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8. 素顔
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一週間後。
「こんな感じでどうかな?」
「す、すごいですわ……」
噂通りの姿のクラウス様の姿が、そこにあった。
仮面を被り、さらには万が一剥がされた時のために火傷のメイクをしている。
こうすれば、私に嫉妬の目が向くことはない。そう考えたらしい。
「そろそろ行こう」
「ええ」
差し出されていた手を取る私。
仮面のせいで彼の表情はほとんど見えないけれど、横の隙間から見えた口元は優しい笑みを浮かべている時と同じだった。
手を繋いで馬車に向かい、私達は向かい合うように座った。
クラウス様のご両親は既に別の馬車で向かっていて、この馬車には私達と御者と侍女しか乗っていない。
そのお陰で、王宮に着くまでの間、余計に気を遣って疲れるということはなかった。
そして辿り着いたパーティー会場。
クラウス様と手を繋いで入口をくぐると、早速視線を感じた。
「あのお方が……」
「でも、隣にいる方は平然としていますわ……」
そんな会話が聞こえてきたけど、聞こえなかったフリをして主催者の国王陛下へと挨拶に向かった。
「本日はお招きいただきありがとうございます」
「こちらこそ、招待に応じてくれて感謝している」
こんな感じの簡単なやりとりをしら陛下への挨拶が終わると、他の参加者の方にも挨拶に向かった。
そして侯爵家以上の方々に挨拶を終えた時だった。
パンッ!
そんな音と共にクラウス様の仮面が叩き落とされた。
同時に、火傷メイクをしてある顔が露わになって……
「ひっ……」
……私は慌てて上着を彼の頭にかぶせた。
仮面を叩いた令嬢は変な声を漏らしていたけれど、それを気にせずに仮面を拾い上げて彼に手渡した。
「ありがとう」
そう言って仮面を付け直すクラウス様。
そして威圧のこもった声でこう続けた。
「ルールア男爵令嬢だな? この落とし前はどう付けるつもりだ?」
それが聞こえていないのか、仮面を叩き落とした令嬢は私の方を見たままこんなことを口にした。
「貴女、よくこんな化け物の隣にいられますわね!
こんな顔の人が好みなわけ!?」
「いえ、そういうわけではありませんわ」
「もうなんなのよ! 嫌なら嫌そうにしてなさいよ!」
別に彼のことは嫌いじゃないので。そもそも、この顔は偽りです。
そんなことは当然言えず、用意していた台詞を言おうとした。でも、言おうとした相手は逃げるように駆けていった。
そして、他の令嬢を突き飛ばした。
「クラウス様のお顔が治ったのは嘘でしたのね! 貴女が余計なことを言うから、私はこんな目に遭いましたのよ! どうしてくれるのよ!」
そう喚きながら突き飛ばした相手を踏みつける男爵令嬢。
その時、踏みつけられている令嬢がもがきながらこちらを向いて、彼女が私の義妹だと分かった。
「リリア……」
義妹には使用人のような扱いをされ、ストレスの捌け口にもされてきた。だから当然、恨みはある。
でも、ティーカップは避けれたし、彼女のパンチも大して痛くはなかった。
それだけのことしかされていないのに、ここで見殺しにするほど私は理性を捨てていない。
それに、誰もリリア──義妹を助けようとしていなかったから。
私は手に魔力を込めた。
「ゴボゴボ……」
そして、一瞬にして顔の周りを水に包まれた男爵令嬢が空気を求めてもがき始めた。
すぐに魔法は解除したけれど、しばらくは暴力を振るえそうになかった。
「大丈夫ですか!?」
ようやく状況を理解した周囲の方々がリリアに駆け寄り、また男爵令嬢は取り押さえられた。
その間に私はお医者様を医務室に呼びに行った。
そのお陰か、すぐにリリアは医務室に運ばれて、暴れた男爵令嬢はどこかに連れていかれた。
そして陛下の声によってパーティーは再開したのだけど、リリアの具合が気になって全く楽しめなかった。
「こんな感じでどうかな?」
「す、すごいですわ……」
噂通りの姿のクラウス様の姿が、そこにあった。
仮面を被り、さらには万が一剥がされた時のために火傷のメイクをしている。
こうすれば、私に嫉妬の目が向くことはない。そう考えたらしい。
「そろそろ行こう」
「ええ」
差し出されていた手を取る私。
仮面のせいで彼の表情はほとんど見えないけれど、横の隙間から見えた口元は優しい笑みを浮かべている時と同じだった。
手を繋いで馬車に向かい、私達は向かい合うように座った。
クラウス様のご両親は既に別の馬車で向かっていて、この馬車には私達と御者と侍女しか乗っていない。
そのお陰で、王宮に着くまでの間、余計に気を遣って疲れるということはなかった。
そして辿り着いたパーティー会場。
クラウス様と手を繋いで入口をくぐると、早速視線を感じた。
「あのお方が……」
「でも、隣にいる方は平然としていますわ……」
そんな会話が聞こえてきたけど、聞こえなかったフリをして主催者の国王陛下へと挨拶に向かった。
「本日はお招きいただきありがとうございます」
「こちらこそ、招待に応じてくれて感謝している」
こんな感じの簡単なやりとりをしら陛下への挨拶が終わると、他の参加者の方にも挨拶に向かった。
そして侯爵家以上の方々に挨拶を終えた時だった。
パンッ!
そんな音と共にクラウス様の仮面が叩き落とされた。
同時に、火傷メイクをしてある顔が露わになって……
「ひっ……」
……私は慌てて上着を彼の頭にかぶせた。
仮面を叩いた令嬢は変な声を漏らしていたけれど、それを気にせずに仮面を拾い上げて彼に手渡した。
「ありがとう」
そう言って仮面を付け直すクラウス様。
そして威圧のこもった声でこう続けた。
「ルールア男爵令嬢だな? この落とし前はどう付けるつもりだ?」
それが聞こえていないのか、仮面を叩き落とした令嬢は私の方を見たままこんなことを口にした。
「貴女、よくこんな化け物の隣にいられますわね!
こんな顔の人が好みなわけ!?」
「いえ、そういうわけではありませんわ」
「もうなんなのよ! 嫌なら嫌そうにしてなさいよ!」
別に彼のことは嫌いじゃないので。そもそも、この顔は偽りです。
そんなことは当然言えず、用意していた台詞を言おうとした。でも、言おうとした相手は逃げるように駆けていった。
そして、他の令嬢を突き飛ばした。
「クラウス様のお顔が治ったのは嘘でしたのね! 貴女が余計なことを言うから、私はこんな目に遭いましたのよ! どうしてくれるのよ!」
そう喚きながら突き飛ばした相手を踏みつける男爵令嬢。
その時、踏みつけられている令嬢がもがきながらこちらを向いて、彼女が私の義妹だと分かった。
「リリア……」
義妹には使用人のような扱いをされ、ストレスの捌け口にもされてきた。だから当然、恨みはある。
でも、ティーカップは避けれたし、彼女のパンチも大して痛くはなかった。
それだけのことしかされていないのに、ここで見殺しにするほど私は理性を捨てていない。
それに、誰もリリア──義妹を助けようとしていなかったから。
私は手に魔力を込めた。
「ゴボゴボ……」
そして、一瞬にして顔の周りを水に包まれた男爵令嬢が空気を求めてもがき始めた。
すぐに魔法は解除したけれど、しばらくは暴力を振るえそうになかった。
「大丈夫ですか!?」
ようやく状況を理解した周囲の方々がリリアに駆け寄り、また男爵令嬢は取り押さえられた。
その間に私はお医者様を医務室に呼びに行った。
そのお陰か、すぐにリリアは医務室に運ばれて、暴れた男爵令嬢はどこかに連れていかれた。
そして陛下の声によってパーティーは再開したのだけど、リリアの具合が気になって全く楽しめなかった。
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