ある日突然、醜いと有名な次期公爵様と結婚させられることになりました

八代奏多

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10. 妄想

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「仕返しとかはしないんだな」

 カーテンの外に戻ると、話を聞いていたクラウス様にそんなことを言われて、私はすぐに反論した。

「しても意味がないので。それに……仕返しをして恨まれたくないんです」
「良かった。やっぱりアレシアはアレシアだね」
「なんですか、それ」

 どうやら試されていたらしく、クラウス様は満足そうに口にした。
 この時、お父様とすれ違ったのだけど、睨まれただけで何も言われなかった。

「そろそろ帰ろうと思うけど、いいかな?」
「ええ」

 今は男爵令嬢が暴れた理由は分からない。でも、取り調べが進めばすぐに明らかになる。
 だから、ここに留まる理由はなかった。

 私は返事をすると、差し出されたクラウス様の手をとって、並んで歩き出した。


   * * *


「アレシアと何を話した?」

 入れ違いで医務室に戻った伯爵はリリアにそう問いかけた。

「私の具合を気にかけてくれたお礼を言っただけですわ」
「そうか。アレシアはそれだけで帰ったのか。信じられないな」

 そう呟く伯爵は、誰がどう見てもアレシアのことを嫌っているようにしか見えない。

「お姉様はクラウス様への奉仕がありますもの。仕方ないですわ」
「リリアがそう言うなら、今回は許すことにしよう」

 それから、伯爵はリリアに構い続けた。
 愛する女性との間に授かった大切な娘を可愛がらないはずがないのだ。

 それが、嫌われる原因になりうることを知らないから。

(少しは一人になりたいのに……)

 自分勝手な伯爵がリリアの気持ちに気付くことはなく、夜遅くまで医務室に篭り続けた。



 同じ頃──

「なんでよ! 悪いのはあの女なのよ!」

 騒ぎを起こした男爵令嬢は地下牢でそんな声を上げていた。

「何がどうしたらリリア様が悪くなるのか、説明してもらいましょうか」
「あの女がクラウス様がイケメンに戻ったと言うから仮面をはずさせたのに、中身は醜いまま!
 嘘つき女には罰が必要なのよ」
「そうですか。だからリリア様を殺したと?」

 取調官がそう口にした瞬間、男爵令嬢は一気に顔を青ざめさせた。

「ち、違うの! 私はただ痛い思いをさせたかっただけなの!」

 まんまと罠にかかる男爵令嬢。

 取調官がしているのは、精神的負担を与えて取り調べをら行いやすくするための作戦だった。

「では、クラウス様の仮面をとった理由から教えてください」
「あの女がクラウスがイケメンに戻ったかもしれないと言っていたからよ」

 ちなみにこれは、伯爵令嬢達の噂話を盗み聞きしていただけである。
 この事実は翌日の調査で明らかになるのだが、取調官がいま知る由はなかった。

「それで勝手に仮面を叩き落としたと?」
「そうよ! 何か問題ある!?」

 取調官は頭をおさえたくなった。
 こんなに思考が読めない令嬢を相手にするのは初めてだったのもあり、恐怖すら感じている。

「問題しかありません」
「夢の中ではイケメンで、笑って許してくれたのよ!?」
「それは妄想というのです」
「私は予知夢が見れるのよ!」

 少し前に夢で起きたことが現実になり、彼女は予知夢が見れると勘違いしてしまった。
 そのせいで、妄想によって引き起こされた夢も予知夢だと思っていた。

 イケメンに好かれたい彼女はクラウスに気に入られたいと本気で思っていて、素顔を見られたクラウスに惚れられる夢の通り仮面を叩き落としたとのだった。
 しかし、惚れられたのはただの妄想で、実際は零度の視線を送られただけだった。

 それなのに……

「きっと、私のことが好きなクラウス様は許してくれますわ」

 ……妄想全開で頬を赤らめていた。

「先輩、僕には荷が重すぎます」

 経験の少ない若手取調官に、この取り調べは難しかったようだ。
 しかし、経験豊富な取調官も男爵令嬢の考えていることを理解することは出来ず、原因不明としつつも妄想による奇行だったと判断された。


   * * *


「「お帰りなさいませ!」」

 公爵邸の玄関に入ると使用人さん総出で出迎えられて、思わず後ずさった。

「アレシア?」
「少し驚いただけですわ」
「何に驚いたんだ?」

 使用人さんに驚いたと言うのは恥ずかしくて。

「秘密ですわ」

 私はそう言って誤魔化した。

 この出迎えに慣れるのは、まだ時間がかかりそうね……。
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