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11. 幸せになる者と破滅する者

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 断罪があった日から1年程が過ぎた穏やかな晴れの日、教会に鐘の音が鳴り響いた。
 そしてその教会に、純白のドレスに身を包んだクラウディアの姿があった。

 ヴァージンロードを慎重に進む彼女の視線の先には、微笑みを浮かべたユリウスが待っている。

 そして、ユリウスの目の前に辿り着いたクラウディアのエスコート役が離れ、ユリウスはクラウディアの手をとった。

 そして、2人揃って神へと愛の宣誓をし、誓いの口付けを交わした。
 クラウディアもユリウスも、穏やかな笑みを浮かべていた。

 そうして結婚式は無事に終わり、2人は夫婦となった。
 その後の披露宴では、新婚夫婦の美しさに目を奪われた者も少なくなかった。

 今回の披露宴には貴族以外の者も多く参列していたが、それに文句を言う者はいなかった。
 民を見下す愚か者はそもそも招待されていなかった。

 お陰でクラウディアの結婚を祝う者も参加することが出来ていて、幸せそうな表情をするクラウディア。
 そんな彼女に寄り添うユリウスも幸せに頬を緩ませていた。

 しかしそんな時間もあっという間に過ぎていった。

 その夜、クラウディアとユリウスは初夜を迎え、その1月後には懐妊が判明。
 それから9ヶ月後にクラウディアは無事に長女を出産した。
 その翌年には長男と次女の双子を出産することになる。

 断罪の日から10年、今ではアルゲンテ公爵家邸では毎日のようにクラウディアとユリウス、そして3人の子供達の幸せそうな声が響いている。



 一方……

 サウザンテ公爵家は不幸な道を辿っていた。
 夫人の浪費が止まらず財政は悪化し、多額の借金を抱えることになった。

 クラウディアが大金を持っていると知り、戻ってきてほしいと懇願するも、断られてしまいどうにも出来なくなった。
 そもそも、彼女は追放されているので王国に立ち入れないのだが。

 そして断罪の日から1年、公爵夫人は離縁を言い渡され追い出されることになる。
 クラリスの親権は公爵が持つことになり、婚約の話は続いていた。

 そんな時、違法な商売をしている商人と取引をしていることが判明し、犯罪を手助けした罪で公爵は爵位を失ってしまう。
 そして当然のようにクラリスの婚約は無かったことにされた。

 しかし莫大な借金は残っており、元公爵はクラリスを娼館に売ることを決意する。
 そして、公爵令嬢だったクラリスのはじめてはかなりの高値で買われた。

 それでも返しきれない額なので、元公爵自らも働くが、借金取りはいつまでも待ってはくれない。

 ある日突然、サザン商会に借金取りが訪れ、クラリスが娼館に売られたことも含めて全てを話し、両親の尻拭いはしたくないクラウディアが嫌々ながらも借金を返済するのだ。

 ちなみに、サウザンテ公爵家は途絶えていない。
 クラウディアと同じくまともで、政務のために閉じ込められていた長男が公爵位を授かり、邪魔な元公爵とクラリスを借金と共に追い出したお陰で、取り潰しにならずに済んだのだ。

 もちろん、そのことはクラウディアの耳にも入り、彼女は唯一の味方だった兄に助け船を出す。
 そしてなんとか立て直しに成功した。

 ちなみにクラウディアの結婚式でのエスコート役は、この兄が引き受けていた。
 ついでに、結婚直前にはクラウディアの罪が後述の理由で晴れていたため、籍も本人同意の元で公爵家に戻されていたのだが……これはあまり重要な話ではないだろう。



 不幸な道を辿った者はまだいる。
 ラインハルト王太子とその両親だ。

 ラインハルト王太子は2回も婚約破棄したことで、結婚相手がいなくなってしまうのだ。慌ててクラウディアの罪を無かったことにし、戻ってきて欲しいと懇願するも、当然のように断られてしまう。
 そして、王家の権威を失墜させたとして廃嫡されてしまうのだ。

 国王も印象が悪くなってしまい、次男に王位を譲らざるを得なくなる。
 王位を譲られたその王子は互いに慕いあっていた伯爵令嬢と婚姻を結び、権威回復に全力を注いだ。

 一方の国王夫妻は自らの反省の意思で慎ましやかな生活を送っていた。
 警備の問題で立派な建物ーー後宮で暮らしてはいたものの、食事などは以前には及ばないものだった。

 元国王夫妻が不幸な道を辿った者の中では一番まともな生活を送っている。
 それもそのはず、彼らは無視できない力を持ってしまった公爵家の脅しに嫌々応じていただけなのにも関わらず、しっかりと反省しているのだから。

 しかし、贅沢に慣れていたせいで今の生活でも辛いものになっているだろう。

 不幸を辿った残りの者達は、平民となり地獄のような日々を送っている。
 彼らが反省する時が来るのか、それは誰にも分からない。


***********


今回で完結となります。本作をお読み下さり、ありがとうございました。
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みんなの感想(23件)

たまに発狂したくなるよね

短めでさくっと読むことができました。
主人公ちゃんがハッピーになることはとても良い(?)でしたが、結局主人公ちゃんのような苦労人(主人公ちゃんの兄や弟王子夫婦)たちが公爵家や国の立て直し(尻拭い)をするという点はもやもやが残る、という感じでした。
まあ、本人たちが納得しているからと言ってしまえばそれで終わりですけどね〜
とても面白かったです。

解除
素麺
2022.06.30 素麺
ネタバレ含む
解除
2021.10.08 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

八代奏多
2021.10.08 八代奏多

感想ありがとうございます。
魔法で発覚しています。

解除

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