人食いのマナ

涼紀龍太朗

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肉饅頭

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 一族の人たちに最後に改めてお悔やみを申し上げた後、暇を告げた。レトとナタの二人は車まで見送ってくれた。

 車に乗り込もうとすると、レトは「あッ!」と言って口に手を当て、

「すみません、ちょっと待っててもらえますか?」

 と、一旦家に引っ込んでしまった。俺とナタは取り残された形になった。

 なんとなく歳の離れた男二人、若干の気まずい雰囲気も流れたが、俺としては千載一遇だった。実は、どうしても気になっていたことがあった。不躾であることは重々承知で聞いてみた。

「ナタ君さぁ、」

「はい」

「マナの肉を食べる時、君は、そのぉ……、なんというか……、どうだった?」

 我ながら質問にもなっていない質問だなぁ、と思う。しかし、彼の答えはあっけらかんとしたものだった。

「いや、そりゃビビりましたよ。だって人ッスよ? 人食べるってどういうことだ?って思いますよね」

「まぁ、ねぇ……」

 さすがになんと返事してよいか、困った。言葉が濁ってしまう。

「でも……、食べたんでしょ?」

「もちろん」

 即答であった。そのてらいのなさに、またびっくりした。

「やっぱり、そのぉー……、マグ族の思想というか、そういうものが関係したのかな?」

「あー、なんかあるみたいですね。なんか、よくわかんなかったッスけど」

 てらいがないにも程がある。

「じゃあ、あんまりそういう、由来とかは、特に関係なかったのかい?」

「ないッスね」

 あっけらかんの塊である。

「俺、あんまりそういうのわかんないんスよー。興味がないっていうとアレですけど……」

 ナタは、うーん、と少し考え込むように夜空を見上げた。ナタは俺よりも少しだけ背が高い。

「なんというか、俺としては、由来とか、そんなことより、好きな人がやるなら俺もやるっつーか。そこッスね」

「そうかぁ……」

「レトがお母さん食って、俺にも食って欲しいって言われたら、断る理由なんかないッス。なんでレトの民族が親食べるのか、一応理解したつもりではいるんスよ、これでも。でも、今ひとつなんかわかんなくて。そんなことしても、あんま意味ねぇんじゃねーかな、って。でも、そんなのどうでもいいんス。そんなの、多分後からわかると思います。俺は好きな人と同じ生き方がしたいんです」

 一旦家に引っ込んだレトが戻って来た。何やら紙袋を下げている。

「今日はありがとうございました。せっかく来ていただいたから、何か渡したくて」

「いやそんな、いいのに……」

 紙袋の中には肉饅頭が入っていた。すっかり冷えている。

「母が大好きでいつも食べていたんです。だから、形見ってわけではもちろんないですけど、せっかく来ていただいたんだから、せめて母が好きだったものを受け取って欲しいと思って。よろしければ」

 銀色に輝く髪、透き通るような白い肌、雨のようなグレイの瞳。あの頃のマナが目の前にいる。

 俺はマグ族の言葉で「ありがとう」と言った。レトは少し面食らったようだ。でもすぐ笑顔を見せた。

「また来てください」

 レトはマグ族の言葉で返した。

「え、今、何つったんスか?」

「教えない」

 レトは悪戯っぽく笑った。

「何だよ! 俺だけ仲間はずれかよ!」

 ナタは不平を言いつつも、笑った。良い、笑顔だった。

 俺は一人、車に乗り込んだ。


 帰り道、対向車にぶつかってしまった。車は廃車となり、俺は右腕を骨折した。病院へ運ばれる救急車の中で、俺は救急隊員に聞いた。

「俺の肉饅頭は? あったろ? 紙袋に入った」

「いやー……。多分、車の中でぐっちゃぐちゃになってんじゃないですか?」

「取ってきてくれ!」

「無茶言わないでください」

「あの肉饅頭じゃなきゃダメなんだ!」

「また買えばいいじゃないですか」

「あれじゃなきゃ……、ダメなんだ」

「泣かないでくださいよ……。あんた大人でしょ?」


 人を食べたことがあるだろうか?

 俺はまだない。

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