんと馬のためのパンを作っている少年・モリス。 ある日、王さまが命じた「王さまが気に入るパン」を一緒に作ろうとおじいちゃんに頼みます。 馬のためのパン屋さんだったモリスとおじいちゃんが、王さまのためのパン作りに挑戦します。

おなら、おもっきり出したいよね

魚口ホワホワ
児童書・童話
 ぼくの名前は、出男(でるお)、おじいちゃんが、世界に出て行く男になるようにと、つけられたみたい。  でも、ぼくの場合は、違うもの出ちゃうのさ、それは『おなら』すぐしたくなっちゃんだ。  そんなある日、『おならの妖精ププ』に出会い、おならの意味や大切さを教えてもらったのさ。  やっぱり、おならは、おもっきり出したいよね。

処理中です...