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11. 拒否
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すぐに部屋に戻ってドレスから部屋着に着替え、暇つぶしにテラスから夕日で赤く染まる庭園を眺める私。
ここは私の私室にさせてもらっている部屋のテラスだから、侍女以外の誰かが声をかけてくることはない。
そんな時、庭園の端で剣を振る人影を見つけた。
「あれって、クラウス様よね?」
「はい。護身術の練習をしているのだと思います」
「そうなのね」
護身術にしては剣がかなり立派なのだけど、それは気にしないことにした。
そして気が付けば、ずっと彼のことを眺めていて。
ふと、こちらを振り向いたクラウス様と目が合った。
ここからだと表情はよく見えないけど、彼は微笑んだような気がして、再び剣を振り始めた。
それから少しして夕食の時間になったのだけど、目が合ったことについて何か言われることはなかった。
「まさかあんな事件が起こるなんて思わなかったわ」
「あれには驚いたな。たかが男爵令嬢でありながら、クラウスの仮面を叩き落としたんだからな」
さっきから、パーティーの出来事で持ちきりになっているから。
「アレシア、リリア嬢のことだけど話していいかな?」
「ええ、お願いしますわ」
「今はすっかり元気になって、家に帰りたくないと騒いでるらしい。誰かさんが勝手に注いだ水のお陰だな」
医務室を出る前にリリアのグラスに水を注いでいたのを見られていたらしく、そんなことを言われた。
「そ、それは良かったですわ……」
まるで他人事のように答える私。
全く他人事ではないのだけど、私の生み出す水に癒しの効果があると決まってしまったようなものだから、他人事にしておきたかった。
「しかし、リリア嬢に暴力を振るうとは思わなかったな」
「ええ、あれは何が起きてるのか理解できないくらい不思議でしたわ」
「あの男爵令嬢は良くて修道院送りだろうな」
「最悪、処刑ですわね」
そんな会話をする公爵夫妻。そこに他人の不幸を楽しんでいる様子はない。
私は複雑な気持ちだった。あの暴行事件がきっかけでリリアと仲直り出来たから。
でも、リリアは自分で気付けたはず。そんな風にも思えているから。
どう反応していいのか分からない。
「リリア嬢の考えと陛下の判断次第だな」
「そうですわね」
ここでこの話題は途切れた。
そして公爵夫人にこんなことを言われた。
「アレシアちゃん、大事なお話があるの」
「はい」
「貴女に護身術を身につけて欲しいの。公爵家の者となると、狙われることも多いから」
そう説明されて、私は頷いた。
いつリリアと同じ目に遭うか分からないし、そうでなくても誰かを心配させるのは嫌だから。
「それなら、明日から早速始められるようにするわね」
「はい。お願いしますわ」
そうして、明日から護身術を学ぶことが決まった。
それから少しして、夕食を終えた時だった。
「アレシア様、王宮からお手紙が届きました」
「王宮から!?」
まさかの差出人に、思わず声を上げてしまった。
でも、中身を見るとそれはリリアからの手紙だった。
どうやら、本気で伯爵家に戻りたくないらしく、文面から真剣に悩んでいることが伝わってきた。
「うーん、どうしたらいいのかしら……」
「何を悩んでるんだ?」
「リリアからこんな手紙が届きましたの」
手紙を見せると、クラウス様は少し考えてからこんなことを口にした。
「アレシアさえ良ければ、うちで部屋を用意できるけど、どうする?」
「それなら、お願いしますわ」
リリアから聞いた訳ではないけど、なんとなく義母がリリアを虐め出しているような気がして、そんなことを口にした。
「分かった。すぐに手配しよう」
クラウス様はそう言ってくれたけど、私がリリアに侍女のような扱いをされていたことが知られていて、公爵夫妻に拒否されてしまった。
でも、私が直接頭を下げれば快く受け入れてくれて。
数時間後……
「本当にこんなところで暮らして大丈夫ですの……?」
「ええ。感謝なら、アレシアちゃんにするのよ」
……私が公爵夫妻に直接お願いした甲斐もあって、リリアは公爵邸でしばらくの間暮らすことが決まった。
ここは私の私室にさせてもらっている部屋のテラスだから、侍女以外の誰かが声をかけてくることはない。
そんな時、庭園の端で剣を振る人影を見つけた。
「あれって、クラウス様よね?」
「はい。護身術の練習をしているのだと思います」
「そうなのね」
護身術にしては剣がかなり立派なのだけど、それは気にしないことにした。
そして気が付けば、ずっと彼のことを眺めていて。
ふと、こちらを振り向いたクラウス様と目が合った。
ここからだと表情はよく見えないけど、彼は微笑んだような気がして、再び剣を振り始めた。
それから少しして夕食の時間になったのだけど、目が合ったことについて何か言われることはなかった。
「まさかあんな事件が起こるなんて思わなかったわ」
「あれには驚いたな。たかが男爵令嬢でありながら、クラウスの仮面を叩き落としたんだからな」
さっきから、パーティーの出来事で持ちきりになっているから。
「アレシア、リリア嬢のことだけど話していいかな?」
「ええ、お願いしますわ」
「今はすっかり元気になって、家に帰りたくないと騒いでるらしい。誰かさんが勝手に注いだ水のお陰だな」
医務室を出る前にリリアのグラスに水を注いでいたのを見られていたらしく、そんなことを言われた。
「そ、それは良かったですわ……」
まるで他人事のように答える私。
全く他人事ではないのだけど、私の生み出す水に癒しの効果があると決まってしまったようなものだから、他人事にしておきたかった。
「しかし、リリア嬢に暴力を振るうとは思わなかったな」
「ええ、あれは何が起きてるのか理解できないくらい不思議でしたわ」
「あの男爵令嬢は良くて修道院送りだろうな」
「最悪、処刑ですわね」
そんな会話をする公爵夫妻。そこに他人の不幸を楽しんでいる様子はない。
私は複雑な気持ちだった。あの暴行事件がきっかけでリリアと仲直り出来たから。
でも、リリアは自分で気付けたはず。そんな風にも思えているから。
どう反応していいのか分からない。
「リリア嬢の考えと陛下の判断次第だな」
「そうですわね」
ここでこの話題は途切れた。
そして公爵夫人にこんなことを言われた。
「アレシアちゃん、大事なお話があるの」
「はい」
「貴女に護身術を身につけて欲しいの。公爵家の者となると、狙われることも多いから」
そう説明されて、私は頷いた。
いつリリアと同じ目に遭うか分からないし、そうでなくても誰かを心配させるのは嫌だから。
「それなら、明日から早速始められるようにするわね」
「はい。お願いしますわ」
そうして、明日から護身術を学ぶことが決まった。
それから少しして、夕食を終えた時だった。
「アレシア様、王宮からお手紙が届きました」
「王宮から!?」
まさかの差出人に、思わず声を上げてしまった。
でも、中身を見るとそれはリリアからの手紙だった。
どうやら、本気で伯爵家に戻りたくないらしく、文面から真剣に悩んでいることが伝わってきた。
「うーん、どうしたらいいのかしら……」
「何を悩んでるんだ?」
「リリアからこんな手紙が届きましたの」
手紙を見せると、クラウス様は少し考えてからこんなことを口にした。
「アレシアさえ良ければ、うちで部屋を用意できるけど、どうする?」
「それなら、お願いしますわ」
リリアから聞いた訳ではないけど、なんとなく義母がリリアを虐め出しているような気がして、そんなことを口にした。
「分かった。すぐに手配しよう」
クラウス様はそう言ってくれたけど、私がリリアに侍女のような扱いをされていたことが知られていて、公爵夫妻に拒否されてしまった。
でも、私が直接頭を下げれば快く受け入れてくれて。
数時間後……
「本当にこんなところで暮らして大丈夫ですの……?」
「ええ。感謝なら、アレシアちゃんにするのよ」
……私が公爵夫妻に直接お願いした甲斐もあって、リリアは公爵邸でしばらくの間暮らすことが決まった。
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