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「俺ってさ、なんで生きてんだろうね。」
その言葉が口から飛び出したとき、俺は二つの意味で驚いた。一つは俺ってこんなこと悩んでいたのかということ。もう一つはハエちゃんをこういう重たい内容を相談できる相手として捉えていたということ。
そもそも俺には中学一年の時から、いや、もっと前かもしれない。俺の胸には偉そうに、でも実体はなくて曖昧で、言語化するにはあまりにも難しすぎる何かが執拗にまとわりついて離れないでいた。そういうものを何とか抱える息苦しさを周りに悟られないように、自分の奥深くに隠しながらそれなりに生きてきたんだ。
呼吸し辛いのが当たり前になり始めたころに、俺はハエちゃんと出会うことになる。ハエちゃんは変人だった。いや、決して悪口じゃない。少しばかり他人と比べて変わった人なのだ。だいたい仲が良いとは言い難いやつから、ぶんぶんうるさい虫の名前のニックネームをつけられて誰が喜ぶのだろうか。しかも申し訳程度に女の子への愛称をつけただけなのに。誰も喜ぶはずがない。それが普通だ。それなのにハエちゃんは嫌悪のそぶりひとつ見せず、ハエちゃんと呼ぶときまって涼しい声で「なに?」と返事するのだ。普通じゃない。彼女は普通の感覚を持っていないんだ。そう悟った。その悟りはどんどん興味に変わっていく。初めてだった。こんなにも人に興味を持ったのは。そのうち今まで出会ってきた友人たちとは明らかに違う人種の彼女を、たくさん知りたいと思うようになっていた。
第一印象、おっとりした変人。第二印象、実はくそまじめな奴。第三印象、自分の意見をはっきりともっている人間。彼女を知っていった順としてはこんな感じだ。第三印象をもとにきっとこの曖昧な悩みに少しはっきりした答えを与えてくれるんじゃないか、そう考えていなかったと言ったら嘘になる。こんなふうに他人を利用して問題から向き合うことを放り出してしまうなんて、身勝手な人間にもほどがある。
ハエちゃんから返ってきた言葉は「わからない。」だった。光が一瞬にして消滅して、身を取り巻く世界から、一切の情報がシャットアウトされた。深くて暗い穴の中に、叩き落されたような心地がしたのだ。そこに急に降ってきたのが宝探しが好きかという質問だったから、拍子抜けてしまった。夏だったし、熱中症とかで頭がもうろうとしてんじゃないかと心配になった。
でも、彼女のその後の言葉を聞いて納得した。ハエちゃんらしい考えだ。そしてすごいと思った。ハエちゃんにずっとそばにいてほしいと思った。ハエちゃんが一人の時は、彼女のそばにいたいと思った。
これが恋なのか、その時はそんなこと考えてなかったけど、そのうち気が付いていくのはこの時知るよしもない。
その言葉が口から飛び出したとき、俺は二つの意味で驚いた。一つは俺ってこんなこと悩んでいたのかということ。もう一つはハエちゃんをこういう重たい内容を相談できる相手として捉えていたということ。
そもそも俺には中学一年の時から、いや、もっと前かもしれない。俺の胸には偉そうに、でも実体はなくて曖昧で、言語化するにはあまりにも難しすぎる何かが執拗にまとわりついて離れないでいた。そういうものを何とか抱える息苦しさを周りに悟られないように、自分の奥深くに隠しながらそれなりに生きてきたんだ。
呼吸し辛いのが当たり前になり始めたころに、俺はハエちゃんと出会うことになる。ハエちゃんは変人だった。いや、決して悪口じゃない。少しばかり他人と比べて変わった人なのだ。だいたい仲が良いとは言い難いやつから、ぶんぶんうるさい虫の名前のニックネームをつけられて誰が喜ぶのだろうか。しかも申し訳程度に女の子への愛称をつけただけなのに。誰も喜ぶはずがない。それが普通だ。それなのにハエちゃんは嫌悪のそぶりひとつ見せず、ハエちゃんと呼ぶときまって涼しい声で「なに?」と返事するのだ。普通じゃない。彼女は普通の感覚を持っていないんだ。そう悟った。その悟りはどんどん興味に変わっていく。初めてだった。こんなにも人に興味を持ったのは。そのうち今まで出会ってきた友人たちとは明らかに違う人種の彼女を、たくさん知りたいと思うようになっていた。
第一印象、おっとりした変人。第二印象、実はくそまじめな奴。第三印象、自分の意見をはっきりともっている人間。彼女を知っていった順としてはこんな感じだ。第三印象をもとにきっとこの曖昧な悩みに少しはっきりした答えを与えてくれるんじゃないか、そう考えていなかったと言ったら嘘になる。こんなふうに他人を利用して問題から向き合うことを放り出してしまうなんて、身勝手な人間にもほどがある。
ハエちゃんから返ってきた言葉は「わからない。」だった。光が一瞬にして消滅して、身を取り巻く世界から、一切の情報がシャットアウトされた。深くて暗い穴の中に、叩き落されたような心地がしたのだ。そこに急に降ってきたのが宝探しが好きかという質問だったから、拍子抜けてしまった。夏だったし、熱中症とかで頭がもうろうとしてんじゃないかと心配になった。
でも、彼女のその後の言葉を聞いて納得した。ハエちゃんらしい考えだ。そしてすごいと思った。ハエちゃんにずっとそばにいてほしいと思った。ハエちゃんが一人の時は、彼女のそばにいたいと思った。
これが恋なのか、その時はそんなこと考えてなかったけど、そのうち気が付いていくのはこの時知るよしもない。
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