春神さまがやってきた!

燦一郎

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【2】

酒を飲んで寝てしまった春神さま

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次の日の夕方、戸をたたく音がした。

そっと戸をあけると、きたない着物をきて刀をさしたお侍のような男が馬にまたがっている。

髭をはやしていて、顔がこわい。




春神さまっぽくないが、村長が連れてきたのだから、春神さまなのだろう。

村長が久太郎のそばにきて、ひそひそ話。

「今日村にきたお人はこの方だけだ。たぶん春神さまだと思う。あとはたのむ」

男は馬からおりると、腰の刀をはずした。

「旅のものだが道にまようた。この家でとめてくれると聞いた」

「ようこそおいでくだせえました」

久太郎がいろりのそばに座布団をしき、春神さまをまねくと、お栄がごちそうをもっていそいそときた。

「ササ、たんとお召し上りくださいまし。じまんの里山料理でごぜえます」

「しかしわしのようなもんを、こんなに歓迎してくれるとはのう。この村はあたたかいのう」

おなかがすいていたか、春神さまはたくさん食べてがぶがぶ飲んだ。

酔っぱらったところで、久太郎がお願いがあるといってかしこまった。となりのお栄もしゃんとした。

「春神さま。じつはこの村のもんは桜を見たことがねえんです。この村に桜を咲かせてもらえんでしょうか。できればうちの庭がええんだが」

春神さまはひじをまくらに横になり、あくびした。
 
「春神さまだと? 桜あ? ふあぁ~」

「神さまのお力でなんとか」

「よくわからんが、あいわかった。桜だろうがなんだろうが咲かせてやる。ところで、わしはもうつかれた。ねむうてかなわん」

「あのう春神様、うちの庭ですからね、うちの庭……お間違えなきよう、お願いもうします」

「……」

そのまま大の字になって寝てしまった。

夜ふけになると風が強くなった。

夜空がごうごうとうなり声をあげる。

庭のけやきの木が大きくかたむいて、馬がひんひんとさわぐ。

酒蔵の家はがんじょうだが、それでもみしみしと音を立ててゆれる。

ついに戸がやぶれ、はげしい風が入りこんで、いろりの火を吹き飛ばす。

久太郎はお栄とふたりで酔いつぶれた春神さまを奥の間に引きずっていった。

「大きないびきだねえ。お前さん、この人ほんとうに春神さまかい」

風の音もいびきの音も、朝までやまなかった。

次の朝、春神さまは街道のほうに出ていった。

村人たちは風にあおられてよたよた進む馬にむかって、ありがたや、ありがたやとかしわ手をうった。

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