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10. 主犯が消えたら

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 翌朝。
 私が学院のホームルームに入っても、誰一人と見向きすらしませんでした。

 扉を開ける音で振り向く人が数人はいるはずですが、私がこのタイミングで来ることを知っていたかのようにピクリとも動きません。

 挨拶をしないだけでも無礼と見做みなされるというのに、それ以上の無礼にしかならない完全無視という行動。
 その度胸を少し見習いたいくらいです。



 ……流石にこの状況を放置するのは良くありません。
 ですが、この場で怒ったところで効果があるのかは不明です。

 このまま彼らの罪を増やして、来週あたりにまとめて断罪……というのも選択肢に入れた方が良いかもしれません。 


「シルフィーナ様……」

「リリアさん、何かありましたか?」

「昨日はありがとうございました。私が何も言えなかったせいで酷い目に遭っているのに、助けて頂いてしまって何と申していいのか……」


 エドガー様によれば、リリアさんは私が怖くて先日欠席していたはずです。
 ですが、重傷を負った翌日の今日は来れています。

 よく考えたら、おかしな話よね……。


「少し気になったのですけど、先日はどういう理由で欠席しましたの?」

「脅されていますの……」


 申し訳なさそうに口にするリリアさん。
 何者か──恐らくエドガー様に彼女が脅されている可能性は考えていましたが、本人の口から聞かされるとは思いませんでした。

 もっとも、リリアさんの言葉が嘘の可能性もあるので見極めは必要です。


「そうでしたのね。具体的にはどう脅されていますの?」

「借金のことがバレたくなければ指示に従えと言われていますわ」

「そうでしたのね。今日中に調査してから、殿下にも相談の上で対策を考えますわ」

「あ、ありがとうございます」


 リリアさんが作り気の無い笑顔を見せてくれた時でした。
 同じクラスの方5人が近くにやってきて、私を取り囲みながらこんなことを口にしました。


「またリリア様を虐めていますのね!」


 同時に2人から手が伸びてきて、そのまま突き飛ばされてしまいました。
 幸いにも机の角にはぶつかりませんでしたが、壁にぶつかったせいで背中が少しだけ痛みます。


「リリア様、大丈夫でしたか?」

「私、シルフィーナ様に相談していたのですけど……」

「「えっ?」」


 ちょうど5つ、素っ頓狂な声が上がりました。
 どうやら、本気で私がリリアさんを虐めていたと信じていたようです。


「私は言ったはずです。リリアさんを虐めてはいないと。
 それなのに、貴方達はこのような仕打ちを私にしてきました。これを虐めと言うのではなくて?」

「それは……」

「私もエドガー様も公爵家の人間、地位は同じですから、どちらかを信じるしかない事は分かっていますわ。
 いくら批判しても構いませんけど、暴力だけは許しませんので」


 皆さん完全に黙り込んでしまいましたね。


「このまま態度を変えなかったら私も動かざるを得ないので、そのつもりでお願いしますね?」


 そう口にしながら、笑顔を作ってみます。
 すると、何故か恐る恐ると言った様子で「はい」と返事をされました。
 私、怖くは無いはずなのに……。

 少し悲しくなってしまいました。
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