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4. 虚無感
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翌朝、クライシス伯爵夫人は苛立っていた。
「朝からお茶をかけられるとは思いませんでしたわ……」
表情には出ていないものの、その声には苛立ちが篭っていて、侍女達は皆怯えから距離を置いている。
普段、彼女達が叱責されることは無かった。
それは怒りがアレシアに向いていたからで、アレシアがいなくなった今ではその怒りがどこへ向かうのか分からない。
侍女達はそれをよく分かっていた。
女主人の目に付きたくないがために、一緒になってアレシアを虐めていた。しかし、お茶の淹れ方や料理などを教えたのは侍女達だった。
「奥様、朝食の用意が出来ました」
「分かったわ」
その声は普段よりも少しばかり大きく、侍女達は揃って驚き、怯えた。
「あなた達、何に怯えていますの?」
「い、いえ! 怯えてなんていません!」
「そう」
侍女の声は震えているが、伯爵夫人は特に気に留めなかった。
そしてその日の昼下がり、異変が起こった。
「やっぱり不味いですわ……」
淹れている人物も手順も器具も、全て普段と同じなのに。茶葉も同じなのに。
何度やり直しても、昨日までのようにとても美味しいお茶は出来上がらない。
「何か材料は変えましたの?」
「水をアレシア様の魔法から井戸水に変えたくらいです」
「ただの水なのに、ここまで味が変わるなんてあり得ませんわ……」
あり得ないといった様子で口にする彼女の様子に、どうして良いのか戸惑う侍女達。
水なんかに味など存在しない。
伯爵夫人も使用人達もそう信じていた。
そのせいで原因は分からず、彼女は美味しくないお茶で我慢する羽目になった。
そして、彼女の苛立ちは余計に募っていった。
一方……
「なんで私の引き立て役がいないのよ! 今日はマークス様とお茶会の約束をしているのに!」
……夫人の娘もまた苛立っていて、屋敷の空気は昨日よりも悪くなっていた。
そんな状況だというのに、この屋敷の主人であるクライシス伯爵は無関心。
そんな状況だからか、辞表を提出する侍女も現れていた。
* * *
「アレシア、何してるんだ?」
テラスでお茶の準備をしていたら、後ろからそんな声をかけられた。
「お茶を淹れていますの。ダメでしたか?」
「いや、駄目ではない。少し驚いただけだ。
一体どこで技術を身につけたんだ?」
不思議そうに呟くクラウス様。
私が無詠唱の魔法で水を加えると、彼は目を見開いていたけれど、それを無視してこう口にした。
「侍女の代わりにやらされていたから、勝手に出来るようになりましたの」
「もしかして、虐められていたのか……?」
事情を話すと心配そうな口調で問いかけられて、答えに困った。
正直に答えれば余計な心配をさせてしまうし、答えなくても心配させてしまうから。
「そんな感じですわ」
仕方なく、それだけ答えた。
「ここにはそんな扱いをする人はいないから、安心してほしい。危ない事以外なら自由にやってもらって構わない」
「ありがとうございます」
そう答えながら、ここに来てからの生活を思い出す。
温かいご飯に温かいお茶。そして細かい配慮をしてくれる侍女達。
私は自由にしていいと言われ、書庫で本を読み漁ったりしているだけ。
それだけでも満足なのに、クラウス様も出来る限り私を気遣ってくれていて。
このままでは私はダメ人間になってしまう。そんな気がした。
「朝からお茶をかけられるとは思いませんでしたわ……」
表情には出ていないものの、その声には苛立ちが篭っていて、侍女達は皆怯えから距離を置いている。
普段、彼女達が叱責されることは無かった。
それは怒りがアレシアに向いていたからで、アレシアがいなくなった今ではその怒りがどこへ向かうのか分からない。
侍女達はそれをよく分かっていた。
女主人の目に付きたくないがために、一緒になってアレシアを虐めていた。しかし、お茶の淹れ方や料理などを教えたのは侍女達だった。
「奥様、朝食の用意が出来ました」
「分かったわ」
その声は普段よりも少しばかり大きく、侍女達は揃って驚き、怯えた。
「あなた達、何に怯えていますの?」
「い、いえ! 怯えてなんていません!」
「そう」
侍女の声は震えているが、伯爵夫人は特に気に留めなかった。
そしてその日の昼下がり、異変が起こった。
「やっぱり不味いですわ……」
淹れている人物も手順も器具も、全て普段と同じなのに。茶葉も同じなのに。
何度やり直しても、昨日までのようにとても美味しいお茶は出来上がらない。
「何か材料は変えましたの?」
「水をアレシア様の魔法から井戸水に変えたくらいです」
「ただの水なのに、ここまで味が変わるなんてあり得ませんわ……」
あり得ないといった様子で口にする彼女の様子に、どうして良いのか戸惑う侍女達。
水なんかに味など存在しない。
伯爵夫人も使用人達もそう信じていた。
そのせいで原因は分からず、彼女は美味しくないお茶で我慢する羽目になった。
そして、彼女の苛立ちは余計に募っていった。
一方……
「なんで私の引き立て役がいないのよ! 今日はマークス様とお茶会の約束をしているのに!」
……夫人の娘もまた苛立っていて、屋敷の空気は昨日よりも悪くなっていた。
そんな状況だというのに、この屋敷の主人であるクライシス伯爵は無関心。
そんな状況だからか、辞表を提出する侍女も現れていた。
* * *
「アレシア、何してるんだ?」
テラスでお茶の準備をしていたら、後ろからそんな声をかけられた。
「お茶を淹れていますの。ダメでしたか?」
「いや、駄目ではない。少し驚いただけだ。
一体どこで技術を身につけたんだ?」
不思議そうに呟くクラウス様。
私が無詠唱の魔法で水を加えると、彼は目を見開いていたけれど、それを無視してこう口にした。
「侍女の代わりにやらされていたから、勝手に出来るようになりましたの」
「もしかして、虐められていたのか……?」
事情を話すと心配そうな口調で問いかけられて、答えに困った。
正直に答えれば余計な心配をさせてしまうし、答えなくても心配させてしまうから。
「そんな感じですわ」
仕方なく、それだけ答えた。
「ここにはそんな扱いをする人はいないから、安心してほしい。危ない事以外なら自由にやってもらって構わない」
「ありがとうございます」
そう答えながら、ここに来てからの生活を思い出す。
温かいご飯に温かいお茶。そして細かい配慮をしてくれる侍女達。
私は自由にしていいと言われ、書庫で本を読み漁ったりしているだけ。
それだけでも満足なのに、クラウス様も出来る限り私を気遣ってくれていて。
このままでは私はダメ人間になってしまう。そんな気がした。
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