悪役令嬢が残した破滅の種

八代奏多

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6. 悪役令嬢は視察する

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それからは毎日のようにセックスした・・・かと言えば、必ずしもそうではなかった。
4日目くらいに七海は、3日間セックスは控えようと優太に言った。

「ええ~? なんで? しかも3日間って・・・」

残念がる彼に七海は少し言いにくそうに、「順調ならその辺りが排卵日ですから・・・」と告げた。
祖父の関係者の男性から言われた、『自分を大切にしなさい』ということを守りたい、とも。

「コンドームって、必ずしも100%安全でないと最近知りました。今まではそんなことも意識せずに、セックスしてきましたが・・・」
「・・・」
「今まで相手の方にはコンドームしてもらってきたとは言え、あれほど遊んで妊娠することも病気に罹ることもなかったのは、本当に運が良かったと思います・・・。だから、いまこうして優太さんと一緒にいられるんだと、神様に感謝してます」

優太は、七海の最後の言葉がグッと胸に響いて、思わず彼女に抱きつく。
七海も彼を抱き返し、唇を重ねてくる。

熱いキスを交わし、お互いの体を弄りながら、お風呂に入ろうということになった。
洗面脱衣所で脱がせ合い、裸になって浴室へ。

いつものように、まずは七海が優太の体を洗う。
彼女は胸を彼の背中に密着させて、ビンビンに勃ったモノを後ろから回した手で優しく洗う。

「もうイキそうだ!」

彼の言葉が合図となり、七海はその寸前で止めて体を流す。
普段より冷たく感じる、ぬるい湯。

「お湯の温度を下げて32℃くらいにしました」

道理で浴室の中も少しひんやりと感じられたわけだ。
そして風呂椅子を交代して優太が七海の体を、心を込めて丁寧に洗う・・・イコうとするところを止められて高ぶった心を抑えながら。

乳房はもみ洗い、乳首はつまみ洗い、アソコはこすり洗い、いずれも大切なものを洗うようにソフトに。
七海の息が荒くなり、白い肌が赤みを帯びてきて、からだ全体で感じてくるようになると、優太も愛撫を止めて彼女に湯を掛けて洗い流す。

けれどもそれはむしろ、始まりの合図。
七海の前に回った優太は身を屈めて、彼女のアソコに吸い付くように顔を寄せる。

充血して柔らかく弾力のあるヒダを舌先でなぞり、あるいは吸い込むように口に含んで舐める。
彼女の敏感な突起も唇に挟んで、舌先で突つく。

七海は上体を反らせながら感じて優太の髪を掴むが、彼はもう遠慮もなく指を彼女の中に潜り込ませてさらに刺激する。

「優太さん・・・とてもいいです・・・気持ちいいです・・・もう私、イッてしまいそうです・・・あっ・・・ああっ!」

ついに七海は全身をガクガクと震わせ、掴んだ優太の髪を思い切り引っ張りながらイッた。
全身を赤く染めて激しく息を吐く彼女は、上体を半分屈めながら赤い顔を上げた。

「優太さん、湯船にゆっくり浸かって落ち着きませんか?」

優太も頷きながら、彼女の手を取ってぬるい湯に導く。

湯船の中ではふたり、縁を背に肩を寄せ合う。
ふたり密着しながら七海は優太に掴まるように手を添えて、彼は彼女のうなじや首筋、さらには湯の中の乳房に軽く触れる。

目も表情もうっとりとした七海。

「私、男の人と一緒にいて、ここまで心地よくて幸せな気分になったのは初めてです」

その言葉に嬉しくなって、彼女の肩に手を回して引き寄せる優太。
彼女も優太の肩に頭を乗せるようにしてくる。

このようなゆったりした時なら、逆に訊いてもいいのではないかと思い、優太はそれとなしに訊いてみる。

「七海さんに、もっと自分を大切にするようにって言ってくれた人、どんな人? 普段から交流のあるような?」

本当は、七海とその男性との間に男女の関係があったのではないかと、優太は心の奥底で疑いを消せずにいた。
ひょっとすると金銭のやり取りもあったのではないかとの疑いも。

いずれにしても聞くだけ無意味のような気がしており、しかも聞くことで彼女を傷つけてしまうのではないかという不安はあった。
だから漠然とした質問になってしまったが。

しかし七海は静かに答えた・・・遠い昔の思い出話のように。

「お祖父さんの関係者、とは言ったかもしれませんが、その方のお父さんにあたる方が、私のお祖父さんの援助者というかパトロンだったんです」
「・・・ええと、ということはその人も結構な年齢?」
「はい。そのようないきさつもあって、私は小さい時から本当の孫のように可愛がっていただいていました」
「だから親身になって心配もしてくれたんだ・・・」
「はい・・・本当に心配をかけてしまったと心が痛みます」

そこで七海は優太の正面に回り、ふたり向かい合うかたちになった。
悲しそうな、やるせなさそうな彼女の表情、そして瞳。

直視できずに優太は思わず視線を下ろすと、そこには揺れる水面越しに彼女のむき出しの乳房と、さらに下には恥毛。
慌てて優太は視線を上に向け直す。

そんな彼に軽くキスをしてから、話を続ける七海。

「実を言うと、その方から諭された当初はまだそれを守れなかったんです。お付き合いしていた4人の方との関係を断ち切れなくて・・・」
「別れるまで、時間がかかった・・・?」
「と言うより、決心がつくまでが長かったのです。私を決心させた一つが、その方が先日、急に亡くなったこと・・・そしてもうひとつが、優太さんと出会ったことです」

七海がそこまで真剣に優太を想ってくれていたことに、改めて胸がいっぱいになり裸どうしのまま湯の中で彼女を抱きしめた。
それまでにないくらいの激しいキスを交わしながら優太が感じるのは、彼の胸に密着する彼女の乳房の質感と、彼女の下腹を圧す彼のモノの存在。

七海は絡み合ったふたりの体を解いて彼の体を持ち上げるようにし、湯船の縁に腰掛けさせた。
湯に浸かったままの彼女のちょうど目の前に屹立する、彼のモノ。

「口では物足りないかもしれませんが、我慢してくださいね」

上目遣いでそう言って、モノを咥える七海。

(ガマンだなんて、とんでもない・・・)

そう彼女に告げようとしたが、いつになく濃密でいて細やかな七海の舌づかいに「うっ!」と呻くことしかできない優太。
彼女の口の中で射精するまでただ彼女の髪を撫で、後頭部のお団子を弄い続けた・・・。

・・・バスタオルを巻いた姿のままリビングのソファで海外ドラマを観ながらクーリングダウンし、それが一段落した頃に七海は見せたいものがあると言った。
彼女が部屋の隅の本棚から持ってきたのは、分厚い画集。

「初夏に出版されたばかりの、いちばん新しい画集です」

海外での販売も見越しているのだろうか、キャプションは英語が併記されている。
それをテーブルの上に広げゆっくりと開き、優太に「ご覧になってください」と呼びかけた。

白いブラウスにえんじ色のスカート、色白な美しい少女が椅子に腰掛け、手もとの本のページをめくりながら微笑む油絵・・・モデルは七海だと分かったが、幼さが残る。

「中学生になる前の春休みに、初めてここに長く滞在した時にモデルをした絵です」

それから彼女はページをめくり、次々に彼女がモデルとなった絵を見せた。
スクール水着で浜辺で横座りする姿、浴衣で涼む姿、正月だろうか・・・晴れ着姿、そして春の陽光の中で桜の花を愛でる姿・・・。

「はぁ~、きれいだ・・・」

優太は思わず声に出してしまったが、七海の可憐さが強調されて描かれた絵ばかりだった。
その中のひとつのページ・・・とりわけ彼女が美しく描かれた絵があった。

麦わら帽子にジーンズ姿の彼女が、子犬を抱きかかえながら空の一点を見つめるような絵。
『明日/Tomorrow』というタイトルが付けられていたが、彼女はそれとは別の一点を指で指し示した。

『個人蔵(下原孝俊 所蔵)』とあった。
何ごとかと訝りながら、七海の方を見る優太。

「私に生まれ変わる決心をさせてくれた方です・・・優太さんは知らないと思いますが、この方はここ地元では悪い評判ばかりなのです・・・なのになぜか少なくとも私には優しく、気にかけてくださったのです・・・」

そこで優太ははっとした。
彼の祖父を散々苦しめたという人・・・その人の死を知った祖母をして『お仏壇に報告して、お赤飯炊きたいくらい』とまで言わしめた、極悪人。

けれどもそれは七海に言わないでおこうと思った。
・・・いや、言う必要もないだろう・・・そう自分に言い聞かせ、一生有効の封印をした。

それからいくつか、七海をモデルにした絵が続いた。
おそらくは、ゴールデンウィークやシルバーウィークにも画家のもとに滞在していたのだろう。

真斗の『あの画家の孫・・・あんまり男遊びが激しくて、休みのたんびにこっちに隔離されてんだ』という言葉がいきなり頭の中に再生され、心が波立つ。
それをぐっと抑え、心を落ち着かせようとする彼に七海は言った。

「本当に見せたいものは、別にあります」

バスタオル姿のまま案内されたのは、画家のアトリエ。
画架イーゼルに一枚のカンバスが架かり、その脇に立つ七海。

優太はその直前までの心のモヤモヤを吹き飛ばされ、心がその絵に釘付けとなった。
明るい光の中、虚空を見つめながら両手を拡げて光を受け止めるように立って微笑む裸の少女。

「これが、お祖父さんの最新作・・・『再生』ってタイトルらしいです・・・。優太さんに、私がモデルになった絵の最初の鑑賞者になってほしくて・・・。お祖父さんにはナイショですが」
「はぁ~・・・この絵、素直に欲しい」
「ありがとうございます。そう言っていただけて、嬉しいです・・・。でも、実物はもう優太さんのすぐとなりにいますよ」

七海はバスタオルをはらりと脱ぎ捨て、優太に抱きついてきた。
優太も七海を強く抱きしめ返した。

抱きしめながら、彼女に対する最後の疑問を問うた。

「でも、どうして七海さんみたいな人が、僕みたいな人間と・・・?」

彼女は彼から離れた。
じっと彼の目を見据え、はっきりとした口調で答えた。

「人が人を好きになるということに、言葉で説明できるような理由が必要でしょうか?」

そしてより一層強く抱きついてきた。
優太は胸に熱いものがこみ上げるのを感じながら、彼女の髪をひたすら撫でた・・・。

・・・約束の3日間が過ぎると、再びふたりはセックスに明け暮れた。
もうお互いに学校の宿題も終わらせてしまっていたし、コンドームも七海が『サセ子』だった頃のグロス入りの箱に残っていたから、何の心配も心置きもなく。

その合間に、裸のままで映画やドラマなどを観たり、珍しいお菓子や果物でおやつを取ったり。
しかしふたりが夢のような日々を過ごす間にも、秋の気配はだんだんとイナカの集落の風景の中に浸透するように忍び寄ってきた。

いや、カレンダーも冷酷に一日一日を刻んでいき、七海より一足先に優太が集落を離れる日がやってきた。
祖母が空港まで送ろうかと言ってくれたが、優太はそれを遠慮した。

七海が一緒にバスに乗って、X市のバスターミナルまで見送りに行ってくれることになっていたのだ。
昼食後に優太は祖母に1か月あまりの滞在の礼を言って、待ち合わせ場所のバス停・・・ふたりが初めて出会った場所に向かった。

国道に通じる一本道は相変わらずの照り返しだったが、見上げる空はますます高くなって見えた。
ここに来たときには真っ黒と言っていいくらい黒々と見えた山の緑も、すっかり色あせて普通の濃緑。

シルバーウィークは無理にしても、両親に頼み込んで、年末年始にはまたここに戻ってこようと優太は決めていた。
その時には、どんな空の色、山の色、海の色が見られるのだろう・・・しかし優太にとっては、七海もまた画家のもとに滞在していることが大事だった。

緩い上り坂のうえに石ころだらけの道を突っかかりながら、重い荷物を詰めたキャリーバッグを引っ張っていく。
そして国道まで出ると、バス停には白いワンピースの七海が白い日傘を差しながら優太を待っていた。

七海は優太に気がつくと、にこやかに手を振ってみせた。

(完)
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