146 / 155
146. イストリア軍side 想定外
しおりを挟む
皇帝の命令で出陣した我々第一国軍は過去に例を見ないほどの好戦果を収めていた。
数年に一度、行なっているアストリア侵略は全戦全敗だったために士気は最低だった。
だが、今回の出陣は全戦全勝。そして損害は無し。
不戦勝だったとはいえ、好戦果に俺の率いる第二十三小隊の士気は見たこともない位に高まっている。
最初は何かの罠かと思い慎重に行動していたが、王城を包囲する今となっては警戒する必要もないだろう。
時折飛んでくる敵の攻撃は装甲車で容易に防げる。
あとは降伏を待つだけだろう。だが、油断は禁物だ。
足元を掬われたら元も子もない。
「これは勝ったも同然ですね、隊長!」
「ああ。だが、相手は魔法大国だ。最後まで油断はするな。
おい、酒は飲むな!」
油断している部下を叱責しつつ、装甲車の小窓から城の様子を見てみれば、砲撃によって外壁が崩れ始めていた。
「偵察部より入電! グレイヴのものと思われる竜が接近中! 各員、対空戦闘準備にかかれ!」
「グレイヴの竜だと⁉︎ 勝てるわけがない! 撤退だ! 離脱せよ!」
通信係の読み上げに慌てて撤退命令を出す。
近くに森は無いから今は少しでも遠くに逃げる必要がある。
グレイヴの竜の攻撃にこの装甲車は耐えられないからだ。
命令違反をすれば罰せられるが、死ぬよりはマシだ。
俺には愛する家族がいるからな。
「隊長、それでは命令違反に」
「気にするな! 全ての責任は俺が取る! 今は生きることだけを考えろ!」
それから数分、俺達は無人の店に突っ込んで布で馬車風にしてから撤退を再開。
途中、森との境にある高台から様子を見れば、仲間の装甲車は跡形もなく破壊され、火を噴き上げていた。
そして、四方八方に逃げる装甲車にも攻撃魔法が降り注ぎ、次々と破壊されていた。
「相手は本気のようだ。今は見つからないように隠れる。夜になったら撤退再開だ。
今のうちに休むように」
「はっ」
そうして俺達は手頃な大きさの洞窟に装甲車を隠し、夜が来るのを待った。
幸いにもこの装甲車には暗視装置が付いているから、闇の中での行動に問題はない。
これなら敵に見つかることなく行動出来る。
そう思っていたのだが……
「両手を上げなさい。動いたら命はないわよ」
……どうやら敵も馬鹿ではないようだ。
「分かった。分かったから命だけはお助けを……!」
立て続けに、俺達のものではない声が聞こえた。
どうやら俺達はまだ見つかっていないようだった。
見つかりそうな恐怖が俺を、俺達を襲う。
そして、人の気配が消えてからも俺達は慎重に行動する羽目になった。
なんとか一週間かけてイストリアに入っても、今度はローザニアに攻め込まれ、帝国が講和を申し出るまで恐怖の日々は続いた。
数年に一度、行なっているアストリア侵略は全戦全敗だったために士気は最低だった。
だが、今回の出陣は全戦全勝。そして損害は無し。
不戦勝だったとはいえ、好戦果に俺の率いる第二十三小隊の士気は見たこともない位に高まっている。
最初は何かの罠かと思い慎重に行動していたが、王城を包囲する今となっては警戒する必要もないだろう。
時折飛んでくる敵の攻撃は装甲車で容易に防げる。
あとは降伏を待つだけだろう。だが、油断は禁物だ。
足元を掬われたら元も子もない。
「これは勝ったも同然ですね、隊長!」
「ああ。だが、相手は魔法大国だ。最後まで油断はするな。
おい、酒は飲むな!」
油断している部下を叱責しつつ、装甲車の小窓から城の様子を見てみれば、砲撃によって外壁が崩れ始めていた。
「偵察部より入電! グレイヴのものと思われる竜が接近中! 各員、対空戦闘準備にかかれ!」
「グレイヴの竜だと⁉︎ 勝てるわけがない! 撤退だ! 離脱せよ!」
通信係の読み上げに慌てて撤退命令を出す。
近くに森は無いから今は少しでも遠くに逃げる必要がある。
グレイヴの竜の攻撃にこの装甲車は耐えられないからだ。
命令違反をすれば罰せられるが、死ぬよりはマシだ。
俺には愛する家族がいるからな。
「隊長、それでは命令違反に」
「気にするな! 全ての責任は俺が取る! 今は生きることだけを考えろ!」
それから数分、俺達は無人の店に突っ込んで布で馬車風にしてから撤退を再開。
途中、森との境にある高台から様子を見れば、仲間の装甲車は跡形もなく破壊され、火を噴き上げていた。
そして、四方八方に逃げる装甲車にも攻撃魔法が降り注ぎ、次々と破壊されていた。
「相手は本気のようだ。今は見つからないように隠れる。夜になったら撤退再開だ。
今のうちに休むように」
「はっ」
そうして俺達は手頃な大きさの洞窟に装甲車を隠し、夜が来るのを待った。
幸いにもこの装甲車には暗視装置が付いているから、闇の中での行動に問題はない。
これなら敵に見つかることなく行動出来る。
そう思っていたのだが……
「両手を上げなさい。動いたら命はないわよ」
……どうやら敵も馬鹿ではないようだ。
「分かった。分かったから命だけはお助けを……!」
立て続けに、俺達のものではない声が聞こえた。
どうやら俺達はまだ見つかっていないようだった。
見つかりそうな恐怖が俺を、俺達を襲う。
そして、人の気配が消えてからも俺達は慎重に行動する羽目になった。
なんとか一週間かけてイストリアに入っても、今度はローザニアに攻め込まれ、帝国が講和を申し出るまで恐怖の日々は続いた。
42
お気に入りに追加
5,333
あなたにおすすめの小説

侯爵家のお飾り妻をやめたら、王太子様からの溺愛が始まりました。
二位関りをん
恋愛
子爵令嬢メアリーが侯爵家当主ウィルソンに嫁いで、はや1年。その間挨拶くらいしか会話は無く、夜の営みも無かった。
そんな中ウィルソンから子供が出来たと語る男爵令嬢アンナを愛人として迎えたいと言われたメアリーはショックを受ける。しかもアンナはウィルソンにメアリーを陥れる嘘を付き、ウィルソンはそれを信じていたのだった。
ある日、色々あって職業案内所へ訪れたメアリーは秒速で王宮の女官に合格。結婚生活は1年を過ぎ、離婚成立の条件も整っていたため、メアリーは思い切ってウィルソンに離婚届をつきつけた。
そして王宮の女官になったメアリーは、王太子レアードからある提案を受けて……?
※世界観などゆるゆるです。温かい目で見てください

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
恋愛
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す
おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」
鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。
え?悲しくないのかですって?
そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー
◇よくある婚約破棄
◇元サヤはないです
◇タグは増えたりします
◇薬物などの危険物が少し登場します
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲
辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~
紫月 由良
恋愛
辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。
魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。
※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います
ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」
公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。
本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか?
義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。
不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます!
この作品は小説家になろうでも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる