水巫女はハレムで溺れる

愛月なみ

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アクアナ神殿(1)

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 水面から頭をだした私は、足がいつのまにか底にふれていることに気づいた。
足をしっかり踏みしめると、水面は胸の下あたりにきた。

 これじゃあ、降り立つというより浮き上がるだよ、女神様。

 まわりを見渡すと目の前には堂々とした白い建物があった。
何本も太い純白の柱がたくさん並び、それぞれに美しい少女が彫刻されている。

 回廊なのか、壁はほとんどない。

 その建物の前には同じく真っ白な衣装をきた男性や女性がたくさん集まっていた。

 輪になって、なにやらざわざわしている。

 後ろを振り返ると私がでてきた泉は学校のプールぐらいの大きさがあり、その先はヤシの木のような背の高い木がたくさん植わっていて木陰を泉に落としていた。

 ひとまずは人がいるほうに行ったほうがいいだろう。

 そう判断して、建物のほうへ泉の中を歩いていく。

 ざばりざばりと水をかき分ける音が聞こえたのか、輪になっていた何人かがこちらに気づいた。

 こちらに向けられた顔は彫が深く、西洋人のような顔立ちだった。

 その人たちが一様に口を「O」の字に開けて呆然としている。

 完全に泉から出たらワンピースが体に張りついて歩きにくい。

「あの……」

 靴は脱げてしまったようで、仕方なく裸足で集団へ向かう。

 輪になった人たちはこちらを向く人が徐々に増えて、輪がほどけてその中心が見えるようになった。

 そこには、セーラー服を着た少女が立っていた。

 私と同じく、全身ずぶぬれになっている。

 振り向いた彼女はとても馴染みのある日本人顔だった。

 ぱっちりとした目にこぶりな鼻と口のかわいらしい、けれども輪になった人達のような西洋人風ではない顔をしていた。

 一瞬、そのかわいらしい目には不似合いの剣呑な光がうかんだような気がしたけれど、輪になった人たちのうちの数人がこちらへ駆け寄ってきたので「ん?」と思った私の疑問は早々に打ち切られた。

「あぁ、二人も巫女様に来ていただけるなんて!!
今日はなんて良き日でしょう!!」

 その中でも一際年齢のいった白髪のおじいちゃんが顔中に笑顔を浮かべて私の前でお辞儀をした。

「ようこそお越しくださいました、異界の水巫女様。
私たち水の神殿は巫女様にお仕えするもの。
どうぞそのお力をお貸し頂ければと思います」

 再度、お辞儀をしたおじいちゃんは隣の年配の女性に一つ頷いた。

「どうぞ、巫女様。
お着換えののち、ご説明いたします。
こちらへお越しくださいませ」

 年配の女性に促され、目の前の建物へ案内される。
そのときには、もう一人いた日本人の少女ももういなくなっていた。

 また説明のときに会えるかな。

 親切にしてもらえそうだけど、やっぱり同郷がいると心強い。

 いや、彼女は制服だったから、多分女子高生。
私のほうがお姉さんなんだから、頼ったりするなんてダメだよね。
うん。
私がしっかりしなくちゃ!!

 そういえば……あのとき、女神様がもう一人巻き込んでよんでしまったと言っていた。
彼女がその巻き込まれた子かな?
「巻き込み」ってすごい災難だけど、もしかしたら彼女も同じく河の中で死んでしまったかもしれないし、それなら違う世界でも生きているだけよかったのかもしれない。


 先を歩く年配女性を追いかけて柱がならぶ回廊を抜けると、白い石造りの廊下にでた。少し歩いた先で、布がひらひらとゆれる廊下にかわる。
どうやら布がカーテンでその向こうに部屋があるようで、一つのカーテンをめくって中へ促される。

 中へ入ると、やはり小部屋になっていて、窓と思われる場所にも白い布がかけられていて、柔らかく光りを取り込んでいた。

 そこへ、入口から別の女性が水色の布をもってきた。

「お着換えのお手伝いをさせていただきましょうか」

 女性二人がにこやかに聞いてくれるけれど、多分着れるだろうと思うので丁重にお断りする。

 一度でていってもらって、じっとり濡れた服を脱いでいく。
水色の布と別に、ふんわりした白い布があったので、多分これがタオルだと思って体と髪をふいたあとに、水色の布を手にした。

 広げてみると、とてもシンプルがワンピースのよう。

 かぶってみると、ノースリーブの足首までくるワンピースだった。
腰には同じ水色の長い布がついていたので、それを前後に一周させて、とりあえず横で結んでみた。

「あの、これでいいですか?」

 入口のカーテンをめくって、顔だけだして廊下でまってくれていた女性に聞いてみる。
「ええ、とてもお似合いです。
こちらは水巫女様の専用のお衣装となっております。
やはり、水の精霊に愛されたお方には水色や青がお似合いになりますね」

 嬉しそうににこやかに頷く女性に、さほど違和感のない服をもらえたことに安堵する。

 コルセットぎゅうぎゅうのドレスとか、十二単みたいに一人で着れないとか、すごい露出高いのとか、そんな衣装文化だったらちょっと厳しかったので、とりあえず服については安心。
 ちなみに、下着はパンツはそれっぽいのがあったけれど、ブラはなかった。
 さらしのようなものを巻きつけるだけのようだった。
 聞いていないけれど、渡された布からして多分あっていると思う。

 それより、さきほどの説明で気になる点があった。

「水巫女専用の衣装って、巫女はそんなにいるんですか?」

 専用衣装が用意されていることから、滅多にないことじゃなくて、むしろよくあることのような感じがした。

「そのあたりはこの後、神殿長から説明がございますので、そちらでご確認くださいませ。
では、お着換えもおわりましたので説明の場へご案内してもよろしいでしょうか?」

「あ、はい。
あ! 私の着ていた服はどうなりますか?」

 着ていた濡れた服は床に仮置きしてある。

「乾かしてお返しいたしますので、ご安心ください。
では、どうぞこちらへ」

 女性の案内で、また廊下をすすむこととなった。
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