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第五話 「まさかアヤちゃんがここに来るなんて」

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夜になると売り場が真っ暗になった。遠い非常階段のあたりに緑色の電気が少しともっているだけで、ほかは何も見えない。ときどきガードマンの懐中電灯の光が、きまぐれにあちこちてらしながら通りすぎていく。

静かだった。そしてたいくつだった。せめてとなりの人形とおしゃべりでもしたいのだけど、声がでない。

 (ああ、人形ばっかりたくさん並んでいるのに、一人ぼっち)

せめて眠ってしまいたいのだけど、ふしぎなことにぜんぜん眠くならない。早く朝にならないかな。

次の日は土曜日のはずだった。そのせいかお客さんの数が昨日よりかなり多く、子供も小学生が目立つ。サクラは同い年の子の目線をたくさん浴びた。

しばらくして、サクラはびっくりぎょうてんした。

(アヤちゃんだ。アヤちゃんが目の前にいる)

アヤちゃんは、ママといっしょにこちらを見ている。そういえば今日はアヤちゃんのバースデー。プレゼントにお人形を買ってもらうのだろうか。サクラは、自分が選ばれないことを願った。アヤちゃんの人形になるなんて考えただけでぞっとする。ぜったいいやだ。

でもアヤちゃんと視線が合ってしまった。アヤちゃんはしばらく眉をひそめてサクラを見ていた。そしてその目が一瞬大きく開いたかと思うと、

「サクラちゃんにそっくり!」

といった。

「ママ、見てみて。この人形サクラちゃんよ。なんてそっくりなの」

アヤちゃんのママがサクラをじっと見た。

「本当。びっくりだわ。石田サクラちゃんにそっくり」

これではっきりした。わたしはわたしの顔をしているのだ。サクラは人間だったころの自分の顔を思いだし、それをそっくり人形にコピーした場合の顔だちを想像した。

(ううう、最悪)

でも逆に、これでアヤちゃんが自分を買うことはないだろうとも思える。かわいい顔をした人形はほかにいくらでもあるというのに、わざわざけんか相手に似た人形を買うことはありえないからだ。

でもその考えははずれた。

「ママ、これにする。この人形を買って」

とアヤちゃんが興奮ぎみにいった。
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