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プロローグ

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この世界は異質だ。

人間だけが住んでいたのは気が遠くなるほど昔の話…。
神と悪魔の戦争がこの地球にも及び、人は初めてこの世界が人間だけのもので無かった事を知った。
突如現れた神も悪魔も自分の領土、天界と魔界の拡大を狙い己の事しか考えず、人が初めて見る膨大な力を駆使し人間は蹂躙された。

しかし、地球が神や悪魔の領土となる事は無かった。
突如現れた勇者によってひと時の安寧が訪れた。
勇者はこの地球を神と悪魔の中立世界とし、交易を始めた。
それに伴い人間は徐々に力をつけ、極端に減らした人口を一気に増大させた。

いくら神や悪魔が人間より秀でた力を持っていたとしても、人の多さが難敵だった。
減らしても減らしても増大し、隙を見つけては反撃する人間。
神や悪魔は中立となったこの地球に幾度が侵略を進めていたがある時ぱたりと侵略がなくなった。
それに人間は歓喜した。

それが、破滅の始まりだとは知らずに…。

人間とは愚かだ。
一つの大きな難敵があれば協力してそれを撃滅しようとするが、それがなくなれば同じ人間同士で争いを始める。
どちらが秀でているからとか、お前のモノが欲しいとか…。
今思えばどれもくだらない事が発端で争いが巻き起こった。

すると、神や悪魔が人間に干渉を始めた。
『神の加護を与えましょう』
『全てを屠る魔の力を与えよう』

いつしか人間たちの戦いは神と悪魔の代理戦争の様相を呈した。

膨大な力、人の手にはあまる力を駆使した戦い。
それにより様々なモノが破壊された。
命、文明…発達していたあらゆるモノが破壊され無に帰した。
残ったのは退廃した世界と倫理観が崩壊した人間…。
生き残った者の中には神や悪魔から力を与えられすぎて、皆が知る人とは言い難い存在に変異した者もいた。

どんなに廃れた世界であっても『弱肉強食』のことわりは絶対である。

力あるモノが生き、力なきモノが死ぬ。

人間、人であったモノ、神や悪魔が跋扈する混沌に満ちた世界。

『勇者アカデミー』なるモノも出来、この世界の破壊を止めようとする機関も出来たが、
それらがこの世界を救う兆しは未だに無い。

…世界の崩壊が止まる事は無い。



こんな狂った世界で死ぬのが嫌だった。
自分がいつ、誰によって、産み落とされたのかも分からない。
気が付けば真っ暗な森の中で一人泣いていた。
泣いたからと言って、事態が好転する事は無い。
逆に泣き声で自分の場所を知らせ、悪漢に襲われそうになった事も多々ある。
殺されそうになった事も多々ある。
けれども生き抜いてきた。
何故だか知らないが、命の危機に瀕する出来事が近づくと視界が真っ赤に染まった。
それを無視して、出来事を進めていくと警戒音が耳に鳴り響き、それすらも無視すると、
真っ赤な視界が点滅し警戒音がより一層大きく鳴り響いた。
だから、僕は警告が見えると、その警告が消えるように行動をした。
命の危険が遠ざかると、警告は見えなくなった。
警告の通りに動いても警告が止まない時もある。
それは本当に危険な状態に陥っている時だ。
しかし、判断を誤らなければ、大けがを負っても死ぬ事はない。

だったら、今回はどこで間違ったのだろうか? と思う。
視界は先程から真っ赤に点滅し、うるさい警告音も鳴りやまない。
逃げる為に足を動かそうとも体は言う事を聞かずに地べたを無様に這っている。
路地裏の冷たい地面が気持ち悪い。
先程から雨が降り始め、冷えていく体温を余計に奪っていく。

あぁ、もう助からない。

それは、腹部から抜けていく血の感覚が分からなくなってきた時から感じていた。
死ぬのは嫌だが、仕方ない。
弱い者は死んでいく、それがこの世界の理なのだから。

それでも、死ぬのが人間によって殺されるのが嫌だった。
どうせ殺されるのなら、自分よりも強い存在に殺されたかった。
それなら、諦めが付いた。
大きな存在を知りながら未だに同族で殺しあう事を止められない愚かな人間に殺されるのが悔しくてたまらなかった。

雨が激しさを増す。
ふっと、目の前に真っ黒な人影を見つける。
それは、悪魔だろうか?
不敵に笑むと人間を殺した。
あれは…
僕を騙して殺そうとした武器商人の男だった。
まさか、自分が死ぬ前に敵討ちを見られるとは思わなかった。
左の頬にⅣの刺青のある男はこちらに気が付くと、こちらに歩を進めた。

このまま無能な人間に殺されるよりもこの悪魔に殺された方が何百倍もマシな気がした。
先程から全く動かない体に鞭打って、右手を差し出す。

「…僕を殺して」

絞りだした言葉と差し出した手が空を切った所で視界が暗転した。
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