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11. 公爵夫妻は娘がお嫌い?③
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「リカルド(公爵閣下)とお菓子を食べていたのでしょう?なら、私とは紅茶だけにしましょうか」
私は頷く。
ディアナと私は彼女の部屋の椅子に座るとベルで使用人を呼んだ。
(リーリアと公爵がお茶を共にする時はいつも沢山のお菓子が出されていたのかしら?)
訝しむ様子もなく、スラスラと出てくるということはそういうことなんだろうなと理解した。
「公爵夫人、リーリアお嬢様、失礼します。紅茶と他に何か必要なものはありますか?」
「今日は紅茶だけでいいわ」
「かしこまりました」
使用人も慣れているようでまた直ぐに部屋から出て行った。
「……リカルドから私の所に顔を出すように言われたのでしょう?」
ディアナは使用人が出ていくと静かに言った。
「はい」
「そうよね。ついこないだまではこれが私達のルーティンだったけれど……貴女は今"記憶喪失"なのだから覚えているはずが無いわ」
「……」
一向に私と目を合わせないまま話しかけてくるディアナに私はなんて声をかけたらいいのか分からない。
「……いつもみたいに私の態度が気に入らない?」
「申し訳ありません。お母様が何を仰りたいのか分かりません」
私は弱々しい微笑みを作り、寂しそうに見つめた。
「いつも通りに私に怒鳴って不満を言うか、リカルドに私のあることないことを吹き込めばいいのでは、と言っているのよ!?」
突然立ち上がり、ヒステリーに叫ぶ姿にビックリして固まる。
けれど、徐々に混乱が落ち着いてくるとディアナの言葉に納得出来た。
(リーリアは母親の態度が冷たいと怒り、公爵閣下に告げ口していたのね……だから、公爵は娘に対して甘いけれど、夫人はそれで更に娘に冷たい態度を取ってしまうのね)
いくらリーリアがやってきたことが私に関係が無いことだとしても、今この体に居るのは私だ。
自分可愛さのために謝ることに決めた。
リーリアの家族にも私の味方になって欲しいから。
「お母様。これまでの非礼、本当に申し訳ありません」
私はディアナを驚かせないようにゆっくりと立ち上がってから謝罪をした。
ちゃんと頭も下げ、リチャードにされた時のことを真似て『やめて』と言われるまでそのままの体勢をキープするつもりだ。
「なんの真似?私にやったことへの記憶もない癖に……」
反対側からは怪訝な声がかかる。
「それに──貴女が謝る相手は私だけではなくってよ」
(……リチャードのことね)
ディアナの言葉を聞いて察した。
もしかしたら彼女がリーリアに冷たいのは公爵閣下がリーリアを可愛がるだけでなく、彼女が弟のリチャードに酷い扱いをしているからなのでは……?という考えが急に浮かんだ。
確か、悪役令嬢リーリア・サルバトレーのバットエンドはヒロインが対象攻略者(皇太子殿下、ジャックフリート、リチャード)をどのくらい攻略出来ているかによって変わる。
リーリアは死ぬか国外追放の2択な訳だが、どちらであっても変わらないことがある。
サルバトレー公爵はリーリアの件で罪を問われ、新しい公爵としてリチャードが選ばれる。
……ただし、その時まだリチャードは16歳だから未成年ということで後ろ盾が必要であった。
帝国側からも自分達の手を取るように提案(脅迫)されるが、母親であるディアナを守るためにリチャードは彼女の実家を頼ることになる。
ディアナの実家は、スコタージ王国。
闇の属性を司る国だ。
スコタージ現国王の妹であり、一番愛された3番目の姫でスコタージ王国はその息子からの提案に乗り、ディアナはリチャードが成人するまで守られる事となる。
ちなみに、帝国からの提案(脅迫)は神子であるヒロイン、ジェシカにより阻止されたため、帝国側は何も出来なかったそうだ。
ゲーム公式ライトノベルでの内容だから、ヒロインはリチャードと仲良くしてなくてもきっとそうするのだと思う。
「リチャードが許したとしても、私は貴女を許しませんからね」
ディアナの声が聞こえ一旦、別のことを考えるのを中止した。
「……はい、分かっているつもりです」
「そう言うのなら今後、態度で示しなさい……ところで顔を上げて座り直して。使用人達にまた酷いことをしていると勘違いされるから」
「わかりました」
今回のご機嫌取りは上手くいかなかったが、一応猶予は貰えたみたい。
それでも、気を引き締めなければならない。
しばらくして、最初に入って来た使用人が部屋に来て紅茶のセッティングをし、また出て行った。
「……」
「……」
私とディアナは無言で紅茶を飲む。
気まずい空気が流れた。
「……でも、悪いのは貴女だけではないわね。私もちゃんと謝ることが出来る人間ではないもの」
10分ほど経っただろうか。
ディアナが小さな声で何か言った。
「すみません、何て言われましたか?」
囁くみたいな声だったから何を言ったのか分からなかったけれど。
聞き返すと顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。
「私も悪かったと言っているのです!」
叫ぶみたいな大きな声で言うから今度は何を言っているのかわかる。
最初はディアナの上がり下がりの激しい性格に困惑していたが、そっぽを向いた真っ赤な顔は怒っているのではなく、照れているんだと知った。
(……公爵夫人は美緒の居た時代でいう"ツンデレ"ってやつなのかも)
元々性格が悪いということではないのなら、今後は彼女と仲良く出来るだろう。
……私が努力を怠らなければの話だが。
「私も今までのこと、反省してます。今後は思ったことはちゃんと伝え合いませんか?」
ディアナを可愛らしく思い、仲良くしたいと笑って言ってみた。
一番気おつけたのは、小馬鹿にしていると勘違いされないように笑ったことだ。
「……えぇ。宜しくてよ」
照れながらも私の目を見て返事をしてくれたので、凄く嬉しかった。
私は頷く。
ディアナと私は彼女の部屋の椅子に座るとベルで使用人を呼んだ。
(リーリアと公爵がお茶を共にする時はいつも沢山のお菓子が出されていたのかしら?)
訝しむ様子もなく、スラスラと出てくるということはそういうことなんだろうなと理解した。
「公爵夫人、リーリアお嬢様、失礼します。紅茶と他に何か必要なものはありますか?」
「今日は紅茶だけでいいわ」
「かしこまりました」
使用人も慣れているようでまた直ぐに部屋から出て行った。
「……リカルドから私の所に顔を出すように言われたのでしょう?」
ディアナは使用人が出ていくと静かに言った。
「はい」
「そうよね。ついこないだまではこれが私達のルーティンだったけれど……貴女は今"記憶喪失"なのだから覚えているはずが無いわ」
「……」
一向に私と目を合わせないまま話しかけてくるディアナに私はなんて声をかけたらいいのか分からない。
「……いつもみたいに私の態度が気に入らない?」
「申し訳ありません。お母様が何を仰りたいのか分かりません」
私は弱々しい微笑みを作り、寂しそうに見つめた。
「いつも通りに私に怒鳴って不満を言うか、リカルドに私のあることないことを吹き込めばいいのでは、と言っているのよ!?」
突然立ち上がり、ヒステリーに叫ぶ姿にビックリして固まる。
けれど、徐々に混乱が落ち着いてくるとディアナの言葉に納得出来た。
(リーリアは母親の態度が冷たいと怒り、公爵閣下に告げ口していたのね……だから、公爵は娘に対して甘いけれど、夫人はそれで更に娘に冷たい態度を取ってしまうのね)
いくらリーリアがやってきたことが私に関係が無いことだとしても、今この体に居るのは私だ。
自分可愛さのために謝ることに決めた。
リーリアの家族にも私の味方になって欲しいから。
「お母様。これまでの非礼、本当に申し訳ありません」
私はディアナを驚かせないようにゆっくりと立ち上がってから謝罪をした。
ちゃんと頭も下げ、リチャードにされた時のことを真似て『やめて』と言われるまでそのままの体勢をキープするつもりだ。
「なんの真似?私にやったことへの記憶もない癖に……」
反対側からは怪訝な声がかかる。
「それに──貴女が謝る相手は私だけではなくってよ」
(……リチャードのことね)
ディアナの言葉を聞いて察した。
もしかしたら彼女がリーリアに冷たいのは公爵閣下がリーリアを可愛がるだけでなく、彼女が弟のリチャードに酷い扱いをしているからなのでは……?という考えが急に浮かんだ。
確か、悪役令嬢リーリア・サルバトレーのバットエンドはヒロインが対象攻略者(皇太子殿下、ジャックフリート、リチャード)をどのくらい攻略出来ているかによって変わる。
リーリアは死ぬか国外追放の2択な訳だが、どちらであっても変わらないことがある。
サルバトレー公爵はリーリアの件で罪を問われ、新しい公爵としてリチャードが選ばれる。
……ただし、その時まだリチャードは16歳だから未成年ということで後ろ盾が必要であった。
帝国側からも自分達の手を取るように提案(脅迫)されるが、母親であるディアナを守るためにリチャードは彼女の実家を頼ることになる。
ディアナの実家は、スコタージ王国。
闇の属性を司る国だ。
スコタージ現国王の妹であり、一番愛された3番目の姫でスコタージ王国はその息子からの提案に乗り、ディアナはリチャードが成人するまで守られる事となる。
ちなみに、帝国からの提案(脅迫)は神子であるヒロイン、ジェシカにより阻止されたため、帝国側は何も出来なかったそうだ。
ゲーム公式ライトノベルでの内容だから、ヒロインはリチャードと仲良くしてなくてもきっとそうするのだと思う。
「リチャードが許したとしても、私は貴女を許しませんからね」
ディアナの声が聞こえ一旦、別のことを考えるのを中止した。
「……はい、分かっているつもりです」
「そう言うのなら今後、態度で示しなさい……ところで顔を上げて座り直して。使用人達にまた酷いことをしていると勘違いされるから」
「わかりました」
今回のご機嫌取りは上手くいかなかったが、一応猶予は貰えたみたい。
それでも、気を引き締めなければならない。
しばらくして、最初に入って来た使用人が部屋に来て紅茶のセッティングをし、また出て行った。
「……」
「……」
私とディアナは無言で紅茶を飲む。
気まずい空気が流れた。
「……でも、悪いのは貴女だけではないわね。私もちゃんと謝ることが出来る人間ではないもの」
10分ほど経っただろうか。
ディアナが小さな声で何か言った。
「すみません、何て言われましたか?」
囁くみたいな声だったから何を言ったのか分からなかったけれど。
聞き返すと顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。
「私も悪かったと言っているのです!」
叫ぶみたいな大きな声で言うから今度は何を言っているのかわかる。
最初はディアナの上がり下がりの激しい性格に困惑していたが、そっぽを向いた真っ赤な顔は怒っているのではなく、照れているんだと知った。
(……公爵夫人は美緒の居た時代でいう"ツンデレ"ってやつなのかも)
元々性格が悪いということではないのなら、今後は彼女と仲良く出来るだろう。
……私が努力を怠らなければの話だが。
「私も今までのこと、反省してます。今後は思ったことはちゃんと伝え合いませんか?」
ディアナを可愛らしく思い、仲良くしたいと笑って言ってみた。
一番気おつけたのは、小馬鹿にしていると勘違いされないように笑ったことだ。
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