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9. 若公爵は手に入れたい
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「やってしまった……」
仮面の男、ユリウスは頭を抱えていた。
技術や流通面での協力の約束を取り付ける目的は達することが出来たが、先の商談で大きな失敗をしてしまったのだ。
気になる女性の前でうっかり心の声を口に出してしまうと言う、自分でも信じられない失敗。
これによって、18歳の成人と同時に家督を譲られた実力を持っ彼のプライドは一気に崩れてしまっている。
(もう二度とあのような失敗はしない……)
心の中でそう誓う彼は、商談のことを思い出していた。
「本当にこのような条件で良いのですか?」
「はい。私達の目的は、あくまでもゲーテ商会様と協力体制を築くことです。そこに利益は求めていません」
そう言われては、プライドが許さない。
何かに突き動かされるように、ユリウスは手元の紙の中身を書き換えていた。
「そうですか。では、こちらの条件も変えましょう」
そう言いながら変えた条件では、サザン商会との取引ではゲーテ商会の利益もほとんど出ないようなものだった。
そして同時に感心し、クラウディアに興味を持つのだ。
利益にがめつい筈の貴族でありながら、彼女は利益を求めていなかったから。
この協力によって利益が生み出されるのは分かっていたが、普通の商人なら多少は利益が出るように自身が有利な条件を最初に提示してくるものだ。
力が同じくらいの商会の交渉では、それが常識である。
だから、ユリウスはサザン商会の方がやや上だと思っていただけに、衝撃を受けたのだ。
サザン商会は独自の人気商品を持ちながら、高値で販売することはしていない。
その理由を尋ねたところ……
「私は全ての人の役に立ちたいのです。そのために従業員を雇い続けられるだけの利益が有れば十分なのです」
…….当然のようにそう言われるのだ。
何故こんなことを思えるのか、ユリウスはクラウディアのことが気になった。
そしてこんなことを思ったのだ。
欲望に塗れていない彼女がもしも自分の妻になれば、幸せな日々を送れるだろうと。
そして失言してしまったのだが、定期的に会うと約束した以上会わないことは出来ない。
この日から1週間後、彼は再びクラウディアと面会することになる。
そして、新商品について聞かされた。
「衝撃を和らげる馬車ですか……興味深い」
「試作品はなんとか完成したのですが、商品にするためにはゲーテ商会の力が必要ですの」
そんなやり取りから始まった面会は予定の時間を大幅に超えるまで続いた。
それからも定期的な面会は続き、協力体制の元では初めてとなる新商品が開発された。
空気をバネの代わりに利用し、魔導具を用いて圧力を調整する機構を組み込んだその馬車は、積荷の重さに関わらず車体に伝わる振動を和らげることが出来る画期的なものだった。
そしてこれは、魔導具を得意とするサザン商会と馬車なども手掛けるゲーテ商会が協力してこそのものだった。
発売前にそれぞれの商会に導入されたその馬車は、梱包しても壊れる事があった商品を軽い梱包でも無傷で運べた。
輸送担当者は怒られずに済むと大満足である。
そして帝国内で売りに出されると、生産が追い付かない勢いで売れるようになった。
仕方なく値上げをしても勢いはとどまることを知らず、クラウディア達もユリウス達も大喜びであった。
どんな人でも儲かれば嬉しいのだ。
これまでの間に、クラウディアとユリウスの関係にも変化があった。
定期的に会う中で互いに興味を持ち、ある時ユリウスが交際の提案をしたのだ。
クラウディアはそれを受け入れ、今では頻繁に個人的に会うようになっている。
二人が結ばれる日はそう遠くない内に訪れそうだった。
仮面の男、ユリウスは頭を抱えていた。
技術や流通面での協力の約束を取り付ける目的は達することが出来たが、先の商談で大きな失敗をしてしまったのだ。
気になる女性の前でうっかり心の声を口に出してしまうと言う、自分でも信じられない失敗。
これによって、18歳の成人と同時に家督を譲られた実力を持っ彼のプライドは一気に崩れてしまっている。
(もう二度とあのような失敗はしない……)
心の中でそう誓う彼は、商談のことを思い出していた。
「本当にこのような条件で良いのですか?」
「はい。私達の目的は、あくまでもゲーテ商会様と協力体制を築くことです。そこに利益は求めていません」
そう言われては、プライドが許さない。
何かに突き動かされるように、ユリウスは手元の紙の中身を書き換えていた。
「そうですか。では、こちらの条件も変えましょう」
そう言いながら変えた条件では、サザン商会との取引ではゲーテ商会の利益もほとんど出ないようなものだった。
そして同時に感心し、クラウディアに興味を持つのだ。
利益にがめつい筈の貴族でありながら、彼女は利益を求めていなかったから。
この協力によって利益が生み出されるのは分かっていたが、普通の商人なら多少は利益が出るように自身が有利な条件を最初に提示してくるものだ。
力が同じくらいの商会の交渉では、それが常識である。
だから、ユリウスはサザン商会の方がやや上だと思っていただけに、衝撃を受けたのだ。
サザン商会は独自の人気商品を持ちながら、高値で販売することはしていない。
その理由を尋ねたところ……
「私は全ての人の役に立ちたいのです。そのために従業員を雇い続けられるだけの利益が有れば十分なのです」
…….当然のようにそう言われるのだ。
何故こんなことを思えるのか、ユリウスはクラウディアのことが気になった。
そしてこんなことを思ったのだ。
欲望に塗れていない彼女がもしも自分の妻になれば、幸せな日々を送れるだろうと。
そして失言してしまったのだが、定期的に会うと約束した以上会わないことは出来ない。
この日から1週間後、彼は再びクラウディアと面会することになる。
そして、新商品について聞かされた。
「衝撃を和らげる馬車ですか……興味深い」
「試作品はなんとか完成したのですが、商品にするためにはゲーテ商会の力が必要ですの」
そんなやり取りから始まった面会は予定の時間を大幅に超えるまで続いた。
それからも定期的な面会は続き、協力体制の元では初めてとなる新商品が開発された。
空気をバネの代わりに利用し、魔導具を用いて圧力を調整する機構を組み込んだその馬車は、積荷の重さに関わらず車体に伝わる振動を和らげることが出来る画期的なものだった。
そしてこれは、魔導具を得意とするサザン商会と馬車なども手掛けるゲーテ商会が協力してこそのものだった。
発売前にそれぞれの商会に導入されたその馬車は、梱包しても壊れる事があった商品を軽い梱包でも無傷で運べた。
輸送担当者は怒られずに済むと大満足である。
そして帝国内で売りに出されると、生産が追い付かない勢いで売れるようになった。
仕方なく値上げをしても勢いはとどまることを知らず、クラウディア達もユリウス達も大喜びであった。
どんな人でも儲かれば嬉しいのだ。
これまでの間に、クラウディアとユリウスの関係にも変化があった。
定期的に会う中で互いに興味を持ち、ある時ユリウスが交際の提案をしたのだ。
クラウディアはそれを受け入れ、今では頻繁に個人的に会うようになっている。
二人が結ばれる日はそう遠くない内に訪れそうだった。
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