1 / 10
デッドリードライヴ
しおりを挟む
人を食べたことがあるだろうか?
俺はない。
しかし、俺の隣に座っている人物は十中八九あるだろう。
さっきからハンドルを切る時、手が滑りまくっている。汗でぐっちょぐちょだからだ。もちろん冷や汗だ。
そのため極めておぼつかないハンドルさばきとなっている。おまけに殴られた痕がまだ痛い。やはり本当に顔が折れたんじゃないかぐらい思う。
しかもフロントガラスは粉々に砕け散っていて、風が目に入って視界を確保するのが難しい。
隣の人物に食い殺される可能性より交通事故で死ぬ可能性の方が高いかもしれない。いずれにしても二十五歳の若さで死にたくなんかない。
そう、俺は今、人食い人種とのドライヴの真っ最中だ。
なんで好き好んで人食い人種を助手席に乗っけているのかというと、俺だって好き好んで乗っけているわけではない。
話は二日前に遡る。俺が通う大学の医学部に長寿について研究しているチームがあるのだが、そいつらを手伝ったのが事の発端だ。
◇ ◇ ◇
国境付近の(国境は日に日に広がっているのでどこまでが帝国の領土なのかはよくわからないが)山岳地帯に住んでいる少数民族の中にマグ族という民族がいる。このマグ族は永遠とも言われる寿命を持っているというのが専らの噂だ。
さすがに永遠というのは言い過ぎだと思うが、近隣の他の民族(と言っても彼らの住む集落と集落の間は十キロ前後離れているが)にも長寿ということで知られている。それを考えると、長寿であることは確かなのだろう。
しかも、一説によるとその長寿さ加減が数百歳と言われているのだ。数百歳ともなれば、確かに永遠に喩えられてもそう大げさなことではない。それだけの長寿であるならば、長寿研究チームが放っておくはずはない。
しかし実際は長いことマグ族の研究は放置されていた。
というのも、マグ族は長寿であること以上に食人の習慣があること、俗に言う人食い人種であることで有名だからだ。
実際、マグ族が他の部族の人間を食っている現場は近隣に住む民族に何度も目撃されている。長寿の調査をしに来ましたぁ、と出向いたはいいものの、獲って食われたのではたまったものではない。研究者だって命は惜しいだろう。いや、長寿の研究をしているのだから普通の人以上に命は惜しいかもしれない。むしろ、長生きしたいから長寿の研究をしている、と言った方がいいだろうか。
というわけで、長寿の研究はしたいがそれ以上に自分の身が可愛い研究者たちによって、長い間マグ族の現地調査は棚上げにされてきた。
ところが昨日、突如として長寿研究チームはマグ族の集落へと赴くことになった。
原因は俺だ。
そういった意味では俺が今、人食い人種とのデッドリードライヴとしゃれこんでいるのは自業自得とも言えるかもしれないが、まぁ聞いてくれ。
俺の本職は言語学者だ。正確に言うと、その卵だ。今は大学院で言語学を学んでいて、今年から博士課程に進んだ。そこでは主に国内の少数民族の言語について研究している。
帝国内には多数の少数民族が存在するが(正確に言うと、国境を押し広げ、その広げた土地に元々住んでいた民族を国が併合しているのだが)、帝国はそれら多数の民族を単一の「国民」として統合しようとしている。
国民とは一つの国家に属する人間ということだ。国に所属した人間はその国の定めた言葉を使わなくてはならない。一つの国には一つの国民しかいないという前提なので、基本的には国が定めた一つの言語以外は存在してはならないのだ。
従って、複数の民族が一つの国民として統合されていく時、その過程で多くの民族の言語が失われることになる。そしてその多くが、翻訳されないまま消えていく。
思考というものは言語に規定される面があるので、その言語だからこその概念というものは必ずあるはずだ。つまり、その言語が失われるということは、俺たちにはない概念や考え方、ひょっとしたら感情も失われるということだ。
これは大きな損失だと俺は思う。そういう理由で、俺は少数民族の言語を研究するようになった。俺は俺の知らない考え方や感情を知りたい。
また、帝国としても民族を統合していく過程では、言葉が通じた方が交渉(という名の支配)もスムーズに行えるので、この研究自体は奨励されており、資金も割と潤沢である。その目的とするところは真逆ではあるが、金を出してくれるのはありがたい。
一昨日、俺はフィールドワークのため、とある少数民族の集落を訪れていた。その時に「今日、マグ族が一人死んだ」という話を聞いた。長寿で知られるマグ族の人間が死んだということで、そのニュースは近隣の部族たちにすっかり広まっていた。
しかも、その死んだ人間がまだ若かった。つまり早死にだったというのだから俺が訪れた集落でもかなり話題になっていて、フィールドワークどころではなかったほどだ。こう言っちゃアレだが、こういった少数民族には娯楽が少ない。逆に言うと毎日のんびり、割と平和にやっているのだが、それ故に普段と変わった事があると村中大騒ぎになる。
確かに珍しい話だったので、俺もその日大学に帰ってから食堂で友達とお茶を飲んでる時に話してしまった。今にして思うとそれが運の尽きだった。偶然後ろのテーブルに医学部の長寿研究チームの奴が座っていたのだ。
俺の話に聞き耳を立てていたそいつに「興味深いから詳しく聞かせてくれ」と言われ、研究室に連れて行かされた。通された研究室には数名の研究員と教授がいた。教授は見たとこ五十歳くらい、白髪混じりで口髭を生やしている。口髭にも白いものが混ざっていた。背は高い方で、顔立ちも割と整っている。なかなかのダンディと言っていいだろう。
そのダンディ教授は「もしそのマグ族の死体を解剖することができれば、長寿のメカニズムは大きく解明されるだろう」と言う。しかも若い検体は珍しく、こういう機会は次いつ訪れるかわからないらしい。食われる恐怖で二の足を踏んでいた研究チームは、千載一遇の機会を得てようやくその重い腰を上げたというわけだ。
しかしそれはいいのだが、どうやってそのマグ族の死体を持ってくるのだろう。見ず知らずの奴に身内の亡骸を持っていかれるマグ族のことを思うと、それこそ食われかねないのではないか。俺なら食う。
聞いてみると、そこは現地に行ってから交渉するという。本当にお前ら研究機関の人間か?と疑いたくなるくらい行き当りばったりである。まぁ俺には関係ないし、どっちでもいいかぁと思っていたら、君も来てくれないか、と連中が言い出した。
君の専門は何かと問われたので、少数民族の言語の研究をしている、と答えてしまったからだ。なんとも馬鹿正直なものだ。我ながら全く頭が回らないとは思うが後の祭りだ。
しかし俺は抵抗を試みた。その周辺の部族の言語なら研究しているが、マグ族の言語はまだ研究していない、と言った。そしてこれは事実だ。俺だって人食い人種は怖いからだ。
しかし研究チームも食い下がる。それなら隣の部族の奴を通訳に雇ってはどうかということになった。大抵の場合、近隣の少数民族同士は多少の交流を持っている。今回の場合、マグ族の集落と最も近い集落に住んでいるニヤ族は、マグ族の言葉を解することがわかっている。それを利用するのだ。
先ず俺が研究チームの伝えたいことをニヤ族の人間に話す。そしたらそいつがマグ族に俺が言ったことを伝えるのだ。マグ族からの返事はその逆の道筋を辿る。
もちろん俺は更に色々と理由を付けて断ろうとしたのだが、研究チームの奴らは妙に押しが強く、というより何か切羽詰ったようなところがあり、それが迫力にも繋がってるし、困ったことに憐憫にも繋がっていた。最後はダンディ教授が懇願してきた。親くらいの年齢の人に懇願されるのは、なんだか非常に微妙な気持ちだ。気乗りはしなかったが結局行くことになってしまった。
俺はない。
しかし、俺の隣に座っている人物は十中八九あるだろう。
さっきからハンドルを切る時、手が滑りまくっている。汗でぐっちょぐちょだからだ。もちろん冷や汗だ。
そのため極めておぼつかないハンドルさばきとなっている。おまけに殴られた痕がまだ痛い。やはり本当に顔が折れたんじゃないかぐらい思う。
しかもフロントガラスは粉々に砕け散っていて、風が目に入って視界を確保するのが難しい。
隣の人物に食い殺される可能性より交通事故で死ぬ可能性の方が高いかもしれない。いずれにしても二十五歳の若さで死にたくなんかない。
そう、俺は今、人食い人種とのドライヴの真っ最中だ。
なんで好き好んで人食い人種を助手席に乗っけているのかというと、俺だって好き好んで乗っけているわけではない。
話は二日前に遡る。俺が通う大学の医学部に長寿について研究しているチームがあるのだが、そいつらを手伝ったのが事の発端だ。
◇ ◇ ◇
国境付近の(国境は日に日に広がっているのでどこまでが帝国の領土なのかはよくわからないが)山岳地帯に住んでいる少数民族の中にマグ族という民族がいる。このマグ族は永遠とも言われる寿命を持っているというのが専らの噂だ。
さすがに永遠というのは言い過ぎだと思うが、近隣の他の民族(と言っても彼らの住む集落と集落の間は十キロ前後離れているが)にも長寿ということで知られている。それを考えると、長寿であることは確かなのだろう。
しかも、一説によるとその長寿さ加減が数百歳と言われているのだ。数百歳ともなれば、確かに永遠に喩えられてもそう大げさなことではない。それだけの長寿であるならば、長寿研究チームが放っておくはずはない。
しかし実際は長いことマグ族の研究は放置されていた。
というのも、マグ族は長寿であること以上に食人の習慣があること、俗に言う人食い人種であることで有名だからだ。
実際、マグ族が他の部族の人間を食っている現場は近隣に住む民族に何度も目撃されている。長寿の調査をしに来ましたぁ、と出向いたはいいものの、獲って食われたのではたまったものではない。研究者だって命は惜しいだろう。いや、長寿の研究をしているのだから普通の人以上に命は惜しいかもしれない。むしろ、長生きしたいから長寿の研究をしている、と言った方がいいだろうか。
というわけで、長寿の研究はしたいがそれ以上に自分の身が可愛い研究者たちによって、長い間マグ族の現地調査は棚上げにされてきた。
ところが昨日、突如として長寿研究チームはマグ族の集落へと赴くことになった。
原因は俺だ。
そういった意味では俺が今、人食い人種とのデッドリードライヴとしゃれこんでいるのは自業自得とも言えるかもしれないが、まぁ聞いてくれ。
俺の本職は言語学者だ。正確に言うと、その卵だ。今は大学院で言語学を学んでいて、今年から博士課程に進んだ。そこでは主に国内の少数民族の言語について研究している。
帝国内には多数の少数民族が存在するが(正確に言うと、国境を押し広げ、その広げた土地に元々住んでいた民族を国が併合しているのだが)、帝国はそれら多数の民族を単一の「国民」として統合しようとしている。
国民とは一つの国家に属する人間ということだ。国に所属した人間はその国の定めた言葉を使わなくてはならない。一つの国には一つの国民しかいないという前提なので、基本的には国が定めた一つの言語以外は存在してはならないのだ。
従って、複数の民族が一つの国民として統合されていく時、その過程で多くの民族の言語が失われることになる。そしてその多くが、翻訳されないまま消えていく。
思考というものは言語に規定される面があるので、その言語だからこその概念というものは必ずあるはずだ。つまり、その言語が失われるということは、俺たちにはない概念や考え方、ひょっとしたら感情も失われるということだ。
これは大きな損失だと俺は思う。そういう理由で、俺は少数民族の言語を研究するようになった。俺は俺の知らない考え方や感情を知りたい。
また、帝国としても民族を統合していく過程では、言葉が通じた方が交渉(という名の支配)もスムーズに行えるので、この研究自体は奨励されており、資金も割と潤沢である。その目的とするところは真逆ではあるが、金を出してくれるのはありがたい。
一昨日、俺はフィールドワークのため、とある少数民族の集落を訪れていた。その時に「今日、マグ族が一人死んだ」という話を聞いた。長寿で知られるマグ族の人間が死んだということで、そのニュースは近隣の部族たちにすっかり広まっていた。
しかも、その死んだ人間がまだ若かった。つまり早死にだったというのだから俺が訪れた集落でもかなり話題になっていて、フィールドワークどころではなかったほどだ。こう言っちゃアレだが、こういった少数民族には娯楽が少ない。逆に言うと毎日のんびり、割と平和にやっているのだが、それ故に普段と変わった事があると村中大騒ぎになる。
確かに珍しい話だったので、俺もその日大学に帰ってから食堂で友達とお茶を飲んでる時に話してしまった。今にして思うとそれが運の尽きだった。偶然後ろのテーブルに医学部の長寿研究チームの奴が座っていたのだ。
俺の話に聞き耳を立てていたそいつに「興味深いから詳しく聞かせてくれ」と言われ、研究室に連れて行かされた。通された研究室には数名の研究員と教授がいた。教授は見たとこ五十歳くらい、白髪混じりで口髭を生やしている。口髭にも白いものが混ざっていた。背は高い方で、顔立ちも割と整っている。なかなかのダンディと言っていいだろう。
そのダンディ教授は「もしそのマグ族の死体を解剖することができれば、長寿のメカニズムは大きく解明されるだろう」と言う。しかも若い検体は珍しく、こういう機会は次いつ訪れるかわからないらしい。食われる恐怖で二の足を踏んでいた研究チームは、千載一遇の機会を得てようやくその重い腰を上げたというわけだ。
しかしそれはいいのだが、どうやってそのマグ族の死体を持ってくるのだろう。見ず知らずの奴に身内の亡骸を持っていかれるマグ族のことを思うと、それこそ食われかねないのではないか。俺なら食う。
聞いてみると、そこは現地に行ってから交渉するという。本当にお前ら研究機関の人間か?と疑いたくなるくらい行き当りばったりである。まぁ俺には関係ないし、どっちでもいいかぁと思っていたら、君も来てくれないか、と連中が言い出した。
君の専門は何かと問われたので、少数民族の言語の研究をしている、と答えてしまったからだ。なんとも馬鹿正直なものだ。我ながら全く頭が回らないとは思うが後の祭りだ。
しかし俺は抵抗を試みた。その周辺の部族の言語なら研究しているが、マグ族の言語はまだ研究していない、と言った。そしてこれは事実だ。俺だって人食い人種は怖いからだ。
しかし研究チームも食い下がる。それなら隣の部族の奴を通訳に雇ってはどうかということになった。大抵の場合、近隣の少数民族同士は多少の交流を持っている。今回の場合、マグ族の集落と最も近い集落に住んでいるニヤ族は、マグ族の言葉を解することがわかっている。それを利用するのだ。
先ず俺が研究チームの伝えたいことをニヤ族の人間に話す。そしたらそいつがマグ族に俺が言ったことを伝えるのだ。マグ族からの返事はその逆の道筋を辿る。
もちろん俺は更に色々と理由を付けて断ろうとしたのだが、研究チームの奴らは妙に押しが強く、というより何か切羽詰ったようなところがあり、それが迫力にも繋がってるし、困ったことに憐憫にも繋がっていた。最後はダンディ教授が懇願してきた。親くらいの年齢の人に懇願されるのは、なんだか非常に微妙な気持ちだ。気乗りはしなかったが結局行くことになってしまった。
1
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる