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【3】
我が家に咲いた、桃色の花
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強い風がおさまったら、春がきて、村がみどり色になって小鳥がぴいぴいないた。
桜も満開。
桜は村のあちこちで花ひらいた。
村人たちは春神さまのおかげと、久太郎のはたらきをほめた。
ところが久太郎の庭にはいつまでたっても桜が咲かない。
春神さまは約束を忘れたか。
村の桜が散り始めるころ、あの旅の男が幾人もの侍を連れて久太郎の家を訪れた。
「久太郎、あの晩は世話になったのう。ところでわしは春神さまではない。ただの旅の侍だ。あの夜から強い風が吹いたろう。このへんでは春一番の風のことを春神さまとよぶ。あの風が吹いたら春がくる。春がきたら勝手に桜も咲く。うそついてすまん」
「そうだったんですか……」
久太郎はお栄とふたりでぺたんとすわりこんだ。
「お詫びではないが、この庭で花見をさせてくれ。仲間も連れてきた」
「あ、あのう……お酒は」
「もちろん久太郎の酒を飲む。おまえんとこの酒は美味い。金にいとめはつけんから、酒樽ありったけ持ってこい」
「ありがとうごぜえます!」
それから侍たちは庭で宴会を始めた。
酔っぱらった侍たちは顔がほんのり桃色になった。
やはりそのお侍は春神さまだった、てことにしておこう。
桜も満開。
桜は村のあちこちで花ひらいた。
村人たちは春神さまのおかげと、久太郎のはたらきをほめた。
ところが久太郎の庭にはいつまでたっても桜が咲かない。
春神さまは約束を忘れたか。
村の桜が散り始めるころ、あの旅の男が幾人もの侍を連れて久太郎の家を訪れた。
「久太郎、あの晩は世話になったのう。ところでわしは春神さまではない。ただの旅の侍だ。あの夜から強い風が吹いたろう。このへんでは春一番の風のことを春神さまとよぶ。あの風が吹いたら春がくる。春がきたら勝手に桜も咲く。うそついてすまん」
「そうだったんですか……」
久太郎はお栄とふたりでぺたんとすわりこんだ。
「お詫びではないが、この庭で花見をさせてくれ。仲間も連れてきた」
「あ、あのう……お酒は」
「もちろん久太郎の酒を飲む。おまえんとこの酒は美味い。金にいとめはつけんから、酒樽ありったけ持ってこい」
「ありがとうごぜえます!」
それから侍たちは庭で宴会を始めた。
酔っぱらった侍たちは顔がほんのり桃色になった。
やはりそのお侍は春神さまだった、てことにしておこう。
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