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21. 学園生活スタート④

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「ただいまより、ヘーリオス学園、入学式を挙行いたします」


入学式の会場内に入り、指定の席へと案内されて全員の着席が完了すると男性の声がマイクでも使ったかのように、場内に良く響いた。


周りを軽く見渡すと声の発信源である男性を見つける。


彼の口元には丸みを帯びた緑色の薄い魔力が張られており、それを使うことにより声を張り上げなくても、彼の声が響く仕組みらしい。


瞳の色は薄緑で赤茶の髪がしっかりと整えられ、スーツを来ているのでこの学園の先生だろう。


(……なるほど。風の力を借りて自分の声を場内に送り込んでいるのね)


日本にあったマイクほどではないが、ベネットがまだ生きていた時には見たことがない魔法の使い方だった。


周りの令息、令嬢達も響いた声に驚いていたが、『これは魔法の研究によって生み出された"声を広範囲に届ける"もので、戦うことを目的とされた魔法ではないので安心してください』と呼びかけがあったことにより、時間もかからず皆が静かになった。


場内が静かになったことを確認すると、仕切り直すためもう一度「ただいまより、ヘーリオス学園、入学式を挙行いたします」と声が響き、つつがなく入学式は進行した。


進行の流れとしては、日本の入学式とそんなに変わらない。


変わっているとすれば日本では名前順に並び、1列か2列編成で外から入場し、保護者や教員が入場を見守って着席してから入学式を始めるが、私達は既に会場の椅子に座った状態から始まったし、この場には親は居ない。


居るのは新入生と在学生、教師、祝辞を述べるために訪問した者しかしない。


それからヘーリオス帝国、国歌斉唱はあったものの生徒達が歌うのではなく、国に認められた合唱団と演奏者が垂れ幕の向こう側から代わりに歌い、弾いてくれるのだ。


入学許可証は日本であれば厚紙に名前が書かれた物を入学式が終わった後に教室で配られるが、学園では紙の代わりにブレザーの襟に付けられるバッチを後で貰えるそう。


そして、貴族の子供達を立たせはしないが1人ずつ名前を読んでいく。


ここは一緒だが、日本では名前を呼ばれたら返事をするがこの世界は何もしなくていい。


(楽だわ……)


気を張っていなければいけないのは変わりないが、それでも座っているだけで何もしなくてもいいのは楽だ……退屈だけど。


新入生の名前が全て呼ばれ終わると学園長式辞、来賓式辞に移る。


ここでは地位も権力もある方々が多いので、流石に全生徒立ち上がって話を聞いた。


「新入生の皆様、ヘーリオス学園へのご入学、おめでとうございます。皆様の学園生活が主神セーラスの加護により、光に満たされることを願っております。私からは以上です」


学園長である30代半ばの男は短い祝辞を述べ、人の良さそうな笑みを全校生徒に向けると自分の席へと戻って行った。


その場に居た全員が拍手を贈る。


皆が彼に笑顔で拍手を贈るのは彼に道徳心があり、平等に接する優しい人間だから。


仮に学園長のその態度に反発心を抱いている者がいても、本人にそのことを言えるのはヘーリオス帝国の皇族くらいなものだ。


理由は、彼が現皇帝陛下の弟……つまりは、皇族なのだ。


若かりし頃の学園長は頭がよく回り、様々なことに興味を持ち、仕組みを理解するまで没頭してしまう癖があった。


そのせいか、前皇帝陛下がまだ元気だった頃には皇位争いに巻き込まれ、気苦労が絶えなかったと噂で聞いている。


当時皇太子だった現皇帝と学園長である皇弟はとても仲が良かったので血生臭い結果にはならなかったが、それでも周りの人間が勝手に派閥争いを繰り広げ、皇弟を囃し立て、皇帝側は皇弟の存在を警告する者も多かったという。


それに嫌気が差した学園長は自ら魔法研究を進め、その成果が認められたことで現在はヘーリオス学園の学園長にまで上り詰めたのだ。


彼を皇帝にしようとしていた者達はさぞ、ガッカリしたはずだ。


(……それにしても、来賓祝辞は一人一人が長いわね。ここら辺はどの国でも共通なのかしら?それともゲームの制作会社は日本だから"日本のあるある"が詰め込まれてしまったのかしら?)


話し方も「え~でありまして、あ~ですから……」というものが多かった。


最初は真面目に聴いていたが、あまりにも話が長いのであ~とかえ~を何回言ったか数えだして気を紛らわせても、ずっと立って人の長話を聴いているのが正直しんどくなってきた所でようやく祝辞が終わり、着席を許される。


来賓紹介と祝福の手紙(日本でいうところの祝電みたいな短い内容の手紙)が披露され、在校生の祝辞となる。


「在校生代表!マリアンヌ・ディーゼル公爵令嬢、壇上へ」


軽く巻かれたシルバーブロンドの髪を揺らしながら登壇すると新入生に燃えるような赤い瞳で勝気な視線を寄越す。


「新入生の皆様!ヘーリオス学園へのご入学、おめでとうございます。学園生活が主神セーラスの加護により、光に満たされることを願っております……なにより、今年度生徒会長であるわたくしが祝福しているのだから、ご先祖様でいらっしゃるセーラス様が祝福しないなど有り得ませんわ!」


知らない女生徒だったが、祝辞の内容や容姿からして皇姉が嫁ぎ先で儲けた子供なのだろうと判断した。


──つまり、私の婚約者である皇太子からは従姉にあたる存在だ。


皇族の血を引いた貴族なのが理由か、ただ周りに甘やかされたことが理由か、話したことがなくても勝気で傲慢な性格なのが分かる。


「新入生として我が帝国の皇太子であり、私の従弟であるクリスが入学してきましから、この学園での四季は豪華で華のあるものになりますわ!……そうよね?皇太子殿下?」


「……あぁ、そうですね」


皇太子の顔は見えないが声だけで呆れているのが伝わってくる。


わたくしクリスが入学してくるのを指折り数えて楽しみにしてましたのよ……では、以上が在校生の挨拶ですわ~。新入生の皆さんご機嫌よう~」


お辞儀をして壇上から降りる時、横目で私を見て鼻で笑いながら自分の席へと戻って行った。


(……大丈夫です。別に私は皇太子のこと好きじゃないから。それに貴女が警戒するのは私ではなく、"ヒロイン"ですよ)


マリアンヌの残念すぎる私への挑発に私は乗ることもなく、別のことを考える。


(……そういえば、ヘーリオス学園には四季があるわね)


四季とは日本と同じ意味で春、夏、秋、冬の4つの季節をまとめて四季と呼ぶ。


この世界の季節感は日本と一緒なのだ。


学園ではその四季に沿って、4つの行事がある。


乙女ゲームでいうところのイベントであり、マーガレットプレイヤーはこれを『4大イベント』と名付けた。


他にも細々なイベントがあるせいか、分からなくならないように攻略者の好感度をあまり上げられないものをイベントと呼び、成功させると好感度の増減が大きいものを『4大イベント』と呼ぶようにしたのだ。


ヘーリオス学園では皆、この行事を『四季』と呼んでいる。


四季イベントの内容は、春は『花見』、夏は『剣術大会』、秋は『文化祭』、冬は『狩猟大会』の4つがあり、大体は日本でも似たような行事があるが冬の『狩猟大会』は別だ。


この大会では、令息達が狩りに出かけて獲物である動物を仕留め、最後にはそれぞれの想い人に捧げ、令嬢は獲物を渡してくれた令息に刺繍を施したハンカチを贈るのが決まりだ。


なので、令嬢達は狩猟から彼等が帰ってくるまでの間にひたすら刺繍をして待つ。


より多くの獲物を獲得した令嬢は次回の狩猟大会までの間、『女神』という称号を頂き、生徒達にも女神と呼ばれる。


「まず最初に新入生を代表して言わせて下さい。在校生の先輩方、先生方、来賓の皆様、沢山のお祝いの言葉をありがとうございます。我々新入生は互いに切磋琢磨し、このヘーリオス学園での3年間を実りあるものとすることを約束します……そして、従姉であり、先輩であり、生徒会長であるマリアンヌ嬢は私をことを『我が帝国の皇太子』と言われましたが、自分を含め学園内では階級など関係なく皆等しく平等です。なので私との間に壁を作らず、仲良くしてください」


考え事をしている間に司会から呼ばれた皇太子殿下が壇上にあがって新入生代表の挨拶をしていたので、そこからはちゃんと意識を戻して彼の話を聴いた。


("学園内"ではね……)


マリアンヌの傲慢な祝辞を聞いた後だから生徒達は皆、優しい皇太子殿下に拍手を贈る。


私も周りから浮かないように拍手したが、彼の言葉の意味を理解していない人々には優しく、皇族だということをひけらかさない皇太子と受け取られたことだろう。


「以上を持ちまして、ヘーリオス学園の入学式を閉会いたします」


こうしてようやく、ヘーリオス学園の入学式が終わった。
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