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僕は、友達じゃないかなあ?
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「うん。一本立ちしようとね。ジュニアで優勝した後、もっぱら華蓮のリーダーシップに強くスポットが当たってさ。橘華蓮あってこその優勝、っていう風にね」
確かに、そういう報道は多く見た。橘華蓮ファンの俺としては誇らしかったが。もちろん、専門家から見ればそれだけではないのだろうが、そういう風潮があったことは否めない。
「それで、いつまでも華蓮に甘えていちゃダメだな、って思うようになったんだ。僕も頑張らないと、って。元より、僕は華蓮に対して強くコンプレックスを抱いてて……、太一くんにも聞かれちゃった通り」
そこで氷堂は照れ笑いを浮かべた。おこがましいが、なんだか可愛い笑いだった。国民的スター候補生筆頭じゃなくて、普通の、同い年の、高校生男子だった。俺もつられて笑った。もちろん、「気まず笑い」だ。
「それで、自分の生き方にも疑問を持つようになって。このままでいいのか、って。華蓮の背中ばかり追いかけてていいのか、って。それでね、一本立ちしなきゃ、って思ったんだけど……。今にして思うと、パートナーのことにまで考えが及んでいなかった。二人で一人であるはずなのにね……。無責任な行動だったなぁ、って今ではと思う。コンビであれば、お互いがお互いに責任を持つべきものだからね」
なんとなく流介のことを思い出した。別に俺らはコンビでもないし、氷堂と橘華蓮の二人と比べたら、そりゃ失礼極まりない。でも、思い出しちゃったもんは仕方がない。
何であんなにキレたのか、自分でもよくわからなかった。流介にないがしろにされるのは、別にあの時に始まったことじゃない。まぁ、それも積もり積もって、ということもあったかもしれない。なんとなく、流介が試合放棄したように感じたのかもしれない。それが許せなかったのかもしれない。
しかしそれにしても、声優部の設立にあれほどまでにこだわっていた流介がなぜ……。
「そういえば、太一くんは、どうしてこの学校に入ったの?」
「え?」
「失礼だけど、特にスポーツもやってないのにこの学校に入るのは珍しいと思って……。その、単純に興味があって」
国民的スター候補生筆頭に興味を持たれて、申し訳程度に有頂天になった。
「お、そう? えーっとね、なんでかっつーと、まぁ。そのぉ……」
しかし、その理由を話すとなると、割と微妙だった。
「第一志望の公立校に落ちたからだよ」
「あ……」
「仕方なくここに来たんだ。受験当日に風邪を引いて……。だから、特にやりたいこともないし、本当はこの学校には来たくもなかった。ま、風邪くらいで落ちる程度の学力しかなかった俺がダメなんだけどな」
俺は笑った。氷堂も笑おうとしたが、ちょっと無理だったようだ。
「でも、正直落ちるとは思っていなかったから、滑り止めはどこでも良かったんだ。この学校を選んだのは、適当に入れそうな偏差値で、通学の便も良かったからかな。大学は志望通りのところに行きたいとは思ってるけど……」
「そうか……。どうりで成績良いと思った。中間も期末も成績上位者に名前、あったもんね」
「え、うん……、まぁ」
氷堂がそんなもん見ていてくれてるとは思わなかったので、ちょっとびっくりした。
「なるほど、そういう理由があったんだね」
「うん。だから、まぁ、スポーツは嫌いじゃないけど、ぶっちゃけ、そんなには興味はない。だからこの学校には馴染めないし、馴染むつもりもない」
なんだかつまらないことを言ってしまった。国民的スター候補生筆頭に話す内容では決してない。でも、話してるうち、なんだか止まらなくなってしまった。
席の向こうとこっちで、これほど明暗がクッキリと分かれている座席なんて、今の日本ではこのテーブルをおいて他にはないだろう。
「そんなんだから友達も、積極的に作る気にはなれくてさ。強いて言うなら流介だけ……」
そう、流介だけだったんだよなぁ。まぁ、あいつも友達と言っていいかどうかわからないけど。たまたま席が隣になったから何となく話をすようになっただけだ。それが、勢いで声優部発足を手伝わさせられて、迷惑と言えば迷惑だったけど、滅入りがちな気分を紛らわせられたかなぁ。
「僕は、友達じゃないかなあ?」
「え!」
あまりに意外すぎた発言に、あんまりにも驚いてしまった。一緒に声優部と演劇部を合同で開催しようとしていたとはいえ、あまりに遠い存在なので「友達」という感覚すらなかった。
しかし、よくよく考えれば今、こうして一緒に昼食をとり、あまつさえカレーラーメンライスまで食ってしまった。それに、俺たちは同じ高校の、同じ一年生男子である。
「いや、そのぉ……、友達、だよ! よろしくお願いします……」
氷堂は、あはは、と笑って、
「変なの」
と言って、また笑った。
「でも、確かに君たちは、仲が良いよね。ちょっとその間には入れないっていうか」
「え? 誰と誰?」
「太一くんと流介」
「そう……、かなぁ……」
「流介はね、随分明るくなった」
「明るく、なった?」
「うん。高校に上がる前は、もっと内気な感じだったんだ」
「え? 内気? つーか、高校になる前から流介のこと、知ってたの?」
一気に二つも大きな疑問がもたらされた。
「うん。中学まではね、流介は内にこもりがちだったんだ。仕方ないんだけどね。でも今は、本当に積極的になったし、表情も明るくなった。僕も演劇部をやってみよう、って思ったのは、そんな流介に言われたから、ていうのもあるんだ。僕も負けてらんないな、って」
「へー……」
意外だった。俺はてっきり、下衆でズル賢い流介の口車に乗せられて、純粋な氷堂が騙されたとばかり思い込んでいた。
「まぁ、太一くんのおかげなんだけどね、流介が変わったのは」
「え? どういうこと?」
「え? 聞いてないの?」
質問に質問で返されてしまった。氷堂的にはめちゃめちゃ意外だったということか?
「そうか……」
「気になるなぁ」
「いや、まぁ、そこらへんの事情は僕にはわからないから、詳細は……」
「ふーん……」
気になる……、けど、もう、どうでもいいことだ。
確かに、そういう報道は多く見た。橘華蓮ファンの俺としては誇らしかったが。もちろん、専門家から見ればそれだけではないのだろうが、そういう風潮があったことは否めない。
「それで、いつまでも華蓮に甘えていちゃダメだな、って思うようになったんだ。僕も頑張らないと、って。元より、僕は華蓮に対して強くコンプレックスを抱いてて……、太一くんにも聞かれちゃった通り」
そこで氷堂は照れ笑いを浮かべた。おこがましいが、なんだか可愛い笑いだった。国民的スター候補生筆頭じゃなくて、普通の、同い年の、高校生男子だった。俺もつられて笑った。もちろん、「気まず笑い」だ。
「それで、自分の生き方にも疑問を持つようになって。このままでいいのか、って。華蓮の背中ばかり追いかけてていいのか、って。それでね、一本立ちしなきゃ、って思ったんだけど……。今にして思うと、パートナーのことにまで考えが及んでいなかった。二人で一人であるはずなのにね……。無責任な行動だったなぁ、って今ではと思う。コンビであれば、お互いがお互いに責任を持つべきものだからね」
なんとなく流介のことを思い出した。別に俺らはコンビでもないし、氷堂と橘華蓮の二人と比べたら、そりゃ失礼極まりない。でも、思い出しちゃったもんは仕方がない。
何であんなにキレたのか、自分でもよくわからなかった。流介にないがしろにされるのは、別にあの時に始まったことじゃない。まぁ、それも積もり積もって、ということもあったかもしれない。なんとなく、流介が試合放棄したように感じたのかもしれない。それが許せなかったのかもしれない。
しかしそれにしても、声優部の設立にあれほどまでにこだわっていた流介がなぜ……。
「そういえば、太一くんは、どうしてこの学校に入ったの?」
「え?」
「失礼だけど、特にスポーツもやってないのにこの学校に入るのは珍しいと思って……。その、単純に興味があって」
国民的スター候補生筆頭に興味を持たれて、申し訳程度に有頂天になった。
「お、そう? えーっとね、なんでかっつーと、まぁ。そのぉ……」
しかし、その理由を話すとなると、割と微妙だった。
「第一志望の公立校に落ちたからだよ」
「あ……」
「仕方なくここに来たんだ。受験当日に風邪を引いて……。だから、特にやりたいこともないし、本当はこの学校には来たくもなかった。ま、風邪くらいで落ちる程度の学力しかなかった俺がダメなんだけどな」
俺は笑った。氷堂も笑おうとしたが、ちょっと無理だったようだ。
「でも、正直落ちるとは思っていなかったから、滑り止めはどこでも良かったんだ。この学校を選んだのは、適当に入れそうな偏差値で、通学の便も良かったからかな。大学は志望通りのところに行きたいとは思ってるけど……」
「そうか……。どうりで成績良いと思った。中間も期末も成績上位者に名前、あったもんね」
「え、うん……、まぁ」
氷堂がそんなもん見ていてくれてるとは思わなかったので、ちょっとびっくりした。
「なるほど、そういう理由があったんだね」
「うん。だから、まぁ、スポーツは嫌いじゃないけど、ぶっちゃけ、そんなには興味はない。だからこの学校には馴染めないし、馴染むつもりもない」
なんだかつまらないことを言ってしまった。国民的スター候補生筆頭に話す内容では決してない。でも、話してるうち、なんだか止まらなくなってしまった。
席の向こうとこっちで、これほど明暗がクッキリと分かれている座席なんて、今の日本ではこのテーブルをおいて他にはないだろう。
「そんなんだから友達も、積極的に作る気にはなれくてさ。強いて言うなら流介だけ……」
そう、流介だけだったんだよなぁ。まぁ、あいつも友達と言っていいかどうかわからないけど。たまたま席が隣になったから何となく話をすようになっただけだ。それが、勢いで声優部発足を手伝わさせられて、迷惑と言えば迷惑だったけど、滅入りがちな気分を紛らわせられたかなぁ。
「僕は、友達じゃないかなあ?」
「え!」
あまりに意外すぎた発言に、あんまりにも驚いてしまった。一緒に声優部と演劇部を合同で開催しようとしていたとはいえ、あまりに遠い存在なので「友達」という感覚すらなかった。
しかし、よくよく考えれば今、こうして一緒に昼食をとり、あまつさえカレーラーメンライスまで食ってしまった。それに、俺たちは同じ高校の、同じ一年生男子である。
「いや、そのぉ……、友達、だよ! よろしくお願いします……」
氷堂は、あはは、と笑って、
「変なの」
と言って、また笑った。
「でも、確かに君たちは、仲が良いよね。ちょっとその間には入れないっていうか」
「え? 誰と誰?」
「太一くんと流介」
「そう……、かなぁ……」
「流介はね、随分明るくなった」
「明るく、なった?」
「うん。高校に上がる前は、もっと内気な感じだったんだ」
「え? 内気? つーか、高校になる前から流介のこと、知ってたの?」
一気に二つも大きな疑問がもたらされた。
「うん。中学まではね、流介は内にこもりがちだったんだ。仕方ないんだけどね。でも今は、本当に積極的になったし、表情も明るくなった。僕も演劇部をやってみよう、って思ったのは、そんな流介に言われたから、ていうのもあるんだ。僕も負けてらんないな、って」
「へー……」
意外だった。俺はてっきり、下衆でズル賢い流介の口車に乗せられて、純粋な氷堂が騙されたとばかり思い込んでいた。
「まぁ、太一くんのおかげなんだけどね、流介が変わったのは」
「え? どういうこと?」
「え? 聞いてないの?」
質問に質問で返されてしまった。氷堂的にはめちゃめちゃ意外だったということか?
「そうか……」
「気になるなぁ」
「いや、まぁ、そこらへんの事情は僕にはわからないから、詳細は……」
「ふーん……」
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