10 / 17
10. 妄想
しおりを挟む
「仕返しとかはしないんだな」
カーテンの外に戻ると、話を聞いていたクラウス様にそんなことを言われて、私はすぐに反論した。
「しても意味がないので。それに……仕返しをして恨まれたくないんです」
「良かった。やっぱりアレシアはアレシアだね」
「なんですか、それ」
どうやら試されていたらしく、クラウス様は満足そうに口にした。
この時、お父様とすれ違ったのだけど、睨まれただけで何も言われなかった。
「そろそろ帰ろうと思うけど、いいかな?」
「ええ」
今は男爵令嬢が暴れた理由は分からない。でも、取り調べが進めばすぐに明らかになる。
だから、ここに留まる理由はなかった。
私は返事をすると、差し出されたクラウス様の手をとって、並んで歩き出した。
* * *
「アレシアと何を話した?」
入れ違いで医務室に戻った伯爵はリリアにそう問いかけた。
「私の具合を気にかけてくれたお礼を言っただけですわ」
「そうか。アレシアはそれだけで帰ったのか。信じられないな」
そう呟く伯爵は、誰がどう見てもアレシアのことを嫌っているようにしか見えない。
「お姉様はクラウス様への奉仕がありますもの。仕方ないですわ」
「リリアがそう言うなら、今回は許すことにしよう」
それから、伯爵はリリアに構い続けた。
愛する女性との間に授かった大切な娘を可愛がらないはずがないのだ。
それが、嫌われる原因になりうることを知らないから。
(少しは一人になりたいのに……)
自分勝手な伯爵がリリアの気持ちに気付くことはなく、夜遅くまで医務室に篭り続けた。
同じ頃──
「なんでよ! 悪いのはあの女なのよ!」
騒ぎを起こした男爵令嬢は地下牢でそんな声を上げていた。
「何がどうしたらリリア様が悪くなるのか、説明してもらいましょうか」
「あの女がクラウス様がイケメンに戻ったと言うから仮面をはずさせたのに、中身は醜いまま!
嘘つき女には罰が必要なのよ」
「そうですか。だからリリア様を殺したと?」
取調官がそう口にした瞬間、男爵令嬢は一気に顔を青ざめさせた。
「ち、違うの! 私はただ痛い思いをさせたかっただけなの!」
まんまと罠にかかる男爵令嬢。
取調官がしているのは、精神的負担を与えて取り調べをら行いやすくするための作戦だった。
「では、クラウス様の仮面をとった理由から教えてください」
「あの女がクラウスがイケメンに戻ったかもしれないと言っていたからよ」
ちなみにこれは、伯爵令嬢達の噂話を盗み聞きしていただけである。
この事実は翌日の調査で明らかになるのだが、取調官がいま知る由はなかった。
「それで勝手に仮面を叩き落としたと?」
「そうよ! 何か問題ある!?」
取調官は頭をおさえたくなった。
こんなに思考が読めない令嬢を相手にするのは初めてだったのもあり、恐怖すら感じている。
「問題しかありません」
「夢の中ではイケメンで、笑って許してくれたのよ!?」
「それは妄想というのです」
「私は予知夢が見れるのよ!」
少し前に夢で起きたことが現実になり、彼女は予知夢が見れると勘違いしてしまった。
そのせいで、妄想によって引き起こされた夢も予知夢だと思っていた。
イケメンに好かれたい彼女はクラウスに気に入られたいと本気で思っていて、素顔を見られたクラウスに惚れられる夢の通り仮面を叩き落としたとのだった。
しかし、惚れられたのはただの妄想で、実際は零度の視線を送られただけだった。
それなのに……
「きっと、私のことが好きなクラウス様は許してくれますわ」
……妄想全開で頬を赤らめていた。
「先輩、僕には荷が重すぎます」
経験の少ない若手取調官に、この取り調べは難しかったようだ。
しかし、経験豊富な取調官も男爵令嬢の考えていることを理解することは出来ず、原因不明としつつも妄想による奇行だったと判断された。
* * *
「「お帰りなさいませ!」」
公爵邸の玄関に入ると使用人さん総出で出迎えられて、思わず後ずさった。
「アレシア?」
「少し驚いただけですわ」
「何に驚いたんだ?」
使用人さんに驚いたと言うのは恥ずかしくて。
「秘密ですわ」
私はそう言って誤魔化した。
この出迎えに慣れるのは、まだ時間がかかりそうね……。
カーテンの外に戻ると、話を聞いていたクラウス様にそんなことを言われて、私はすぐに反論した。
「しても意味がないので。それに……仕返しをして恨まれたくないんです」
「良かった。やっぱりアレシアはアレシアだね」
「なんですか、それ」
どうやら試されていたらしく、クラウス様は満足そうに口にした。
この時、お父様とすれ違ったのだけど、睨まれただけで何も言われなかった。
「そろそろ帰ろうと思うけど、いいかな?」
「ええ」
今は男爵令嬢が暴れた理由は分からない。でも、取り調べが進めばすぐに明らかになる。
だから、ここに留まる理由はなかった。
私は返事をすると、差し出されたクラウス様の手をとって、並んで歩き出した。
* * *
「アレシアと何を話した?」
入れ違いで医務室に戻った伯爵はリリアにそう問いかけた。
「私の具合を気にかけてくれたお礼を言っただけですわ」
「そうか。アレシアはそれだけで帰ったのか。信じられないな」
そう呟く伯爵は、誰がどう見てもアレシアのことを嫌っているようにしか見えない。
「お姉様はクラウス様への奉仕がありますもの。仕方ないですわ」
「リリアがそう言うなら、今回は許すことにしよう」
それから、伯爵はリリアに構い続けた。
愛する女性との間に授かった大切な娘を可愛がらないはずがないのだ。
それが、嫌われる原因になりうることを知らないから。
(少しは一人になりたいのに……)
自分勝手な伯爵がリリアの気持ちに気付くことはなく、夜遅くまで医務室に篭り続けた。
同じ頃──
「なんでよ! 悪いのはあの女なのよ!」
騒ぎを起こした男爵令嬢は地下牢でそんな声を上げていた。
「何がどうしたらリリア様が悪くなるのか、説明してもらいましょうか」
「あの女がクラウス様がイケメンに戻ったと言うから仮面をはずさせたのに、中身は醜いまま!
嘘つき女には罰が必要なのよ」
「そうですか。だからリリア様を殺したと?」
取調官がそう口にした瞬間、男爵令嬢は一気に顔を青ざめさせた。
「ち、違うの! 私はただ痛い思いをさせたかっただけなの!」
まんまと罠にかかる男爵令嬢。
取調官がしているのは、精神的負担を与えて取り調べをら行いやすくするための作戦だった。
「では、クラウス様の仮面をとった理由から教えてください」
「あの女がクラウスがイケメンに戻ったかもしれないと言っていたからよ」
ちなみにこれは、伯爵令嬢達の噂話を盗み聞きしていただけである。
この事実は翌日の調査で明らかになるのだが、取調官がいま知る由はなかった。
「それで勝手に仮面を叩き落としたと?」
「そうよ! 何か問題ある!?」
取調官は頭をおさえたくなった。
こんなに思考が読めない令嬢を相手にするのは初めてだったのもあり、恐怖すら感じている。
「問題しかありません」
「夢の中ではイケメンで、笑って許してくれたのよ!?」
「それは妄想というのです」
「私は予知夢が見れるのよ!」
少し前に夢で起きたことが現実になり、彼女は予知夢が見れると勘違いしてしまった。
そのせいで、妄想によって引き起こされた夢も予知夢だと思っていた。
イケメンに好かれたい彼女はクラウスに気に入られたいと本気で思っていて、素顔を見られたクラウスに惚れられる夢の通り仮面を叩き落としたとのだった。
しかし、惚れられたのはただの妄想で、実際は零度の視線を送られただけだった。
それなのに……
「きっと、私のことが好きなクラウス様は許してくれますわ」
……妄想全開で頬を赤らめていた。
「先輩、僕には荷が重すぎます」
経験の少ない若手取調官に、この取り調べは難しかったようだ。
しかし、経験豊富な取調官も男爵令嬢の考えていることを理解することは出来ず、原因不明としつつも妄想による奇行だったと判断された。
* * *
「「お帰りなさいませ!」」
公爵邸の玄関に入ると使用人さん総出で出迎えられて、思わず後ずさった。
「アレシア?」
「少し驚いただけですわ」
「何に驚いたんだ?」
使用人さんに驚いたと言うのは恥ずかしくて。
「秘密ですわ」
私はそう言って誤魔化した。
この出迎えに慣れるのは、まだ時間がかかりそうね……。
6
お気に入りに追加
2,466
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
泣き虫令嬢は自称商人(本当は公爵)に愛される
琴葉悠
恋愛
エステル・アッシュベリーは泣き虫令嬢と一部から呼ばれていた。
そんな彼女に婚約者がいた。
彼女は婚約者が熱を出して寝込んでいると聞き、彼の屋敷に見舞いにいった時、彼と幼なじみの令嬢との不貞行為を目撃してしまう。
エステルは見舞い品を投げつけて、馬車にも乗らずに泣きながら夜道を走った。
冷静になった途端、ごろつきに囲まれるが謎の商人に助けられ──
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
嫌われ貧乏令嬢と冷酷将軍
バナナマヨネーズ
恋愛
貧乏男爵令嬢のリリル・クロケットは、貴族たちから忌み嫌われていた。しかし、父と兄に心から大切にされていたことで、それを苦に思うことはなかった。そんなある日、隣国との戦争を勝利で収めた祝いの宴で事件は起こった。軍を率いて王国を勝利に導いた将軍、フェデュイ・シュタット侯爵がリリルの身を褒美として求めてきたのだ。これは、勘違いに勘違いを重ねてしまうリリルが、恋を知り愛に気が付き、幸せになるまでの物語。
全11話
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ハイパー王太子殿下の隣はツライよ! ~突然の婚約解消~
緑谷めい
恋愛
私は公爵令嬢ナタリー・ランシス。17歳。
4歳年上の婚約者アルベルト王太子殿下は、超優秀で超絶イケメン!
一応美人の私だけれど、ハイパー王太子殿下の隣はツライものがある。
あれれ、おかしいぞ? ついに自分がゴミに思えてきましたわ!?
王太子殿下の弟、第2王子のロベルト殿下と私は、仲の良い幼馴染。
そのロベルト様の婚約者である隣国のエリーゼ王女と、私の婚約者のアルベルト王太子殿下が、結婚することになった!? よって、私と王太子殿下は、婚約解消してお別れ!? えっ!? 決定ですか? はっ? 一体どういうこと!?
* ハッピーエンドです。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
「いなくても困らない」と言われたから、他国の皇帝妃になってやりました
ネコ
恋愛
「お前はいなくても困らない」。そう告げられた瞬間、私の心は凍りついた。王国一の高貴な婚約者を得たはずなのに、彼の裏切りはあまりにも身勝手だった。かくなる上は、誰もが恐れ多いと敬う帝国の皇帝のもとへ嫁ぐまで。失意の底で誓った決意が、私の運命を大きく変えていく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ロザリーの新婚生活
緑谷めい
恋愛
主人公はアンペール伯爵家長女ロザリー。17歳。
アンペール伯爵家は領地で自然災害が続き、多額の復興費用を必要としていた。ロザリーはその費用を得る為、財力に富むベルクール伯爵家の跡取り息子セストと結婚する。
このお話は、そんな政略結婚をしたロザリーとセストの新婚生活の物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【コミカライズ決定】契約結婚初夜に「一度しか言わないからよく聞け」と言ってきた旦那様にその後溺愛されています
氷雨そら
恋愛
義母と義妹から虐げられていたアリアーナは、平民の資産家と結婚することになる。
それは、絵に描いたような契約結婚だった。
しかし、契約書に記された内容は……。
ヒロインが成り上がりヒーローに溺愛される、契約結婚から始まる物語。
小説家になろう日間総合表紙入りの短編からの長編化作品です。
短編読了済みの方もぜひお楽しみください!
もちろんハッピーエンドはお約束です♪
小説家になろうでも投稿中です。
完結しました!! 応援ありがとうございます✨️
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる