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幕間…Ⅴ
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扉越しから見る景色、それは幼少の折から見てきた光景。
慣れている、慣れている、慣れているはず…。
そうやって、言い聞かせれば言い聞かせるほど空しくなってくる。
やっとできた友達。
欲しかった友達。
でも、手にして直ぐに壊しちゃうのはいつも同じ。
欲しくて、欲しくて、手に入れても直ぐに壊しちゃう。
だから、次に大事なものが出来たら絶対に絶対に壊さないって決めたのに…。
ツヴァイ兄さんからのお仕置きを受けながらぼんやりと考える。
どこで、間違えてしまったのだろうか? と。
ツヴァイ兄さんからのお仕置きは別に何とも思わない。
抵抗さえしなければ、絶対に致命傷になるような傷を受ける事は無い。
痛くはない、いたくはない、いたくない…
それでも、傷口は痛まないけれど、なんだか痛い。
どこが痛いと明確には分からないけれども体の奥がしめつけられるような…
自室に戻ってもなんだか頭がぽんわりして、何も頭に入ってこない。
ふっと、お腹をさわれば濡れた感触。
見てみれば、お仕置きを受け出来た傷から血が出ており、着ている服に染みを作っていた。
自分の血で服を汚す事は滅多に無くきょとんと一瞬してしまうが、自分の汚れた服で彼の綺麗な洋服を汚してしまった事を思い出し、慌てて服を脱ぐと床に放り投げる。
そのままベッドに寝転がる。
自身の血で、シーツが汚れるが全く気にならない。
それよりも気になるのは彼の事。
こんなにも気になるのはなんでだろうか?
フィーア兄さんが拾ってきたから?
ツヴァイ兄さんにも臆さなかったから?
考えても答えが出ない。
自分は兄さんたちと違ってバカだからしょうがない。
それでも気になるモノは気になってしまう。
次の日も、その次の日も彼の部屋を覗き見る。
少しだけ扉を開けて覗いてみる。
彼は勘が鋭いのかこちらの視線に気が付き直ぐに振り返る。
視線が交わりそうになって、慌ててその場を離れて隠れる。
今までは、この視線が交わりそうで交わらないこのドキドキ感が楽しかった。
早く視線が交わって自分を見つけて欲しくてワクワクした。
でも、今は視線が交わるのが恐い。
今度こそ、彼を壊してしまいそうで。
壊れたモノはどうやっても直らない。
壊れたモノはなんの役にも立たないから廃棄されておしまい。
壊れてしまえば、こちらに向かって微笑んでくれる事も無い。
ただの冷たい土くれに帰るだけ。
「おい!」
急に降ってきた言葉に少し身構える。
ついに見つかってしまったのかと恐れてしまう。
でも、声の主を確認して、安堵と落胆の溜息がもれてしまう。
「兄貴に向かって溜息とはいい度胸だな」
「別にツヴァイ兄さんに溜息ついたわけじゃない」
「…」
ツヴァイ兄さんが呆れ顔で自分の頭を掻いている。
手には何も握らず。
ツヴァイ兄さんにとって、相手を切りつけるのは愛情表現。
だから、自身の愛から逃げる者に落胆して殺してしまう。
逃げてしまっても、その者を愛しているから自分の者にしたくてその者への幕引きを自分で行う。
だからそれも結局ツヴァイ兄さんが目の前の者を愛している故の行動。
ツヴァイ兄さんの愛情表現を僕は理解が出来ない。
それは僕がバカだから。
…だからツヴァイ兄さんも僕に対して呆れてしまった。
その証拠に兄さんは僕に刃物を向けてくれない。
うっかり泣きそうになり下を向く。
すると、大きな手が頭を優しく撫でる。
「お前はバカだ。俺達兄弟の中で一番バカだ」
「…わかってるもん」
「それは言い換えれば一番俺達兄弟の中で『純粋』だって事」
「?」
「お前は『友達』が出来て嬉しかった。だから体中でそれを表現した。それの何が悪い? 別にお前のバカ力であいつが壊れたわけじゃない。間違いを犯したと思ったのであれば次は同じ過ちを起こさないようにすればいいだけ」
「…」
「友達っていうのは一人でなるものじゃない。双方が認め合うから友達になれるんだ。片方が拗ねて、そっぽを向いてしまっても友達であることに変わりはない」
「まだ、友達でいてくれてるかな?」
「…あいつはお前を待ってるぞ」
「…」
ツヴァイ、優しくフンフの背中をおしてやる。
「行ってこい、ダメだったらこの俺が切り刻んでやるよ」
「それは、ダメ。うん。でもありがとう。ツヴァイ兄さん。僕行ってくる」
フンフ、レインの元に駆け出す。
ありったけの『ごめんなさい』と『これからもよろしく』を言いに。
大切な友達の元へ。
慣れている、慣れている、慣れているはず…。
そうやって、言い聞かせれば言い聞かせるほど空しくなってくる。
やっとできた友達。
欲しかった友達。
でも、手にして直ぐに壊しちゃうのはいつも同じ。
欲しくて、欲しくて、手に入れても直ぐに壊しちゃう。
だから、次に大事なものが出来たら絶対に絶対に壊さないって決めたのに…。
ツヴァイ兄さんからのお仕置きを受けながらぼんやりと考える。
どこで、間違えてしまったのだろうか? と。
ツヴァイ兄さんからのお仕置きは別に何とも思わない。
抵抗さえしなければ、絶対に致命傷になるような傷を受ける事は無い。
痛くはない、いたくはない、いたくない…
それでも、傷口は痛まないけれど、なんだか痛い。
どこが痛いと明確には分からないけれども体の奥がしめつけられるような…
自室に戻ってもなんだか頭がぽんわりして、何も頭に入ってこない。
ふっと、お腹をさわれば濡れた感触。
見てみれば、お仕置きを受け出来た傷から血が出ており、着ている服に染みを作っていた。
自分の血で服を汚す事は滅多に無くきょとんと一瞬してしまうが、自分の汚れた服で彼の綺麗な洋服を汚してしまった事を思い出し、慌てて服を脱ぐと床に放り投げる。
そのままベッドに寝転がる。
自身の血で、シーツが汚れるが全く気にならない。
それよりも気になるのは彼の事。
こんなにも気になるのはなんでだろうか?
フィーア兄さんが拾ってきたから?
ツヴァイ兄さんにも臆さなかったから?
考えても答えが出ない。
自分は兄さんたちと違ってバカだからしょうがない。
それでも気になるモノは気になってしまう。
次の日も、その次の日も彼の部屋を覗き見る。
少しだけ扉を開けて覗いてみる。
彼は勘が鋭いのかこちらの視線に気が付き直ぐに振り返る。
視線が交わりそうになって、慌ててその場を離れて隠れる。
今までは、この視線が交わりそうで交わらないこのドキドキ感が楽しかった。
早く視線が交わって自分を見つけて欲しくてワクワクした。
でも、今は視線が交わるのが恐い。
今度こそ、彼を壊してしまいそうで。
壊れたモノはどうやっても直らない。
壊れたモノはなんの役にも立たないから廃棄されておしまい。
壊れてしまえば、こちらに向かって微笑んでくれる事も無い。
ただの冷たい土くれに帰るだけ。
「おい!」
急に降ってきた言葉に少し身構える。
ついに見つかってしまったのかと恐れてしまう。
でも、声の主を確認して、安堵と落胆の溜息がもれてしまう。
「兄貴に向かって溜息とはいい度胸だな」
「別にツヴァイ兄さんに溜息ついたわけじゃない」
「…」
ツヴァイ兄さんが呆れ顔で自分の頭を掻いている。
手には何も握らず。
ツヴァイ兄さんにとって、相手を切りつけるのは愛情表現。
だから、自身の愛から逃げる者に落胆して殺してしまう。
逃げてしまっても、その者を愛しているから自分の者にしたくてその者への幕引きを自分で行う。
だからそれも結局ツヴァイ兄さんが目の前の者を愛している故の行動。
ツヴァイ兄さんの愛情表現を僕は理解が出来ない。
それは僕がバカだから。
…だからツヴァイ兄さんも僕に対して呆れてしまった。
その証拠に兄さんは僕に刃物を向けてくれない。
うっかり泣きそうになり下を向く。
すると、大きな手が頭を優しく撫でる。
「お前はバカだ。俺達兄弟の中で一番バカだ」
「…わかってるもん」
「それは言い換えれば一番俺達兄弟の中で『純粋』だって事」
「?」
「お前は『友達』が出来て嬉しかった。だから体中でそれを表現した。それの何が悪い? 別にお前のバカ力であいつが壊れたわけじゃない。間違いを犯したと思ったのであれば次は同じ過ちを起こさないようにすればいいだけ」
「…」
「友達っていうのは一人でなるものじゃない。双方が認め合うから友達になれるんだ。片方が拗ねて、そっぽを向いてしまっても友達であることに変わりはない」
「まだ、友達でいてくれてるかな?」
「…あいつはお前を待ってるぞ」
「…」
ツヴァイ、優しくフンフの背中をおしてやる。
「行ってこい、ダメだったらこの俺が切り刻んでやるよ」
「それは、ダメ。うん。でもありがとう。ツヴァイ兄さん。僕行ってくる」
フンフ、レインの元に駆け出す。
ありったけの『ごめんなさい』と『これからもよろしく』を言いに。
大切な友達の元へ。
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