ある日突然、醜いと有名な次期公爵様と結婚させられることになりました

八代奏多

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14. 裏側

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 投げられたお茶の始末を侍女に任せ、自室に戻ったリリアは早速手紙を書いた。
 王宮で側仕えをさせて欲しいとお願いするために。

「これで大丈夫ね」

 間違いが無いことを確認すると、すぐに隠した。
 これは今日の王宮パーティーまで見つかるわけにはいかないから。



 それからも侍女のような扱いを伯爵夫人にされ続け、パーティーに向かう時にはすっかり身も心も疲れ切っていた。
 それでも怪我を負わなかったのは、運が良かった。

「リリア、早く準備しなさい! 置いていきますわよ!」

 一体誰のせいで遅くなったと……!

 そんな言葉を口にすることは当然出来ず、急いで外行きのドレスに着替えた。

「「行ってらっしゃいませ」」

 使用人達に見送られ、馬車が動き出す。

 すると、早速両親が愛を囁き合い始めて、リリアは見てられないと言わんばかりに目を背け耳を塞いだ。
 当人達は隠しているつもりだが、当然ながらリリアは知っていた。自分が浮気相手──今目の前にいる母親との間に授かった子で、父親は浮気男であるということを。

 だから、この2人のことは軽蔑していた。
 それでいて、自分が軽蔑されるようなことをしていたとも自覚していて、心中は複雑だった。

(私、お姉様にこんなに酷いことをしていたのね……。でも、味方をすれば私も初めから……)

 ──両親に虐げられていたかもしれない。
 何が正解だったのか、今のリリアには分からなかった。

「お待たせしました。到着しました」

 出発から10分程でパーティー会場に到着し、早速挨拶回りをすることになった。

 そこで国王陛下に挨拶をする時に両親の隙を見て親衛隊に手紙を渡し、挨拶回りが終わると友人の他の伯爵令嬢と話をしていたのだが……

「クラウス様のお顔が治ったのは嘘でしたのね!」

 ……そんな言葉と共に、体に衝撃が走った。

「貴女が余計なことを言うから、私はこんな目に遭いましたのよ! どうしてくれるのよ!」

 顔を蹴られ、お腹を踏まれ、強い痛みに襲われた。
 しかし、意識が遠のき始めた時、足を振り上げる令嬢の顔を水が包み込んだ。

 それからすぐにリリアは医務室に運ばれた。



 それから少ししてアレシアがリリアと仲直りした頃、アルバラン公爵夫人は王妃からこんな相談をされた。

「この前お話ししていたアレシアちゃんの妹なのだけど、側仕えにして欲しいって手紙が来たのよ」
「お断りしてください」

 即答だった。公爵夫人にとって、リリアは将来の義理の娘になるアレシアを虐めていた悪女でしかない。
 そんな女を側仕えにするなど、言語道断だった。

「私もそのつもりだったけど、お顔を蹴られているのを見てしまったのよね……」
「それでも、ダメなものはダメですわ」
「分かったわ」

 ちなみに、こう言っておきながら王妃にリリアを受け入れるつもりは欠片もなかった。

 しかし……どういうわけか、公爵が屋敷にある客室をリリアに貸すことを決めてしまった。
 隠すことがあるのにも関わらず、お人好し過ぎるとしか言えない夫の判断に、公爵夫人は頭を抱えた。
 しかし、その心配は杞憂で、リリアの部屋の周囲を護衛と称した監視役の兵士でガッチリと固め、例えお花を摘みに行く時でさえ侍女に監視させるという徹底っぷり。

 お陰で、公爵夫人は安心してリリアを見定めることができた。

 その結果、2日と経たないうちに公爵家から推薦状が届いてしまった。
 断る気しかなかった王妃は当然頭を抱えた。

 王家であっても、公爵家の推薦状がある人物を簡単に追い返すことはできない。
 しかし、理由さえ有れば断ることが出来る。
 リリアの場合、アレシアを虐めていたことがあったから、簡単に断れる。

 それでも受け入れられた理由は、1通の手紙にあった。
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