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十一話…プレゼント ※文章冒頭の注意書きを読んでください。 

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※注意書き
この話の回では残酷表現を含みます。
 苦手な方はこの回は読まないで下さい。
 次の話の回11,5話で柔らかいニュアンスで今回の話のまとめを置きますので、
 今回の回をスキップしても大丈夫なようにしますのでご了承お願い致します。





「ラファエルに呼び出されたからここで待っててくれる?」
先刻、サリエルにそう告げられ、七夜は言われた通りの場所で膝を抱えて待っている。
ラファエルの呼び出しで天界に戻らなければならず、一度この世界に足を踏み入れた魂を天界に連れていく事が出来ないからとサリエルは申し訳なさそうに言った。
サリエルに連れてこられたのはこの世界の『セーフ区域』という召喚された魂だけが立ち入ることが出来る場所。
サリエルは自身の鎌を具現化させるとそれを七夜に持たせた。
小さな今の体にサリエルの大きな鎌は不釣り合いで、持つ事を拒んだが、念のためと言って押し付けられた。
七夜は、サリエルと別れると座り込み鎌を床に置いた。
鎌の先が自分に向くと怖いので、鎌の先を外に向けて。
………。どれだけ時が経過したのだろうか?  一時間? 30分? 一日? それとももっと? そもそも、この世界に時という概念があるのだろうか?
何度目かの溜息を吐いた時自身の影に長細い影法師が被る。
顔をあげれば、知らない青年が七夜に微笑みかけてきた。
七夜はぺこりとお辞儀をする。
「礼儀正しいね。日本人?」
「そうです」
「やっぱり? そんな感じがしたよ」
青年は人懐っこい笑みを向け、七夜の隣に座る。
「君、名前は?」
「…七夜です。あなたは?」
「俺? うーん。何だったかな? ここに長くいすぎて自分の名前すらも忘れちゃった。君は七夜って言うんだね。君がもし、自分の名前を忘れてしまっても俺が覚えていてあげるよ」
「はぁ」
「って言ってもどんだけ俺が七夜君の事覚えてられるか分からないんだけどねぇ」
青年は笑う。
青年と話していて思い出したのはシャムハザとのいつの日かの会話。
シェムハザは、七夜に『過去をまだ思い出せるか? 体の大きさに内面が引っ張られていないか?』と問うた。
青年はきっと長い年月で自分の事を忘れてしまったのだろう。
それはもしかしたらいつの日か訪れる自分の姿のような気がして七夜は青年を真っ直ぐ見つめる。
「ん? 俺の顔に何かついてるかな?」
「いえ。…ここに長いんですか?」
「そうだね。君が8回位生まれ直せる位はここにいるんじゃないかな?」
「そんなに…。契約した内容が難しいものだったんですか?」
「うーん。そうでもなかった気がする。俺がこの世界の方が居心地がよくなっちゃってさ。思い出してみれば地上での生活は俺には合わなかったような気がするし」
「という事は自分の意思でこの世界に留まったんですか? 自分の事を忘れてしまうの怖くなかったんですか? 俺は記憶が無くなるのは自分じゃなくなるみたいで怖いです」
「そうかな? そういうものかもしれないね。それは君がこの世界に来て日が浅いか、まだ君が人間であるからだよ」
「人間?」
「そう。俺は地上に未練を残している者を『人間』って呼んでる」
「…人間。人間じゃなかったら何になるんですか?」
「普通なら天使とか悪魔じゃない? まぁ、俺からしたらどっちもどっちで、天使にも悪魔にもなりたくないけど」
青年は舌を出して笑う。
天使でも悪魔でも人間でもなければこの目の前の青年はなんなのだろうか? と七夜は不可思議そうに青年を見つめる。
「七夜君は顔に言葉が出るタイプだね」
青年は優しく七夜のほっぺたを突っつく。ムニムニとした触感に病みつきになったのか、青年は目を輝かして突っつく。
「止めて下さい」
「ごめん、ごめん。七夜君の肌触りがあまりにも気持ち良かったからさ。それで、なんだっけ、俺が何かだっけ。うーん。考えてみた事なんてなかったけど。あれだな」
「あれ?」
「『俺は俺』ってこと。そう、人種『俺』。みたいな。そもそも何かになりたくてここに俺は来たんじゃない。でも、あの世界に未練なんてなかったけど、自分の知らない所で未練があった。だから俺はここに召喚された。死の淵でも後悔なんてしたことなかったんだけどな。でも、自分の知らない未練があったからこそ俺はここにあれる。俺はそれだけでいい。逆にここまでくると俺の『生前の未練』ってのが、なんだったのか気になる気もするけどね」
「カッコイイ!」
「そうかな? そうだったらいいな。そうだ、嬉しいことを言ってくれる七夜君にプレゼントをあげるよ」
青年は、どこから取り出したのかリボンのかかった大きな箱を七夜の目の前に置く。
「開けてみて? 俺に同調してくれる七夜君ならきっと気に入ってくれると思うんだ」
七夜は恐る恐るリボンをほどき箱を開け、覗く。
そこには想像もしていなかった姿。
あまりにも惨い中身に七夜は悲鳴をあげる。
辛うじて、見覚えのある天使の羽と鳩の死骸が細切れの肉片に混じっておりこれが何だったのか、何者だったのかが分かってしまう。
肉片の間から覗く飛び出した彼女の眼球が恨めしそうに七夜を見つめる。
七夜はその場に頽れると、嘔吐してしまう。
「アハ。そんなに喜んでくれるなんて嬉しいな。そこのクソ天使とこの間の小悪魔が最近ハイエナみたいに鬱陶しくてさ。小悪魔は邪魔が入ったせいで殺し損ねちゃったけど、それは上手くバラせたと思わない?」
「…」
「そうだ。七夜君。一つ思い出したことがあるんだ」
青年はワザとらしく手を打つ。
「俺、自分の名前は忘れちゃったけど、周りが俺の事を呼ぶ呼び名は思い出したんだ。
『悪意の子』
それが今の俺の名前らしいんだよ」
「!」
七夜、手元にあるサリエルの鎌を強く握ると思いっきり振り上げる。
鎌は悪意の子の右腕を捉えると、いとも簡単に切り離す。
右腕はコロコロと転がる。
悪意の子は痛くもかゆくもなさそうに身軽に右腕の元に行くと「酷い事するなぁ」と言って、右腕を拾い上げる。
しかし、七夜は悪意の子の右腕を切り上げた時、彼の腕から大量の血が溢れ、それが七夜の頭に降りかかり、冷静さを取り戻すと共に、自分が大層なことをしてしまったと、狂乱の海に意識が沈んでいく。
七夜は「うわぁぁぁぁぁぁぁ」と呻き続ける。
「変な七夜君。プレゼントの中身が気に入らない位で鎌を振り回したり、喚いてみたり」
「…」
「おーい、俺の話聞こえてる?」
悪意の子、溜息を吐くと、七夜の細首に左手をかける。
「ほんと、俺ってなんですぐ壊しちゃうのかな? せっかく友達になれると思ったのに。まあ、仕方ないか。それにしても細い首だね。片手だけでも十分にへし折れるよ」
悪意の子、左手に力を込める。
ふっと、大きな斧を振り上げた青年が上から降ってくる。
悪意の子、寸前で七夜の首から手を離し、後ろに飛びのく。
ルウ、七夜を庇う様に前に出る。
「誰? 君。邪魔しないでくれるかな」
「…お前こそ俺の邪魔をするな」
ルウ、七夜に視線を向ける。
七夜、その場に崩れ落ち何か呟きながら箱を抱きしめている。
ルウ、箱の中身を見て目を細めた後、七夜の頭を思いっきりぶん殴る。
七夜、意識が現実世界に引き戻される。
「よく聞け。その中身、羽がばらされてないか確認しろ。羽の根が背中から切り落とされてなくてくっついてる部分があるか確認しろ」
七夜、言われた意味が分からなかったが慌てて、手を箱の中に突っ込み探す。
そこには背中と思われる肉片に羽が生えている部分がある。
七夜、それを取り出し抱きしめる。
「あった!」
「…それなら、そいつはまだ死んでねぇ。ここを切り抜ける事だけを考えろ」
「本当!?」
七夜、笑顔で応える。
「ほんと、そんな風になっても生きてるとか天使も化け物と変わらないよね?」
「お前は喋るな」
ルウ、斧を横一文字に振る。
悪意の子それを軽く避ける。
「君、俺の左腕とか足を狙ってない? 俺の事蛇みたいにしたいの?」
「…」
悪意の子、ルウに笑いかけるが、ルウは無表情のまま斧を振り回す。
何度目か斧を振り回した時、斧が当たっていないにもかかわらず悪意の子の表情が苦悶の表情に変わる。
「やっと効いてきたか」
「…どういう事?」
「それくらい自分で考えろ。バーカ」
悪意の子溜息を大きく吐く。
「仕方ない。残念だけど今回は退くことにするよ。うん。楽しみが先に延ばされたと考えればそう悪くもない」
悪意の子、一瞬で七夜の元に近付くと七夜の額にキスを一つ落とす。
そして耳元で七夜にだけ聞こえるように「七夜君が悪魔になる日を楽しみにしているよ?」と囁くと今度は大きく後ろに後退する。
「またね、七夜君」
悪意の子、笑顔で大きく手を振ると今度こそどこかに消えていく。
ルウ、七夜の傍で腰を折ると服の裾で七夜の額をゴシゴシと拭く。
「いた、痛いよ」
「…」
ルウ、しばらく拭き続けると手を差し出し、七夜を立たせる。
「ありがとう、ルウさん」
「…別に、サマエルがお前の天使と取引をしたから俺が此処に来ただけ。別にお前の為じゃない」
「でも、ありがとう」
「…それより、早く行くぞ。それ、持ってやるから」
ルウは、七夜が抱えているモノを箱の中に戻す様に視線を向けるが、七夜は首を振る。
ルウ、箱の蓋を取り閉めると箱を持ち上げる。
「…それ、無くすなよ」
「うん」
「じゃあ、ついこい」
七夜、強く強くザドキエルを抱きしめる。
目を瞑れば彼女が「またね」と笑顔で手を振ってくれたことを思い出す。
七夜、ルウの服の裾を掴むと、前に向けて歩を進める。
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