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9. 寂しがりですか?
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リリアさんが怪我をした日の夜、屋敷に与えられている自室で課題をしている時でした。
机の上に置いてある水晶のような魔導具──通信石が震え出しました。
この通信石は必ず2個で1組になっていて、どちらかに魔力を注ぐとそれぞれの石の持ち主同士で会話が出来ます。
今震えているのは、私の婚約者のウィリアム王太子の石と繋がっているものです。
その震えている石を手に取り、少しだけ魔力を注ぎます。
すると、早速ウィリアム様の声が聞こえてきました。
「こんばんは。困ったことは無いかい?」
「ええ、こんばんは。学院でエドガー様に冤罪をかけられて、暴力を振るわれたことくらいですわ」
「よし、今すぐに帰国の手続きをしよう」
怒りを滲ませながら、そんなことを口にするウィリアム様。
今回の留学は隣国との交友のためと聞いていたのですが……。
「その必要はありませんわ。彼なら、今週は謹慎で学院に来ませんので」
このままだと本当に留学を中断して帰って来そうなので、慌てて補足しました。
ですが……通信石から聞こえてくるのは、残念そうな声だけでした。
「シルフィに会う口実が出来たと思ったのに……」
「今週で終わりなのですから、我慢してください!」
「ああ……そうするよ……」
「私だって、ウィリアム様に会いたいのですわ……」
そこまで口にした時でした。
通信石の方と部屋の入り口の方から、ほぼ同時に扉のノックされる音が聞こえてきました。
「そろそろ夕食の時間ですわね……」
「タイミングが悪いね。続きはまた明日にしようか」
「ええ、また明日。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
殿下の声が聞こえたと思ったら、プツっという音と共に通信石からの音が途切れました。
本当はもっとお話しをしたいけれど、ウィリアム様の夕食を抜きにするわけにはいかないから我慢ね……。
「お嬢様、夕食の用意が出来ました」
「ありがとう。今行くわ」
侍女に返事をしてから、夕食のために食堂に向かいます。
この時間になると廊下に侍女の姿はほとんどなく、護衛の騎士さんが警戒しているだけです。
そんな廊下を進み食堂入ったのですが……。
「お父様達はまだなのね」
「ええ。少し遅れるから先に始めていていい、とおっしゃっていました」
「そう、分かったわ」
お父様もお母様も取り込み中のようです。
お兄様は婚約者様との旅行中で不在。
だから一人寂しく食事をするか、お父様達を待つかの二択しか私には残されていません。
「少しだけ待つことにするわ」
「蓋をお持ちしますね」
「ええ、ありがとう」
蓋を取りに厨房に向かう侍女にお礼を言ったときでした。
「待たせてごめんね」
「お母様、早かったですわね?」
「機密だからって追い出されたのよ。あの人はあと1時間は来ないから、先に食べましょう」
タイミングよくお母様が入ってきて、二人で夕食をとることになりました。
机の上に置いてある水晶のような魔導具──通信石が震え出しました。
この通信石は必ず2個で1組になっていて、どちらかに魔力を注ぐとそれぞれの石の持ち主同士で会話が出来ます。
今震えているのは、私の婚約者のウィリアム王太子の石と繋がっているものです。
その震えている石を手に取り、少しだけ魔力を注ぎます。
すると、早速ウィリアム様の声が聞こえてきました。
「こんばんは。困ったことは無いかい?」
「ええ、こんばんは。学院でエドガー様に冤罪をかけられて、暴力を振るわれたことくらいですわ」
「よし、今すぐに帰国の手続きをしよう」
怒りを滲ませながら、そんなことを口にするウィリアム様。
今回の留学は隣国との交友のためと聞いていたのですが……。
「その必要はありませんわ。彼なら、今週は謹慎で学院に来ませんので」
このままだと本当に留学を中断して帰って来そうなので、慌てて補足しました。
ですが……通信石から聞こえてくるのは、残念そうな声だけでした。
「シルフィに会う口実が出来たと思ったのに……」
「今週で終わりなのですから、我慢してください!」
「ああ……そうするよ……」
「私だって、ウィリアム様に会いたいのですわ……」
そこまで口にした時でした。
通信石の方と部屋の入り口の方から、ほぼ同時に扉のノックされる音が聞こえてきました。
「そろそろ夕食の時間ですわね……」
「タイミングが悪いね。続きはまた明日にしようか」
「ええ、また明日。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
殿下の声が聞こえたと思ったら、プツっという音と共に通信石からの音が途切れました。
本当はもっとお話しをしたいけれど、ウィリアム様の夕食を抜きにするわけにはいかないから我慢ね……。
「お嬢様、夕食の用意が出来ました」
「ありがとう。今行くわ」
侍女に返事をしてから、夕食のために食堂に向かいます。
この時間になると廊下に侍女の姿はほとんどなく、護衛の騎士さんが警戒しているだけです。
そんな廊下を進み食堂入ったのですが……。
「お父様達はまだなのね」
「ええ。少し遅れるから先に始めていていい、とおっしゃっていました」
「そう、分かったわ」
お父様もお母様も取り込み中のようです。
お兄様は婚約者様との旅行中で不在。
だから一人寂しく食事をするか、お父様達を待つかの二択しか私には残されていません。
「少しだけ待つことにするわ」
「蓋をお持ちしますね」
「ええ、ありがとう」
蓋を取りに厨房に向かう侍女にお礼を言ったときでした。
「待たせてごめんね」
「お母様、早かったですわね?」
「機密だからって追い出されたのよ。あの人はあと1時間は来ないから、先に食べましょう」
タイミングよくお母様が入ってきて、二人で夕食をとることになりました。
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